ヘッドホン

beyerdynamic DT 240 PROのレビュー:聴きやすくあっさりした音。

beyerdynamic DT 240 PROのレビューです。

このヘッドホンは、国内の最も代表的な正規代理店であるティアックが輸入していないモデルです。そのため国内での販路はやや限られていますが、入手困難ではありません。もう1つの正規代理店であるサウンドハウスから購入するという手があります。
こういう背景があるためか、国内ではわりとマイナーなヘッドホンです。

よくまとまっており、手堅い印象です。音はやや低音多めであっさり系、聴きやすい雰囲気です。

外観・仕上げ等

全体

全体図

ベイヤーにしてはずいぶんとカッチリした、現代的なデザイン。
「PRO」を謳うだけあり、全体が黒く仕上げられており、ツール感の強い見た目です。

各部品が塗装されており、丁寧な仕上げです。

側面

側面

側面はツルッとした外観。

文字が書いてある部分はプラスチックですが、その周りのリング状の部品は金属で、おそらくアルミ系です。さらに、ハウジングを支えるアームも金属製で、こちらは亜鉛のダイキャストでしょう。

左右ハウジング両方にコネクターが付いていますが、両出しタイプではなく、どちらにケーブルを挿してもよい片出しという珍しいタイプです。
この機能が災いし、ヘッドホン本体の左右がわかりにくいという問題があります。普通のヘッドホンは左からケーブルが出ているのでわかりやすいのですが、このDT240ではそうもいきません。触って左右がわかるような工夫もされていません。

上面

上面

ヘッドバンドは合皮で、これまたツルッとした無地のものです。

薄く見えますが、クッション性が意外に高く、頭頂部への負担は大きくありません。

バッフル面

バッフル面

イヤーパッドを外すとこうなっています。低音調整用の不織布のようなものもキレイに貼ってあり、非常に丁寧な仕上げです。

ここまでの写真を見てきて、「これ本当にベイヤーなのか?」と思ったあなたはヘッドホン通です。
少なくとも筆者は、箱を開けた瞬間から「ベイヤーにしてはいろいろとカッチリしすぎて変だなぁ」と思っていました。本体の見た目もそうですが、梱包も専用に成型したプラスチックを使ったしっかりしたもので、いままでのベイヤーにはないものでした。

ベイヤーのヘッドホンは、よほど安価なモデルでなければドイツ本国で製造されていますが、お世辞にもビルドクオリティが良いとは言えないところがありました。このDT240は中国製であるにも関わらず、ドイツ製モデルを遥かに上回るビルドクオリティの良さがあります。この中国製だが品質が良いというのは、日本企業の中国工場製造の場合によく見られるものです。つまり、このヘッドホンの影にはヤツフォスター電機の気配があります。詳細は後述。

外観 総評

全身が黒く、ツール感の強いデザインで、かなりカッチリしています。金属部品を多用しているのも良い。

部品の仕上げや組み立ては非常に良いと言えるでしょう。それこそベイヤーとは思えないほどに。

付属品など

付属品は次の通り。

付属品
  • カールケーブル
  • 変換アダプタ
  • キャリングポーチ

順に説明します。

カールケーブル

見た目の通りのカールケーブル。

カール部分が細めで、全体の重量も軽い。弾力が強くコシのある素材ですが、しなやかで扱いやすいものです。

変換アダプタ

ステレオミニプラグを、ステレオ標準プラグに変換するアダプタ。

ねじ込み式ですが、他で見たことがない専用品です。具体的には、ネジ部分が一般的なものより細くなっています。

装着しているときの外観は、普通のものと全く同じです。

キャリングポーチ

携帯用のポーチ。

ペラペラの布1枚でできており、オマケという表現がぴったり適合するものですが、布の質感は悪くありません。

音について

概要

音は全体的にあっさりしており、やや低域寄りのピラミッドバランスです。

図で表すとこんな感じ。これは聴感上のもので、測定したわけではありません。

DT 240 PRO 音の傾向

この図の詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

周波数的な特徴

低音域

低音は多めですが、ゆったりと鳴らすタイプではありません。むしろタイトぎみ。

筆者は低音が多めに感じますが、人によって感じ方が違いそうな微妙なラインです。
低音が多めのヘッドホンを使っていた人にとっては、普通かむしろ少ないくらいに感じるかもしれません。反対に、AKGなどの低音が多くはないヘッドホンを使ってきた人にとっては、低音が多く感じるでしょう。
筆者はいろいろなヘッドホンやスピーカーと比較して、上記の所感となりました。

とにかく、モニターヘッドホンを謳うわりにはずいぶんと低音が多めです。ポータブル使用を想定しているようなので、その関係かもしれません。低音は騒音にかき消されやすい気がするので。

中高音域

中域は低音に比べるとやや控えめ。モニターヘッドホンは中域重視のものも多い気がしますが、これはそうではありません。

高域はさらに控えめで、ほとんど主張はありません。他のヘッドホンならグサグサと刺さってくるような部分も、ほとんど刺さりません。しかし鳴っていないわけではなく、よく聴けば高音域の様子がわかります。

中高域はかなりあっさりしています。まさにモニターと言いたいところですが、高域の弱さが惜しいところ。

高域のクセは少なく、やはりベイヤーらしい音とは言えない気がします。

音場感・定位感

音場はやや広い。小さい筐体からは想像もつかないほど、音の広がり感があります。

定位は頭の中心に直線状。バッフルが傾斜していないタイプのヘッドホンは大抵こうなります。

音量・鳴らしやすさ

音量

音量は普通からやや大きめ。大抵の機器で普通に鳴らせます。音量不足を感じることはまずないでしょう。

鳴らしやすさ

鳴らしやすいと思います。スマートフォンなどのヘッドホン端子があるものならば、普通に破綻なく鳴らせます。もちろんヘッドホンアンプを使った方が良い音ですが、使わない場合でもこれはこれでアリと言える音を出せます。

