サンスイのアンプ、AU-α555VSの修理とレビューの記事です。
行きつけのハードオフにて入手。ジャンクコーナーにサンスイのアンプがあったのは初めてなので(サンスイアンプはジャンクでも高く売れるからか、ジャンク扱いにせず動作品の中古コーナーに置いてあることが多い)、ちょっと驚きつつ衝動買いしてきました。価格は強気の税抜5000円。まあ許容範囲でしょう。故障内容は右の音が出ないとのこと。
サンスイのビデオセレクタ付き2chプリメインアンプです。その時代のサンスイらしい艶ありパネルで、高さのあるゴツい外観ですが、ダイヤモンド差動回路は搭載されていません。ビデオセレクタ搭載以外は凡庸な構成のアンプです。
※ 本記事で言及されるスペック等の情報は、オーディオの足跡様の当該ページ(Sansui AU-α555VS)に準じています。
修理
修理の詳細です。
掃除
購入時点で今までにないくらい汚かったので、まず掃除しました。
特にフロントパネルが鏡面に近い仕上げなので、非常に汚れが目立ちます。それにしても、ここまで汚いものを売りに行く人も、掃除もせずに陳列する店もイマイチ理解できないところがあります。安く売るジャンクに手間をかけられないのはわかりますが、せめて簡単に水拭きくらいはしてほしいものです。
…まあ、掃除したときの爽快感があるので、それはそれで良いのですが。
いつもとやや異なる環境で作業したため、これ以上の掃除写真はありません。掃除後の外観は外観・仕上げ等の節で確認してください。
分解
このアンプは分解がなかなか面倒です。ケーブルが多い。コネクタで脱着できるものが多いのはまだマシですが。
カバーを取るとこうなっています。ビデオセレクタが付いているだけのプリメインアンプのはずですが、妙にケーブルが多い。中身がスカスカなのはそれらしい部分ですが、ケーブルのごちゃつき具合は下手な7chのAVアンプよりひどいかもしれません。
メインアンプ基板はところどころ焼けています。
サンスイアンプは初段や2段目にかなり多く電流を流しているので、そのあたりの抵抗の発熱が大きいようです。近くにある電解コンデンサは確実に死んでいるでしょう。
また、右の大きめの電解コンデンサは電圧段の電源デカップリング用ですが、なぜか被覆にシワが寄っています。
観察はほどほどにして、分解していきます。
まず、フロントパネルを取り外します。ツマミ類を全て外した(引っ張れば外れます)後、上下面にある留めネジを外せば外れます。このとき、入力切替用のケーブルを入力基板から取り外す必要があります。
本体を分解するには、コネクタを全て外し、可能な限り基板どうしを切り離すのが良いと思います。メインアンプ部だけでも6つコネクタがあります。
コネクタは間違って接続されるようにはできていないように見えますが、念のため、どの基板に挿すコネクタなのかタグのようなものを付けると安全です。筆者はマスキングテープを巻いて油性マジックで文字を書き、タグ付けしています。
後ろにはアースをまとめている部分があります。この部分も取り外しておきます。
アース線は電源、メインアンプ、入力基板の3つから出ています。
次は背面パネルを外したいのですが、ジャック用のネジが多すぎて面倒です。
背面を外すと、スピーカーターミナルとメインアンプ基板がある程度自由になります。
なお、電源トランス・電源基板・メインアンプ基板・スピーカーターミナル基板はハンダ付けのケーブルが何本かずつあり、容易には取り外せません。
電源入力周りはこう。
電源ケーブルは交換しました(後述)。
また、トランスは紙シールの上からワニスが塗ってあるので、ガシガシとアルコールで拭いておきました。
次に、ビデオセレクタ・入力基板を外します。
あとは前面パネルを外し、前面基板を取り外せば、スイッチなどの故障していそうな部分を修理できるようになります。
リレーの接点磨き
リレーの接点を磨きます。面倒な場合は交換する方が効率的です。
なお、ハイエンド帯の大出力アンプの場合、リレー接点で発生する熱の影響で接点や導通部の物性が変化していることもあり、交換する他ないこともあるようですが、このアンプ程度なら問題はないでしょう。
リレーは出力基板に付いています。
ターミナルを外すと、リレーなどの部品が現れます。スピーカー出力リレーは定番のDECで、ヘッドホン用リレーは富士通です。
このリレーを取り外し、接点を磨きました。そのビフォーアフターが次の画像です。言うまでもなく、左がビフォー、右がアフターです。
