ヘッドホン

beyerdynamic DT 990 PROのレビュー:意外と真面目な音です。

beyerdynamic DT 990 PROの250Ωモデルのレビューです。

ベイヤーの比較的廉価なシリーズのうちの開放型モデルで、おそらく最も代表的なモデル。かなり昔に発売されて以来ほとんど姿を変えていない、生きている化石のようなヘッドホンです。

フラット系ながらダークな音調で、独特の魅力を放つモデルです。

外観・仕上げ等

全体

全体

実にベイヤーなデザイン。基本構造は高級モデルでも廉価モデルでも同じです。ちょっとモッサリした雰囲気があるのは、ハウジングを支えるアームが微妙な形状だからでしょう。

黒の基本色に、白のワンポイントをあしらったモノトーンなデザイン。このような配色は、ヘッドホンでは珍しい気もします。

仕上げ

プラスチック部の仕上げは無塗装。塗装剥げなどの心配をせずに済みます。ハウジングはシボ感のあるテクスチャで、無塗装ながら意外に安っぽくありません。

アームはアルミ製で、黒アルマイト処理。細かいヘアラインも入っています。

側面

側面

側面。剣道の面のような、エアコンの室外機のような感じ。

おそらく、縦に入った補強のようなものがいけなかったのでしょう。それがなければ、この面妖めんような雰囲気はなくなると思うのですが。

中心部の奥にうっすら見えるものは開口部です。開放型と名乗っていますが、その部分しか開口していません。実際は半開放型に近いでしょう。

ロゴは数字が古めかしいタイプ。雰囲気があります。

ヘッドバンド

ヘッドバンド

ヘッドバンドは合皮で、スナップボタンで留まっています。これは見た目通り、簡単に外すことができます。

外した様子はこちら。

ヘッドバンド 開いたところ

このまま簡単にクッション部を取り外すことができますが、左右を繋げるケーブルがあるので、少し注意が必要です。

このようにヘッドバンドは簡単に交換でき、交換用部品も販売されています。これは非常に良い。プロ用を謳うだけはあります。

大抵のヘッドホンはヘッドバンドが容易に交換できないうえ、交換用部品も販売されていないので、ボロくなってくるとどうしようもなくなります。そういったものを修理するには、ヘッドバンドのクッション部を作る必要があります。これはもはや手芸ですよね。

バッフル面

バッフル面とイヤーパッド

イヤーパッドを外しても、ドライバーなどは見えません。なにせ、イヤーパッドがドーナツ形です。
ちなみに、イヤーパッドの取り付け部は合皮らしき材質ですが、非常に硬い材質で、伸びると戻りづらいので、あまり頻繁な付け外しは推奨されません。

バッフル面に見えるリング状の部品を外してみます。これは細めのマイナスドライバーなどでこじれば、簡単に外れます。

リング状部品を外したところ

リング状のおさえ部品とスポンジが外れました。

バッフル面には和紙のような不織布のようなものが一面に貼ってありますが、大きくズレています。この作りのテキトーさは、ドイツ本国製造のベイヤー製品ではありがちな特徴です。

この状態ではバッフル面が固定されていないので、そのまま取り出せます。

バッフル裏面

ベイヤーのレガシードライバーが現れました。磁気回路のヨークと思しき部分が特徴的。ドライバーは当然のようにバッフルに接着されているので、交換時はこのドライバー+バッフルのASSYを交換する感じになるのでしょう。このヘッドホンは全ての部品のスペアが販売されています。