元から低音が多めなので、鳴らしきれていないとしても低音不足を感じづらいのは良いところ。質はもちろん劣りますが。

音について 総評

音はピラミッドバランスであっさり系、音場感が広めで、鳴らしやすい。非常に耳に優しい音です。

高音がうるさい音が嫌いで低音多めが好きな場合は、有力な選択肢になるでしょう。反対に高音好きな人には相容れないものだと思います。

やはり気になるのは、ベイヤー感が足りないところ。ベイヤーのヘッドホンは高域のクセがあり、そのせいか押し付けがましいというか、音を容赦なくぶつけてくるというか、そういう感じがあると思っています。DT240ではその成分が圧倒的に足りていない。わりと無難にまとまっているのは認めますが、ベイヤーの名を冠して無難な必要はないと思います。

装着感

装着感は比較的良いと筆者は感じますが、好みが分かれる装着感だと思います。

イヤーパッド

イヤーパッドは質の良い合皮の表面で、内部のスポンジは柔らかめ。

真円形で、外径83mm、内径53mm、深さ18mm程度。内径が小さく、アラウンドイヤー(あるいはサーカムオーラル)としては厳しい大きさです。
筆者の場合、耳が全部は入り切らず、耳たぶをイヤーパッドで潰すような装着の仕方になります。半オンイヤーみたいなものです。

ヘッドバンド

ヘッドバンドもイヤーパッドと同様、質の良い合皮です。

前述の通り、薄く見えますがクッション性に優れ、頭頂部への負担はかなり少ないと言って問題ないと思います。

側圧

側圧は強め。屋外使用を考慮し、動いたときのずれづらさや遮音性を重視しているのかもしれません。

イヤーパッドのスポンジが柔らかめでよくフィットするため、あまり問題にはならないと思います。

装着感 総評

総合的には、柔らかいが小さめのイヤーパッド、同じく柔らかいヘッドバンド、そして強めの側圧という装着感です。

この中で、小さいイヤーパッドと強めの側圧というのが、好みが分かれるポイントでしょう。人によって耳の形などが違うので一概には言えませんが、どちらも我慢できないほどのものではないと思います。むしろ、この本体の小ささでソフトな装着感を実現していることに驚くほどです。

携帯性

携帯性は悪くありませんが、やはりヘッドホンなのでそれなりの大きさはあります。

持ち運びしやすさ

ハウジングを回転させ、平たくすることができます。かなり平たくなるうえ本体が小さめなので、カバンの隙間に収納することは容易でしょう。

キャリングポーチまで付いていますので、携帯するにはもってこい。
ただしこのポーチが薄手の布1枚なので、外部からの攻撃に対しての防御力はなく、傷には注意すべきかもしれません。

外部遮音・音漏れ防止

外部遮音・音漏れ防止性はどちらも十分に優れていると言えます。屋外でも快適に使用できるでしょう。

その他

フォスター感

※この記事は蛇足です。

外観・仕上げ等の項での述べた通り、どうにもフォスターの影がちらついている雰囲気です。
音もなんとなくフォスターっぽい。

もちろん、根拠なく他社の名前を出しているわけではありません。次の資料を見れば全てがわかります。
フォスター電機公式サイトの 製品案内 → ヘッドホン から閲覧できるPDFファイルをご覧ください。
クリックもしくはタップで直接遷移できますが、Androidスマートフォンやフィーチャーフォンの場合、PDFファイルが勝手にダウンロードされる場合がありますのでご注意ください。

そのファイルの4ページ目、「583274」なる名前のヘッドホンにご注目ください。

形が全く同じで、スペックもほぼ同じです。フォスターのOEM説はほぼ確定だと思います。

再生周波数帯域がDT240の公式サイトの表記と異なりますが、-何dBまで再生周波数帯域に含むのかはそれによって違うので、その関係かもしれません。フォスター側の表記はハイレゾ対応とあるのに、20kHzまでしか再生できないことになっているのは気になります。

それにしても、ここまで露骨なものもなかなかありません。ヘッドホン専業でないメーカーが出す場合はOEM元(製造している企業)がわかりやすいものだったりもしますが、ほぼ専業メーカーでこのようなケースはあまり見ない気がします。フォスター電機自体はOEM元としてかなり大手なので、フォスター製とは知らずに使っているヘッドホンも多いとは思いますが。

上で述べたことは、OEM供給を受けたヘッドホンを否定するものではありません。ただ単に、ここまで露骨なのも珍しいと思って載せているだけです。自社開発・製造の完成度の低いものを発売するくらいなら、OEM委託したものを発売するのが最適解だと思います。

せっかくフォスターのOEMならば、フリーエッジのドライバーを使ったものにしてほしいと思わないでもないですが、ベイヤーにはテスラドライバーという独自のものがあるので、ドライバーに関して魅力のあるものにはできなかったのかもしれません。本当のところはよくわかりませんが。

総評

黒々としたプロ感のある外観に、聴きやすいピラミッドサウンドのヘッドホンです。

装着感に関しては好みが分かれそうではあるものの、全体的にはよくまとまっていると言えそうです。音も高音マニアでなければ納得できるクオリティだと思います。

小さくて携帯にも便利なので、屋外用ヘッドホンとしても利用できそうです。

値段なりの価値があるかと聞かれれば、あると筆者は答えます。同じ価格帯で飛び抜けて優れているというほどではありませんが、十分なクオリティがあります。
ただし、本体が小さいことが気になる方にはオススメできません。同じような値段でもっと大きく余裕のあるヘッドホンはいくらでもあります。

本記事の内容は以上です。

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