このリレー、2接点式なのは良いのですが、かなり深く酸化していたようで、なかなかキレイになりませんでした。このリレーのカタログによると、接点は金銀クラッドで、色味を見るに金が表面側のようなのですが…。
ともあれ、きちんと導通するようになりました。音が出ない原因はこのリレーだったのではないかと思います。
スイッチの接点磨き
スイッチ類を基板から取り外し、接点を磨きます。
これが今回のメニューです。
まずはソースダイレクト切替ロータリースイッチから。このタイプは密閉度が著しく低いので、ひどく酸化しているものが多い。見つけたら絶対にメンテナンスしておきたいスイッチです。
次は小さいスイッチ類。これもなかなか黒々とした接点です。プラ筐体なので分解が容易なのは良いのですが、組み立てるのが難しい。スプリングを押し込めるのにコツが要ります。
大きめのスイッチはこんな感じ。そこまでひどくはなく、接点不良にはなっていなさそうですが、半端にまだらなのがむしろ汚く見えます。
これら全てを磨きました。1つだけ次の写真に写っていないものがありますが、なぜかフレーム内に入れ忘れただけです。
あとは接点グリスを塗って戻すだけ。
今回、接点グリスを新調しました。今までは「ラジ四駆接点グリス」なる廃盤品を使っていましたが、使いきったので、現行のものを買いました。
これ、用途の割にあまりにも大きい。この調子で使えば一生持ちそうです。また、今まで使っていた「ラジ四駆~」より粘度が低く、ベチャベチャしています。まあ、接点を保護してくれる油分と潤滑性があれば何でもいいので、細かいことは気にしません。
メインアンプ電源コネクタ磨き
メインアンプ用の電源コネクタが酸化していたので、磨きました。これもなかなか手ごわい。
導通が改善したのかはわかりませんが、挿すときの感触がぬるっとした感じになりました。
入力端子清掃
入出力を全てキレイにしました。音声系から映像系まで例外なくやりました。全てはんだ付けを外すのが非ッ常に面倒で、しかも端子がやたら強固に基板に取り付けられていて、外すのがあまりにも面倒でした。
清掃後のものは外観・仕上げ等の節で確認してください。
電源ケーブル交換
このアンプに付属の電源ケーブルの被覆が劣化しており、硬化していたので、交換しました。
電源ケーブルは70年代のものはほとんどが硬化しており、80年代はギリギリ、90年代以降になると露骨な劣化は見られないものが多いのですが、このアンプはひどく劣化していました。全体的にコンディションが悪い個体です。
なお、筆者が電源ケーブルを交換する場合は、ストックしてある長尺のケーブルを元から付いていたものと同じ長さに切り、パナソニックのプラグを付けています。
(筆者が無メッキ好きなのでこのプラグを使っているという情報は内緒です。)
メインアンプ基板の確認
メインアンプ基板を確認します。
まずは裏面。特に割れているはんだ等はなさそうですが、全体的にケチはんだ気味なので、マズそうなところは盛っておきました。
はんだを盛って低インピーダンス化を図っている部分が多い。でも他の部分はケチケチしています。そのハンダを少し分けて、全面的にしっかりはんだを盛ってほしいものです。
部品はとりあえず、発熱の多い抵抗の近くの電解コンデンサのみチェックしました。結果は当然のようにアウト。100uFのはずなのに、数pFとしてしか認識しませんでした。これはツェナーのノイズ除去用コンデンサなので、ショートモードで故障していないのならば、とりあえずは放っておいても動作に支障はないはずです。
これはもちろん交換する予定ですが、暫定的に本記事を公開しています。
また、DC調整用とアイドリング用の半固定抵抗を交換しました。DC用が100Ω、アイドリング用が1kΩです。
DC調整用のもの(青黃もの)は東京コスモス電機製。誤差は10%のはずですが、日本メーカーらしく無駄に高精度で、ピッタリ100Ωです。
アイドリング用はAmazonで買った中華製の怪しいものです。一種あたり5個ずつ入っており、多くの種類(抵抗値)が同梱されているもの。精度が悪く、10%では済まない誤差があります。しかし、こっちは片側をワイパとショートして使うので、抵抗値がだいたい合っていて、かつ回して抵抗値が変われば何でもよいはず。
これが交換した半固定抵抗です。80年代くらいのアンプでよくあるタイプ。
とりあえずの修理は以上です。この部分は今後更新される可能性が高い。
組み立て・動作確認
