アンプ・DACアンプ(スピーカー)

Victor A-X5のメンテナンス・レビュー

Victorのアンプ、A-X5のメンテナンスとレビューです。

ハードオフでジャンクをサルベージしたもの。一応動作確認済みで、普通の中古アンプコーナーに売っていたのに、いざ購入したらレシートにジャンクと書かれていた悲しいアンプです(値札には特にジャンクとは書かれていなかったような…)。値段はやや強気の税抜き3000円でした。ちなみに、このアンプは筆者がジャンクオーディオを始めるきっかけになったもので、最古参のジャンクアンプです。チマチマと手を入れ続けて今に至ります。

入力信号に応じてパワー段のバイアスを変化させ、スイッチング歪みの低減を試みた「疑似A級」とでも言うべき回路、Super-Aを搭載したアンプです。この方式は90年代くらいまで各社で使用されたようですが(もちろん、名前は会社ごとに異なります)、そのはじまりのモデルがこのA-X5であるという話も聞きます。日本のオーディオ界のマイルストーンのひとつかもしれません。

※ 本記事に記載のスペック等の情報は、オーディオの足跡様の当該記事に準じています。

メンテナンス

メンテナンスの詳細です。

メンテナンス方針の決定(後付け)

メンテナンス方針を決定します…と言っても、初めて買ったジャンクアンプなので、右も左もわからない状態で始め、その後も手を入れ続けたものですから、最終的にこのようなメンテナンスをしたという後付け情報にしかなりません。

購入直後は動作OKということを信じて、そのまま使用してみましたが、スピーカー切り替え時などにポップノイズがありました。これはDC漏れによるものです。初段にDC調整用の半固定抵抗がありますので、それを調整します。

アイドリングはもちろん確認します。

全体的に電解コンデンサが異様なほど少ないので、ほぼ全て交換します。

スイッチ類も劣化しているはずなので、洗浄します。リレーも同様。

背面の入出力端子類が酸化しているので、きれいにします。

底面パネルの酸化がそれなりに進行しているので、塗装します。

部品交換

主に電解コンデンサを交換しました。諸事情により、コンデンサは全て日本ケミコンKMGを使用。本当はSMGが欲しかったのですが、入手は容易でなさそうでした。
パワー段のブロックコンは54V 6800μFという絶妙に売っていない容量・耐圧ですし、外して試験しても容量肥大・減少はなし、ESR等での劣化もなかったので、そのまま使用することにしました。
なお、元から付いていた電解コンデンサは主にTOWAと書いてあるもの(東京エレクトロンだとか富士通だとか、はたまた他のメーカー製だという情報があります。謎)で、一部にエルナーのものが使用されていました。

DC調整用の半固定抵抗も念のため交換しておきました。バイアス用のものは故障していないので、そのまま使います。

スイッチ・リレーの洗浄

スイッチ

スイッチの接点を復活させます。

このアンプは次の写真のように、非常にスイッチが多いので、必要そうな部分だけ洗浄します。なお、底面シャーシが黒いのは塗装したからです。元はユニクロメッキで虹色がかった金色(?)でした。

スイッチ その1(フォノイコ基板)
スイッチ その2 (電圧増幅段基板)

ちなみに、電圧段のヒートシンクが付いているトランジスタは電源の安定化用です。このヒートシンクはトランジスタのコレクタと導通しており、アースされていませんので、60V程度の電圧がかかっています。つまり、触れると感電します。濡れたりしていない状態で、人体が接触して許容されうる電圧が50Vとされているようなので、60Vは十分に死に至る可能性のある電圧です。近くにDC調整用の半固定抵抗があるという罠もあります。

それはそれとして、スイッチを全て取り外し、洗浄します。上の写真のスイッチだけでなく、入力切替用のものももちろん洗浄しました。

スイッチ分解中

スイッチは全体的に接点が多く、やっていて嫌になる作業量です。しかも、接点がハウジングから分離できない構造なので、かなり面倒でした。

リレー

リレーはオムロン製で、あまり見ない形をしています。

リレー

可動する側の接点が2本ついており、信頼性が高く接点抵抗が低そうです。

分解したものがこちら。これは接点を磨いた後の写真だと思いますが、あまり記憶にありません。

分解後

各種調整

出力のDCやアイドリング電流を調整します。これはサービスマニュアルの通りに行いました。
サービスマニュアルは海外のサイトから入手できます。海外でのブランド名で検索するのがコツです。この場合、「JVC A-X5 Service Manual」で検索すればよい。

