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Aurex SB-220の修理・レビュー

Aurex(東芝)のアンプ、SB-220の修理とレビューです。

いつものように、ハードオフでジャンク品をサルベージしたもの。筆者のジャンクアンプでは古参のものです(おそらくVictor A-X5の次くらいに入手)。動作確認済みで普通の中古コーナーに売っていましたが、買ってみるとレシートにジャンクと書かれていた悲しい境遇の持ち主です。値段は税抜き3000円。

Aurexブランドのエントリー機のようです。「ハイパワーを追求せずに音質を磨き抜く」などと宣伝されていた様子。回路構成も古風で、よく知った回路で適切にチューニングしたのかもしれません。

※ 本記事に記載のスペック等の情報は、オーディオの足跡様の当該ページ(Aurex SB-220)に準じています。

修理

かなり前に入手したアンプなので、修理中の写真がありません。

故障内容

買い取り時に動作確認済みなので、音は一応出たのですが、次の問題がありました。

  • 汚い
  • ボリュームのガリ
  • スイッチのガリ
  • 無負荷時でも出力トランジスタが異常に発熱

基本的にいつもの感じですが、異常発熱についてはバイアス付近に問題がありそうなので、そのあたりを修理します。

掃除

分解して各部品を掃除します。特に外装部品は分厚くヤニコーティングされていたので、非常に爽快だった記憶があります。

ボリュームのガリとり

ボリュームのガリを取り除くように努力します。これを購入した当時はまだ技術が未熟だったため、闇雲に接点復活剤を流し込んでおり、回転がゆるゆるになってしまっています。

現在はおおむね、ガリを追放しつつ回転もゆるくならず、かつ抵抗体に与えるダメージの少ない方法を習得しつつありますが、ボリュームの処理については未だに最適解が得られていません。交換するのが最も確実で早いのですが、合うものがなかなか入手できないので、難儀なものです。

スイッチのガリとり

スイッチを全て取り外し、分解掃除します。

詳細はTRIO KA-3300修理記事のスイッチ分解掃除が近いでしょう。

異常発熱の修理

出力トランジスタが異常に発熱しているようなので、修理します。電源投入後すぐに、ヒートシンクが触れないほど熱くなり、臭いもします。そのまましばらく運転しても(真似しないほうがいい気がします)問題は起きないので、熱暴走はしていないようです。

原因はバイアス回路の問題によってアイドリング電流が多すぎることでした。アイドリング調整用の半固定抵抗をいじってみるも、特に変化がありません。つまり、その半固定抵抗が故障していますので、交換しました。これで発熱は極めて少なくなりました。

なお、半固定抵抗の片側とワイパがショートするようになっていませんので、そのように改造するのが安全です(下図)。そのままでは半固定抵抗のワイパが故障でオープンになったとき、非常に大きなアイドリング電流が流れ続け、出力トランジスタが破壊されます。買い取り時点ではその一歩手前だったかもしれません。

半固定抵抗付近の改良

電解コンデンサの交換

ほぼ全ての電解コンデンサを交換しました。元はマルコンの一般用と思われるものでしたので、日本ケミコンKMGに交換しました。本当はSMGが良かったのですが、KMGの方が入手が容易だったので…
(同じ種類の85℃品と105℃品では、85℃の方が音が良いという話も聞きます。)

単電源式アンプは何かと電解コンデンサを使うので、数は多めです。

ちなみに、これらのコンデンサの容量を全て測ったところ、おおむね定格の1.3~1.5倍くらいに肥大化していました。

交換した部品

なお、画像下の2つのものは元から付いていた半固定抵抗です。このタイプの半固定抵抗は70年代のエントリー機などによく付いていますが、例外なく故障しているので、見つけ次第早急に交換することが推奨されます。

交換後の基板はこのようになりました。

電解コンデンサ交換後

電源ケーブル交換

他のアンプ修理記事では忘れていて書いていませんが、基本的に80年代以前くらいのアンプを修理した際には電源ケーブルを交換しています。

古いアンプの電源ケーブルは被覆が硬化しており、今にも割れそうなものがあったりします。電源ケーブルでショートされるとヒューズも効かないので、予防が重要と思います。

回路図

このアンプのサービスマニュアルを入手できなかったので、自分で起こした回路図(フォノイコ部以外)を掲載します。ただし、間違っている可能性は高い。特に抵抗はかなり怪しいと思います。経年劣化でかすれ気味のカラーコードを読んでいるので、赤と橙の区別がほとんどつかなかったりします。

SB-220 回路図

画像はクリック(タップ)で拡大できます。それでも少しズームするとガビガビになるので、PDF版も用意しています

プリアンプ部はエミッタ接地を2段用いて、段間をコンデンサ結合しています。

メインアンプ(パワーアンプ)部はエミッタ接地を2段直結し、出力段に2段ダーリントンプッシュプルエミッタフォロワを据えたもの。エミッタ接地を2段とすると、初段のエミッタを負入力とみなして帰還をかけられます。

入力段はPNPで、出力から帰還させると同時にエミッタ電圧をもらうタイプです。電源リプルに考慮したバイアス回路が付いています(当たり前ですが)。
次段はNPNで、エミッタを直接接地しています。この段で裸利得のほとんど全てを生み出しているはずです。
出力は2段ダーリントンです。