おおむね問題がありそうなところは対処したので、組み立てて動作確認します。電解コンデンサの交換は後日。分解の逆順に組み立てるだけですが、ケーブル類が多く取り回しに気を遣います。
動作確認をしようと電源を投入すると、数秒でプロテクションがかかります。試しに出力のDCを見ると、1Vくらいありました。慌ててDC調整を行ったところ、プロテクションは作動しなくなり、正常動作できそうです。
改めて、細かくDC調整およびアイドリング調整を行います。これ、どちらも異様なほどシビアです。半固定抵抗を回した感覚を得た瞬間に、最適なポイントから大幅に外れていきます。じわっと力をかけて様子を見るしかありません。特にDC調整はタチが悪い。回した瞬間、突然DCが盛大に漏れ、プロテクションがかかります。
どちらも多回転タイプに変更するのが無難です。この個体もコンデンサ等の交換と一緒に多回転にするかもしれません。
一通り調整を終えたので、音出し確認します。結果はOK。普通に音が出ました。まだ修理が完了したとは言えませんが、とりあえずこの状態で使い、そのレビューを以下に記しています。
その他
このアンプのメインアンプ部の回路構成は、初段がカスコードなしのNch FET差動、2段目はNPN差動で、3段目が2段目から両側の出力を取り出し、プッシュプルとしたカスコードブートストラップのエミッタ接地です。出力は3段ダーリントン(詳細はサービスマニュアルが容易に手に入るのでそちらを参照)。電圧段の3段目が気になるところで、ここでカスコード化して2石増やすならば、2段目をダイヤモンド差動化した方が訴求力のある商品になったのではないか、という考えが頭をよぎります。
むしろ、ダイヤモンド差動回路が自信作すぎて(音が良すぎて?)、半端なアンプには搭載できなかったのかもしれません。モデル間の性能差を保つことは、販売戦略上非常に重要と思います。
修理 総括
ケーブルが多く分解・組み立てが面倒なアンプです。メインアンプ基板を取り出すだけなら手間ではない…とかなら良かったのですが、そういうことはありません。メンテナンス性は良くないアンプと思います。
この個体に関しては、とにかく汚く、各部の酸化がひどい印象でした。ここまで根が深い酸化膜に覆われたアンプは見たことがありません。特にリレーの接点はひどく、酸化膜の除去にいつもの数倍は時間がかかりました。
外観・仕上げ等
外観や仕上げについてのレビューです。
前面
前面。その世代のサンスイの統一されたデザインです。このような微妙なモデルから、607や907に至るまでほぼ同じデザインをしていたようです。
上半分は黒の光沢仕上げで、写真を撮るのが難しい。光沢感を出しつつ、余計なものが写り込まないようにするのはなかなか難しいものです。
厚みがあり、重厚感のあるバランスです。それでいてしっかりフルサイズで、幅は430mmあります。大きめなアンプです。
下半分はパイオニアのA-535に似ているような気もします。ちょうど同年代のアンプなので、その時代の流行りだったのかもしれません。
灯火類
電源や入力切替はこのように光ります。中身はLEDですが、白いラッパ状の反射板がついており、線状に光るようになっています。
オレンジに光るのがとても良い。オーディオ機器には落ち着いたオレンジが最も合うと思っているのですが、実際にオレンジに光るものはあまりありません。
背面
背面。入出力端子類があります。
入出力は、音声系と映像系を合わせて10系統もあります。これらを全て同時に接続することはまずないでしょう。アンプのグレードがあまり高くない割に入出力が豊富で、どういう層を狙って作られたのかよくわからない感じもあります。
スピーカーターミナルはバナナ非対応の大きめなタイプ。90年代以降になるとバナナ対応のものが増えてくる感覚がありますが、89年発売のこのモデルはまだのようです。
入出力端子は全て洗浄したので、新品のようにキレイです。
背面のネジは全て銅メッキ。銅メッキビスは振動を吸収しやすいので採用している、などと聞いたことがあります。本当かどうか、あるいはその理屈が正しいのかは知りません。
外観 総評
厚みのある筐体に光沢仕上げなど、凄みのあるデザインです。LEDの色や光り方に高級感もあります。
音について
音についてのレビューです。まだ修理完了しておらず、部品が交換される可能性があるため、暫定的なものです。
詳細
全体的にはやや低音が強いように感じますが、フラットな音だが低音の力強さがある、という方が適切かもしれません。露骨に低音寄りではありません。