しかし、出力のDCドリフトは結構あります。電源投入直後はほとんどゼロですが、時間が経つと確実にポップノイズが感じられる程度にはDCが漏れます。DCアンプなので仕方がないことではありますが。

内部の写真

カバーを開けるとこのようになっています。

内部

無骨な電源トランス、4本もブロックコンがそびえ立つパワー段基板、裏向きのフォノイコライザー・電圧段基板など、なかなか特徴的です。この構造とワイヤラッピングの多用によって、分解するのが極めて面倒。

初段から電圧増幅段とパワー段は基板が独立しており、電源も別です。豪華な仕様ですが、電圧段からパワー段までの配線がトランス近くを通っており、ノイズ等混入のおそれがあるのではないかと思わないでもない。電圧段は出力インピーダンスが低くないので、ノイズに弱い気もします。

フォノイコ基板と電圧段基板が裏向きなのは、正面のスイッチ類をシャーシ下部にまとめたかったからでしょう。

次の写真は、パワー段基板のアップです。

パワー段基板

これだけでアンプの全てができそうなほど大量に小型のトランジスタが鎮座していますが、これはほぼ全てバイアス用(つまりSuper-A回路)です。後にIC化されたようですが、ディスクリートで組むと大変な規模になるようです。

出力トランジスタは富士通の2SC2525/2SA1075です。トランジション周波数fTが高いのが特徴の高出力電流トランジスタ。これをどう思うかは人によって違いそうです。

回路構成はなかなか凝っていて、電圧段は3段差動です。初段がNch J-FET上側差動でカスコード、2段目がNPNの上側差動(ここだけカスコードなし)、3段目がPNP差動カスコードで、カレントミラー負荷です。バイアスはSuper-A、出力は3段ダーリントンです。発振安定性を保つのが大変そうなので、自分では作りたくない構成です。

メンテナンス 総括

電解コンデンサ交換にスイッチやリレーの掃除など、ごく一般的なメンテナンスをした感じがあります。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

前面

前面

前面。縦長のスイッチ類と大型のボリュームが特徴的。

トーンコントロールなどの細かい機能は、下部のドア内に収まっています。そのおかげですっきりとした外観で、古さを感じません。

大型のボリュームはフロントパネルとのギャップがなく、しかもなめらかに回ります。これだけで高級感がかなりあります。
なお、その仕掛けは、フロントパネルとボリュームの間に滑りやすい材質のプラスチックシートを挟んでいるだけです。

仕上げ

フロントパネルやボリューム、ドアはアルミ製。やや粗めの凹凸があり、つや消し仕上げです。その他の部品は基本的に鉄板を板金したもの。

スイッチのガワはプラスチック製でメッキ仕上げですが、メッキが厚いのか、安っぽくは見えません。

正面アップ/ドア内

正面アップ・ドア内1
正面アップ・ドア内2

ドアを開くと、細かい機能にアクセスできます。かなり多機能なアンプです。テープ入出力が前に付いているのは意外に便利かもしれません。

スイッチの周りのプラスチックがアイボリーで、そこに注目してしまうとダサく感じてしまいます。あるいは、新品時は無彩色のグレーだったが経年劣化で黄ばんだ可能性もあります。

本体に印字されている文字のフォントのセンスが良い。

背面

背面

背面。

フォノ入力は2系統ありますが、片方はショートプラグが付いています。ショートプラグの取り扱いについての注意書きが挟んであるのもそのままにしています。

スピーカー端子は細いケーブルしか対応していないタイプです。単線なら1.6mm、より線なら1.25sq程度でちょうどよい感じ。それ以上はギリギリになるか入らないと思います。少なくとも、1.25sqを2本まとめると入りませんでした。

電源入力はインレット式になっていますが、これは諸事情により筆者が改造しました。

上面のカバーに広く放熱口が開いており、放熱性が高そうです。

外観 総評

スッキリとしていて古さを感じさせないデザインです。70年代の重厚感を持ち合わせながら、80年代の熟成感に到達した感じ。79年発売のようなので、まさにそんな感じなのかもしれません。

90年代にもドア付きのデザインが流行りますが、それよりもかなり上品です。変な丸さがなくて良い。

音について

音についてのレビューです。

詳細

音はピラミッド系…というほど低音寄りでもないのですが、やや高域が薄めで低域がしっかり出るので、おおむねピラミッド型に属する感じ。

低域は締まりがあり、音に殴られるような衝撃も出せます。暴力的とすら言える低域です。これは完全DCアンプのためかもしれないし、電源の低インピーダンス化が効いている可能性もあります。

