TRIO KA-3300の修理とレビューです。
かつて行きつけのハードオフに行った際、完動品だがジャンク扱いで\3,000(税抜)のこのアンプを見つけ、買おうかどうか迷っていましたが、そのうちに売れてしまいました。
そしてその後、同じ店舗に再び立ち寄ったとき、なんとまたこのKA-3300が入荷しており、今度は\500(税抜)でした。安さの代わりに電源NGという気合の入った状態でしたが、元から欲しかったこともあり、即購入しました。まあ、フルサイズアンプで\500ならこのように運命的でなくとも即買いなのですが。
修理
分解・掃除
購入時はこんな感じ。
写真ではイマイチ伝わりにくいと思いますが、触りたくないくらい汚い。特にツマミに付着している汚れは、どう考えても手垢ですよね。
まだマシなのは、前オーナーが喫煙者ではなかったのか、あるいはオーディオルームでの喫煙を控えていたのかはわかりませんが、ヤニコーティングはされていません。中に入っているホコリもベタつかないので、掃除は容易そうです。
いきなり電源を投入するのも危ない可能性があるので、とりあえず開腹します。
中にはうっすらとホコリが。40年以上前のものにしてはキレイな気もします。
ずいぶんとシンプルな回路で構成されているようです。このアンプの売りの「純コンプリメンタリー・パワーダーリントン・ブロック」なる部品がヒートシンクに取り付けられていますが、これをさながらアンプICのように使用でき、簡単な外付け部品だけでパワーアンプ部を構成できるように見えます。さすがに簡単な外付け部品は言い過ぎで、よく見たらしっかりと全段ディスクリートで組んであります。とはいえ、初段の差動増幅の次に1段のエミッタ接地増幅、そして件のダーリントンブロックという超シンプル構成です。
そして、電源NGとは思えないほど問題が見あたりません。ヒューズは全て無事ですし、爆発している電解コンデンサもありません。はんだの割れかけのものすら1つもありません。ここまで内部の状態が良いのも珍しいと言えるくらいです。
蛇足ですが、プリメインアンプはプリ部とパワー部が統合されており、その状態でメーカーの開発者が試聴し、その音に納得したうえで発売されているので、とっちらかった音にならないという利点があると思っています。メーカーの特色が色濃く出ると言ってもよい。信号経路が短いので、アナログ的な損失も少ないかもしれません。このようなシンプルなプリメインを見ると、それらの特徴の極みのようなものを感じます。
筆者はカスタマイズし尽くして好きな音を出したいのではなく、メーカーの個性を楽しむようなオーディオをやっているので、セパレートアンプよりはプリメインアンプの方が好みです。アナログ信号経路が短く損失が少なそうだという、原理的な正しさがあるのも良い。
閑話休題。とりあえずもう少し分解して、掃除します。前述の通り、このままでは触りたくないほど汚いので。
まずはフロントパネルを外します。
すごいホコリですが、ヤニが含浸されていないので、ハケで簡単に落とせます。
スイッチの目隠し用の不織布がよれているので、剥がして貼り直します。
剥がすとこんな感じ。両面テープで着いていたようです。テープが劣化しておりノリ残りがひどいので、灯油やシンナーで除去します。画像はシンナーを染み込ませているところ。
キレイになりました。あとは組み立てるときに、同じく両面テープで不織布を貼り直すのみ。
次はフロントパネルとツマミを掃除します。
なかなかの汚さです。ジャンク修理の醍醐味の1つに、汚い本体をキレイにするというものがあると思います。最終的な外観は「外観・仕上げ等」の項まで。
これを掃除すると次のようになりました。
だいぶキレイになりました。まだ少し汚れが残っていますが、これ以上やると印字が剥げる雰囲気を感じたのでやめました。
フロントパネルの裏には、電源LEDが直接接着されています。
このLEDがどんな色なのかと思って3V程度を印加してみましたが、点きません。電圧や極性を変えていろいろやってみましたが、どうやっても点きません。つまり、LEDが故障しています。これが何を意味するかというと、このアンプは電源NGではなく、ただの電源ランプNGの個体だったという可能性です。
とりあえず電源LEDを交換しました。元は赤のLEDだったようですが、筆者があまり赤いパイロットランプを好んでいないうえ、手持ちのLEDの関係もあり、オレンジのものにしました。
最初は元のように直接接着してみたのですが、横への光漏れが気になるうえ接着強度が取れなかったので、3Dプリンターでブラケットを作り、それを接着しました。ブラケットとLEDはピッタリはまるようにしたので、接着していません。簡単に電源LEDを交換して遊べます。
問題のLEDを交換したので、動作確認してみます。他の部品を掃除して組み立て、電源を投入します。
電源は無事に入りました。オレンジのパイロットランプもキマっています。赤よりは確実に高級感があります。
DC漏れを確認しておきます。
DCは42mVくらい。画像では右チャンネルですが、左もだいたい同じでした。少し多めですが、これくらいであれば許容範囲でしょう。
通常であればバイアスも確認するところですが、このアンプにはバイアス調整用の半固定抵抗がありません。発熱はほとんどなく、バイアスは正常と思われますので、このままにしておきます。