艶感と濃さを併せ持つような独特の音です。クセがあるとも言えますが、それよりも、噂に聞く「サンスイの音」という感じがあります。サンスイは素直なモニター調という概念を忘れたような、とにかく音楽の持つ熱を伝える濃い音だという話を聞いています。これは高級モデルではないからか、とにかく濃いというほどに色付けは感じないのですが、その片鱗は十分に感じられます。
大げさとか豪華という感じの音で、必要十分な音を淡々と出す感じではありません。熱っぽい音と言ってもよい。必要以上の情熱を捏造している感覚すらあります。擬人化するならば、動けるデブでしょうか。なにか贅肉が付いた感じはしますが、帯域バランスや駆動力などの基礎体力は優れている。
空間表現は定位重視に感じます。音場は狭めですが、密度感が高く濃い。特に立体感が素晴らしく、彫りが深い感覚があります。そこらのアンプと比べると、浮き彫りと彫刻くらいの違いに感じるほどです。しかし、音がしゃしゃり出てくるような感覚もなく、押し付けがましいとは感じません。それでいて上記のように熱を感じる音です。不思議なサンスイワールドを感じます。
音について まとめ
熱を感じる独特の音です。人を選ぶ音とは思いますが、ハマる人にはハマるタイプでしょう。人気が衰えないことに納得感があります。
古臭い音だと評する声もあるようですが、現代アンプに個性がないだけかもしれません。現代的なD級アンプなども聴いたことがありますが、魂が宿っていないというか、イマイチだと思いました。音が鳴っているだけというか。
とにかく、このアンプは魂を感じる音であることに間違いありません。それが好みかどうかはまた別の話です。筆者は結構好みです。
機能性・操作性
操作性や機能性についてのレビューです。
機能性
機能性は良い。多機能化しがちな90年代周辺のアンプらしく、機能が比較的多い。
ビデオ入力を切り替えられます。これはこの機種の目玉の1つでしょう。映像はS端子とRCAに対応。さすがに現代では使い物になりません。
アンプとして標準的な機能の他に、ミューティングや録音出力切替、MM/MCカートリッジ両対応など、細かいところに手が届く機能があります。
操作性
操作性は良い。サラウンドアンプでない限り操作性が悪いものはなさそうですが。
特にメインボリュームが大きいのは良い。いかにもアンプというデザインになるうえ、大きいので細かい操作もしやすい。
その他の部分も配慮されているように感じます。よく操作しそうなスイッチは操作しやすい位置にある気がします。
新品時はリモコンが付属していたようですが、同梱されませんでした。ジャンクアンプではありがちです。まあ、入力切替とボリュームしか操作できないようなので、必要かどうかと言われると微妙ですが。
総評
凄みのある大型筐体と仕上げで、それらしい独特な音を出すアンプです。ランプの高級感もあり、これ1台で完結するサンスイワールドが全開です。
ビデオセレクタは使わない(使えない)のでもったいない感じもありますが、そのようなモデルでもしっかりサンスイの音がするので満足感があります。
まだ修理完了していないので、完了したときにどのような変化が起きるのかも楽しみなところではあります。
[以下、蛇足]
現代で似たコンセプトのものはマランツのNR1200がベストセラーですが、HDMIが標準的なビデオ規格になってからずいぶんと時間が経って登場した印象があります。似たようなものは昔からあるのに、このNR1200が登場してから、ちょうどよいニーズの製品だともてはやされたのは、オーディオ機器の在り方の変遷が理由かもしれません。現代では特にオーディオビジュアル用途において、サウンドバーなどの一体化やコンパクト化が進んだものが売れ筋で(家電はどんなものでもそうなる運命ですが)、もはやまともにアンプとスピーカーを買って接続するようなオーディオ環境を構築するだけでマニア感が強くなります。つまり、単体アンプの需要がマニア寄りあるいは2chオーディオ寄りすぎて、こんなビデオセレクタ付きのものが売れるのか、とメーカー側も二の足を踏んでいた可能性があります。そのような状態でNR1200だけが発売されたものだから、そのようなものが欲しい人が選択肢もなくそれを買うしかないので、圧倒的ベストセラーになったのではないかと予想してみました。
本記事の内容は以上です。
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