メインアンプの帰還部にトーンコントロールを設けず、しかも29dB(28倍)程度の低ゲインに仕上げています。パワー部とプリ部が独立している豪華な構成です。パワー部の仕上がりゲインが低いと、歪率改善に効果があります。このあたりが「ハイパワーを追求せずに音質を磨き抜く」ことの根拠なのかもしれません。

ちなみに、基板の裏側のパターンが手描きのようで部品が刺さっている方向がわかりにくい、部品の印刷もない状態だったため、回路図を起こすのはちょっと大変でした。

基板 裏

修理 総括

基本的にはメンテナンスしただけのようなものですが、半固定抵抗が故障しやすいという知見が得られました。その後の修理やメンテナンスでは、少しでも怪しい半固定抵抗は全て交換することにしています。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

前面

前面

前面。70年代のアンプらしい、ややとっちらかったレイアウトです。

仕上げ

前面パネルは肉厚のアルミ製。さらに、文字の部分がくぼんでおり(打刻?)、それに墨を流し込んであります。非常に重厚で高級感のある仕上げです。

ツマミやボタン類はこれまた肉厚のアルミ。昔のものは重厚感が素晴らしい。

その他は鉄板を板金したもの。外装カバーは四面がつながったもので、上面・底面・横面は全て一体になっています。わざわざこの構造を採用する必要性があったのでしょうか。

上面

上面

上面。背面コネクタの表示、放熱孔、謎の説明とブロック図があります。

背面コネクタの表示は便利です。これはもっと流行ってもよかったと思います。

謎の説明とブロック図は、このアンプをコンピュータの用いて検査した云々と書いてあります。新品時は個体ごとに計測データが添付されていたらしい。廉価アンプとは思えないサービスです。
そこに書かれているCADIS (Computer Aided Data Inspection System)は、直訳すればコンピュータ援用検査システムであり、まさにそのことを指しています。アンプの回路に付けた名前などではないようです。

背面

背面

背面。入出力端子が並びます。

入力はいつものラインナップで、フォノ・テープ・AUXです。ただ、テープ入出力のところにあるDINコネクタがどういう用途かわかりません。テープが2系統切り替えられるわけではないので、2系統目のテープ入出力ではないと思うのですが。

スピーカー出力はネジ止め式で、ケーブルを通すガイドなどはないタイプです。Y端子ならば素早く脱着できてより便利ですが、裸線でも使い勝手が悪いとは思いません。
ただし、コネクタが混み合っていてスペースの余裕がないので、2系統どちらも使う場合はごちゃごちゃになってしまいます。

その他

電源ランプは電源直結ではなく、電源スイッチの2系統目でわざわざ切り替えています。つまり、電源をオフにすると瞬時に消えます。
(普通のアンプは電源直結のため、電源のコンデンサが放電するのに合わせてじわっと消えていきます。)

開発者はじわっと消えるのがどうしても許せなかったのかもしれません。実は細かいこだわりを詰めた面白いアンプなのかも。

外観 総評

70年代らしい外観と重厚感です。ただ、高さがやや控えめでスリムな印象もあります。

上面に背面端子の詳細が書いてあるのは、もっと流行ってもよいと思います。

音について

音についてのレビューです。

詳細

全体的にはピラミッドバランス。温かみのある、いかにも古いアンプ、という音です。聴きやすく、リラックスできる音でもあります。

低域は押し出しが強く、量が多め。出力がコンデンサ結合なので、低音は弱めなのかと勝手に想像したりもしましたが、実際強め。しかし、そこまで締まっているでもなく、柔らかめの低音です。

中域は厚みがあり、解像感も良い。このあたりがパワーを求めずに音質を追求した、ということへの納得感があります。

高域はやや控えめながら、質は良い。以外にもシルキーな質感で、アタック感は弱いが余韻などは繊細に再現してきます。なかなか生意気な奴です。

全体では、しっかり腰が据わっているというか、地に足が付いている音であり、どっしりした安心感があります。雰囲気は昔の感じですが、質は高く、現代でも通用する音と思います。廃れて久しい回路構成からは想像できない音です。

空間表現は定位感が良く、特にセンターはバキッと定位してきます。音場はそこまで広くないものの、狭くもない感じ。普通です。

音について まとめ

温かみがあり腰が据わっている音で、質が良い。昔に廃れた回路とは思えないほど。

「ハイパワーを追求せずに音質を磨き抜く」という文句がまったく腐っていません。恐るべし。

機能性・操作性

機能性や操作性についてのレビューです。

機能性

機能性は普通。アンプに必要な機能は全てありますが、余計なお節介機能もないシンプルな仕様です。

操作性

操作性は素晴らしい。ツマミには滑り止めの梨地部分が付いており、実際に滑りにくくなっています。さらに、やや操作感が固いロータリースイッチは、より力をかけやすいツマミの形状をしています。他のアンプでツマミが滑るとかロータリースイッチは固くて回しにくいと感じたことはありませんが、いざこのアンプを使うと、素晴らしいと感じます。

総評

重厚な外観で腰が据わった音を出すアンプ。随所に細かいこだわりも感じられ、職人の妙技が光るようなものです。

凝った回路でないと良い音が出ないと考えているなら、このアンプで聴いてみるのがよいでしょう。出力にコンデンサが付いていて差動入力ですらないアンプですが、確実な音楽性があります。

70年代のアンプは魂が込もっている感じがあります。それ以降の時代のアンプより面白い音のものが多い。良くも悪くも個性があります。

本記事の内容は以上です。

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