音を鳴らすと、普通に鳴りました。拍子抜けするほど元気な音です。LEDのみNG説は本当だったようです。しかしガリが多い。ボリューム類はおろか、スイッチ類までかなりガリっています。ラウドネスをオンオフするたびにボツッという嫌な音がします。というわけで、スイッチ類の分解掃除をします。
スイッチ類の分解掃除
スイッチを取り出したものがこちら。…と簡単に言っていますが、この作業をしている時間の半分以上がスイッチを外すことに費やされています。多数の足がはんだづけされている部品を外すのは容易ではありません。特にスイッチは足が基板の穴にミチミチに入っているので、より難しい気がします。
このスイッチはいずれも、70年代から80年代あたりまでのアンプでよく見るタイプです。どちらもしっかりとした操作性で、今のアンプにはない感触です。
上の3つはガチョガチョとしたいかにもオーディオ機器という操作性で、体積のほとんどが機械部でできている豪華なスイッチです。
下のものは、1つだけ押している状態が保持されるタイプです。機械的にバチバチと切り替わる感触が小気味よい。
これらを分解します。その中身の接点部が次の写真。
見てくださいこれ。摺動子はとくに問題ありませんが、接点が黒々としてとんでもないことになっています。昔のアンプを何台も修理していますが、スイッチは例外なくこうなっています。
この酸化物は手強いので、アルコールで拭いた程度では落ちません(ある程度は落ちますが、根が残ります)。サンポールなどでの化学処理も試しましたが、根気がいります。いろいろ試した結果、綿棒にピカールをつけて磨くのが最も効果的で早いという結論になりました。
磨いて洗ったものが次の写真。
見違えるようにキレイになりました。
摺動子はそこまで問題があるわけではないのですが、念の為サンポールに漬けて処理(酸化膜除去)しました。
あとは組み立てるのみ。タミヤの接点グリスを塗っておきます。画像のものはもう生産していないようですが、同じようなものはまだあるようです。
あとは動作確認して終了。つながっている接点の抵抗値はテスターで測定できない程度(プローブどうしを直結と全く同じ抵抗値)なので、非常に良好です。
本体への組み込みは簡単です。分解できて組み立てられないということはないでしょう。
スイッチの分解掃除は以上。組み立てたスイッチの写真を撮っても掃除前と同じなので、特に写真などはありません。
ヘッドホンジャックの掃除
このアンプはヘッドホンを挿すとジャック内部のスイッチが切り替わり、スピーカーがオフになります。つまり、ヘッドホンジャックはスピーカー出力の接点を持つ重要な部品です。というわけで、分解掃除します。
分解したのがこちら。
ヘッドホンジャックの中に2回路のスイッチが入っているので、なかなか複雑な構造です。分解するのもかなり面倒で、順番を考えながら部品を取り外す必要があります。取り出した接点類は見事に黒々としています。
部品が少なければ全部磨きますが、今回は部品が多いうえに複雑な形状をしているので、接触部のみ磨きました。
磨いて洗浄したのがこちら。
ピカールの残りカスを取るために台所用洗剤で洗っただけですが、カーボンのようなものも取れて、結構キレイになった印象です。
あとは接点グリスを塗って組み立てました。
余談ですが、ヘッドホンを挿せばスピーカーがオフになるということを利用し、ステレオミニを標準プラグに変換するアダプタをヘッドホンジャックに挿せば、スピーカーのON/OFFスイッチとして利用できますよね。キースイッチみたいでちょっとカッコいい気もします(抜いてオンというのはちょっと変ですが)。
ボリューム類のガリ取り
このアンプに付いているボリューム類は分解できませんが、ケースに隙間があり、細い棒などを使えば接点にアクセスできます。それを利用し、アルコールを付けた爪楊枝を使って、カーボンを除去しました。これは接点部をヒン曲げて行うので、注意が必要です。真似しないほうがよいと思います。
さらに、接点復活剤を注入しておきました。量が多すぎるとグリスの粘度が下がり軽い回し心地になってしまうので、ほどほどの量を注入します。
DC漏れ修理
上でDC漏れは許容範囲と述べていますが、やはり気になるので、原因を調べました。
いきなり結果ですが、その原因は、初段の差動増幅トランジスタペアの特性のばらつきであることがわかりました。トランジスタは2SA620で、CANタイプの古典的な外観です。
合計4つのトランジスタ全てのhFEを測ると、見事にばらついていましたが、故障はしていないようです。このトランジスタのhFEは250以上のようですが、それを下回るものはありませんでしたし、測定器できちんとトランジスタと認識されます。
できるだけhFEの差が小さくなるようにペアを組み直し、再度組み込んでみました。これが当たりで、DC漏れは10mV程度まで低減できました。これくらいなら悪くないでしょう。
この状態で聴いてみると、左右で音量が違う気もします。hFEがばらついているところから近いものどうしを選んだので、平均が小さいペアと大きいペアができてしまうのは必然で、その影響によるものかもしれません。まるまる交換するのが最善でしょうか。2SA620自体は現在では入手できそうにありませんが、非常にスペックが低く低雑音が売りでもないようなので、代替品を探すのは容易でしょう。