中域は艶がある感じで、非常にリアルです。Super-Aの効果が出ているのかもしれません(?)。このあたりはビクターの方向性なのでしょう。クルトミューラーコーンを採用し中域が絶品のスピーカーも発売されていましたからね。

この中域が幸いしてか、元気の良い音であり、ボーカルものなどは一緒に歌いたくなるほどです。そういう面では、音楽の魅力をよく引き出してくれるアンプとも言えます。

高域は決して悪くはないのですが、どうもヌケが悪いというか、なにかスカッとしていない感覚があります。及第点ではあるのですが、アピールポイントになるほどにクオリティにはなっていない。

空間表現は定位重視に感じます。定位は抜群だが音場が狭め。
定位は非常に良いと思います。全ての音がすっきり整理され、きちんとあるべきところに置いてある感じ。

音について まとめ

ピラミッドバランスというよりは、やや高域が薄く他はフラットな感じ。衝撃的な低域に着目しがちですが、全体的には中域を聴かせてくるアンプです。

機能性・操作性

機能性や操作性についてのレビューです。

機能性

機能性は高い。必要以上なほどに機能があります。あまり見ない機能のみを以下に列挙します。

ミュート機能があります。これは完全に無音とするのではなく、ある程度小さい音量にしてくれます。会話に支障がある程度の音量のときに使うと、十分に会話ができるようになる感じ。このとき、ボリュームはそのまま効きますので、ミュートになっていることに気づかずにボリュームを上げ、そのままミュートを解除すると大変な大音量が出力されます。

この時代にしては珍しく、トーンコントロールのオンオフが切り替えられます。

モノラル出力とステレオ出力が切り替えられます。モノラルの場合は左右チャンネルの信号がミックスされ、左右のスピーカー両方から音が出ます。

フォノ入力はMM、MCに両対応しています。

操作性

操作性は良い。特にドアの外にある、主に使うスイッチやツマミは大型で使いやすい。

ドア内のスイッチやツマミは小さく、形が全て同じなのでやや難儀ですが、見て機能がわからないものではありません。

総評

すっきりデザインで元気の良い音のアンプです。同じくビクターのSXシリーズなどと組み合わせると、絶品の中域とソリッドな低域が楽しめるのではないかと思います。

その駆動力を活かし、バスレフ型スピーカーをしっかり駆動するのにもよいかもしれません。マルチパーパスなアンプとしても優秀と思います。

本記事の内容は以上です。

COMMENTS コメント

  1. fudou より:

    おおっ~~!!懐かしい
    もう数十年前、私が社会人になって初めて買ったアンプです。たしかローンで買いました。
    これとスピーカーは同じくVictorのリボンツイーターを採用したZero-5と組み合わせていました。
    オンボロ木造アパートだったので大きな音は出せませんでしたから、このアンプがそんなピラミッド型の特長だったとは気づきませんでした。でも、スピーカーのおかげか高音域はよくのびたほんとにきれいな音だったと思います。
    フロントの縦長のスイッチ類がカチャカチャ動いて安っぽい感じが残念でしたけど。
    スピーカーは仕事で知り合った人に譲りましたが、このアンプはどうしたか記憶が無い
    新しいアンプを買った時になんらかの方法で処分したと思うが…

    まさかこれが取り上げられるとは、懐かしくて涙が出そうです。
    ありがとうございます。

    • モソス より:

      コメントありがとうございます。管理人です。
      私は数年前にジャンクの機器を修理し始めたときから本格的にオーディオをやっている程度の若輩者ですので、そのような思い出を語っていただけるのは大歓迎です。モノはあっても、当時の空気感を知らなければ、古いオーディオ機器の魅力も半減してしまいますからね。
      ところで、記事にも書いている通りですが、このアンプは私が初めて修理したジャンクアンプで、同じく思い出の品なんです。しかも、まだ記事にはしていませんが、ビクターのZero-5 Fineを所持しています。これはなかなかすごい偶然です。
      音に関しては、私はそう思った程度ですから、あまり真に受けないでください。いろんな機器と比較して、可能な限り公平な評価をしているつもりではありますが、測ったわけでもなく根拠はありません。
      質感に関しては、中身が凝っている分、そのしわ寄せが来ているのかもしれません。やや安っぽいのには同意です。

      本記事を楽しんでいただけたのであれば幸いです。こちらこそ、貴重な思い出をありがとうございました。