交換したら追記します。
その後使い続けたところ、上の灰色の段落の内容は気のせいである可能性も出てきました。リスニングルームのイスがいつのまにかズレており、左右で音量が違うように感じられる具合になっていました。たまにはそういった細かい部分の確認が必要ですね。どちらにせよ、問題のトランジスタは交換してみるつもりではあります。
その後、別のアンプで初段トランジスタを交換してみたわけですが(Denon PMA-730の修理時)、予想外なほどに音に対する影響が大きいので、交換はやめておきます。このCANタイプの初段でないと、現状のぶっとい音が台無しになるかもしれません。
修理 総評
電源NGかと思いきや、その実体は電源LEDがNGというものでした。このような誤診はよくあると聞いてはいたのですが、まさか本当にそんな個体に当たるとは驚きです。
スイッチの分解掃除は大変ですが、それに見合った成果があります。古いアンプが一切の問題なく動作するのは爽快感すらあります。
外観・仕上げ等
前面
非常にシンプルな外観です。最小限の機能しかないので、ツマミなどが非常に少ない。配置が整然としており、カッチリした印象です。
70年代のエントリーモデルらしい、横幅が狭く、厚みがあるデザインです。
電源スイッチをオンにし、ラウドネスをオフ、およびテープ入出力を使わない通常使用の状態にすると、全てのスイッチがフロントパネルに対して垂直になります。これは70年代のアンプでよく見る方式で、なかなかの美意識だと思います。
スピーカー出力は1系統しかなく、オンオフの切り替えもできないので、そのためのスイッチなどはありません。これはちょっと不便です。
仕上げ
フロントパネルはアルミ、それ以外は鉄板を曲げたものでできています。
フロントパネルの印字はよくある塗装みたいな質感のものですが、色が薄めで、黒ではありません。
ツマミはメインボリュームからスイッチに付いているものまで、すべてアルミ削り出しのようです。今では考えられない豪華さがあります。
背面
背面には入出力端子があります。昔のアンプはテープの入出力が2系統付いているので、入力が多いように見えます。
スピーカー出力はネジ式で、Y端子を使いたくなる構造ですが、一応裸線も使えます。
背面の塗装が弱く、少し掃除しただけで剥げかけました。不自然につや消しになっているのはそのせいです。
外観 総評
実に70年代らしいデザインで、シンプルかつカッチリとした外観です。
70年代のアンプはツマミ類がとっちらかったようなものが多い気がしますが、これはそれらとは異なってかなり整然としており、スタイリッシュな雰囲気があります。
音について
このアンプにおいては、やはりその音に注目すべきでしょう。最小限の機能のみに絞り、音に注力しているように見えるモデルです。
詳細
このアンプの音について一言で表すと、「とにかく太い音だ」でしょう。素手で殴り合おうとしていたら、突然丸太で殴られたような驚きの太さです。重厚と言ってもよい。
しかし、重苦しい雰囲気ではありません。この太さというのは、低域がしっかり伸び、艷やかな中音域が出ることによるものです。しかも高域が出ないことはなく、ややあっさりめですがしっかり出ています。
つまりこの太さは、アンプの基礎体力を高めたことによる、正当な太さです。低域だけが主張し、もっさりしているのとは全く異なります。
また、主張しすぎず攻撃的でないという雰囲気もあります。さらっと鳴らしてくる感じです。過剰な押し付けのようなものがないので、一歩引いて落ち着いて音楽を聴けます。
音について 総評
総合的に、太い音をさらっと鳴らしてくる恐るべき音です。これは非常に筆者好みの音で、最初に聴いた瞬間から笑いが止まらないほどでした。
昔のアンプはトランジスタ式とは思えないほどウォームなものが多いのですが、これはその極致のような感じです。これに比べると、最近のアンプはハイファイ感こそあれ、線が細いように感じていまいます。筆者は基本的には新しいものの方が好きですが、このアンプは言い逃れできないほどぶっ刺さってくるものでした。
操作性・機能性
操作性
操作性は非常に良好。
ツマミを回すかスイッチを上げ下げする程度しかありません。それぞれのツマミの役割も実にわかりやすい。
機能性
機能性は普通。アンプとして最小限の機能はあります。
やはり、スピーカー出力が1系統しかないのは不便です。せめてスピーカー出力のオンオフができれば良かったのですが。
なぜこんな機能を欲しているかというと、アンプの電源を入れたまま接続するスピーカーを交換したいからです。スピーカーをたくさん持っている人は、こういう悩みを抱えることになるでしょう。
総評
非常に太い音のアンプです。古いアンプなりの良さが全開といった雰囲気で、非常に気に入りました。
シンプルな機能ゆえのシンプルな外観も良い。
もしかすると、音もシンプルを突き詰めた結果のものなのかもしれません。そうであれば、プリメインアンプの面目躍如といったところでしょう。
本記事の内容は以上です。
COMMENTS コメント