ここまで簡単にドライバーを拝めるヘッドホンはありません。それどころか、世界一分解が簡単なヘッドホンでしょう。ネジは全部で8本しかありません。

なお、イヤーパッドの裏は次のようになっています。

イヤーパッド裏

裏には穴が開いています。これは主に低音のチューニング用でしょう。非純正イヤーパッドなどに変更すると、音がまるで違うものになる可能性があります。

外観 総評

ひと目でベイヤーとわかるデザインです。モノトーンの配色はやや珍しい。室外機のような剣道の面のようなハウジングは好みが分かれるかもしれません。

無塗装のプラ部が無骨で、プロの雰囲気(ラフに扱ってもよいという感覚)を演出しています。

機能一辺倒と言えばよいのか、欲しい機能を得るために最小限の部品で実現しているような雰囲気があります。バウハウス的な精神でしょうか。

付属品など

付属品は次の3つ。ケーブルは本体に直付けですが、ここに含めておきます。

  • 3mカールケーブル(本体に直付け)
  • ステレオミニ-標準プラグ変換アダプタ
  • キャリングポーチ

3mカールケーブル

ケーブルと変換アダプタ

3mまで伸びるとされているケーブル。実際にそこまで伸ばすと強く引っ張られるので、現実的ではありません。

3m分のケーブルが巻かれて凝縮されているので、ケーブルが重いと感じる場合もあります。

質感はわりとしなやかで、ビニールっぽいテクスチャ感です。

ステレオミニ-標準プラグ変換アダプタ

プロ用を謳う機器によく付いてくるネジ式の変換アダプタ。変換アダプタのみがアンプ側に残ってイラつくことが避けられます。

かなりどうでもよい情報ですが、この変換アダプタは純正品が各社から発売されていて、それぞれ値段がかなり違います。どう見ても同じものですがね。

キャリングポーチ

キャリングポーチ

ちょっと有名なキャリングポーチです。なぜ有名かというと、画像の通り、お名前欄があるからです。小学生の持ち物みたいですね。

名前どころか、住所、電話番号、メールアドレスすら記入するところがあります。なくしたりした場合に役立つと考えて、これを付けてあるのでしょうか。拾った人が直接連絡をくれればよいですが、悪用するために個人情報を抜かれてはたまったものではありません。これらの個人情報はこのヘッドホンの値段よりはるかに価値のあるものでしょうから、なくしそうな場合でも記入するのは得策ではないと思います。

布1枚でペラペラのポーチですが、アウトドア用品に使われるようなキメの細かいポリエステルらしき生地でできています。意外に耐久性や防御力があるかもしれません。

音について

概要

全体的にはフラット系だがややシャリつき、高めの低音が少し多めな感じです。ドンシャリかカマボコかで言えばドンシャリ寄りですが、一般的に想像されるようなドンシャリではありません。

聴感上の周波数特性と音場感は次の図の通り。

DT 990 PRO 音の傾向

この図の詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は詳細です。

周波数的な特徴

低音域

低音はゴムのような弾力のある感じ。これは低い低音(一般的に言う重低音)がやや少なく、高い低音が多いことによるものかもしれません。

インピーダンスが250Ωあることもあり、締まった感じがあります。インピーダンスは高いほど音量が小さい傾向ですが、締まった音になりやすいという傾向もあります。

中高音域

中域は意外なほどナチュラルです。

2k~5kHzあたりの中高域は出っ張りぎみ。これがよく言われる刺さり感の原因です。
しかし、出すぎているということはありません。この帯域を引っ込めているヘッドホンが多いので、相対的にシャリシャリな音に感じるという場合が多いでしょう。

スピーカーの音に慣れている場合、そこまでシャリシャリには感じないと思います。スピーカーはほぼフラットな特性のものが多い(ヘッドホンほどメチャクチャな特性ではないという程度ですが)ので、大抵のヘッドホンよりは高音が強く感じます。

最高域は控えめに感じますが、音量自体は普通に出ていると思います。

音場感・定位感

音場は狭め。まさに左右のドライバー間に音が広がる感じです。

定位感は直線上。ドライバーが傾いて付いていないタイプはこうなる宿命です。

音量・鳴らしやすさ

音量

音量は小さい。スマートフォン直差しなどでは、かなり音量を上げる必要があります。爆音派の人はヘッドホンアンプが必須でしょう。

筆者の検証によると、iPad(無印)に直挿しで、8割以上の音量にしないとちょうどよい音量になりません。筆者は小音量派に属すると思いますが、それでもこの有様です。

鳴らしやすさ

音量の小ささの割には、非常に鳴らしやすいと思います。あまりよくない環境でも、音量さえとれれば、破綻なく鳴らすことができます。

先述のiPadに直挿しでも、特に不満なく聴けます。もちろん、DACやヘッドホンアンプを揃えた環境と比べればあらゆる点で劣っていますが、雰囲気は損ねていません。

音について 総評

全体的には、ややクセのあるフラット系だと思います。一般的にはドンシャリだドンシャリだと言われているので、それを鵜呑みにしていた場合、意外に真面目な音だな、と思うはずです。

そのクセのせいかもしれませんが、なにか暗い雰囲気があります。もちろん、明るい曲でも辛気くさい感じになるわけではありません。背景が暗いような感じと言えばよいのか。ほかのヘッドホンの音を透明な場にボーカルや楽器が現れる感じとすると、DT990では暗い色の背景に現れる感じ…かなぁ。あまり自信を持って言えないのが悔しいところですが、そういった雰囲気があります。

意外にフラットな感じにダークな雰囲気が合わさり、独特の魅力を持つ音です。

装着感

装着感は極めて良いと感じます。無骨な外観からは想像できないほどに頭に吸い付きます。

イヤーパッド

イヤーパッドは真円形で、表面はベロア調です。なぜか薄灰色なのが特徴的。

寸法は外形105mm、内径65mm、深さが25mm程度。十分な大きさと深さがあると思います。

スポンジは柔らかめですが、装着したときにつぶれて耳がバッフル面に当たるほどではありません。

ヘッドバンド

ヘッドバンドにはしっかりしたクッション性があります。柔らかすぎず、かといって固すぎることもない、絶妙な塩梅です。

ヘッドバンドの形が良いのか、頭頂部付近を面で支えてくれる感じがあります。これにより、頭頂部だけに付加がかかることがなく快適です。
ただし、これは頭の形によって違いそうですので、個人差があるかもしれません。少なくとも筆者にとっては、これ以上ないほど優れたフィット感のヘッドバンドです。

側圧

側圧は非常に適正と思います。弱くはないし、強くもない。二択の場合は、わずかに強い方かもしれません。

筆者にとってはあまりにもちょうどよい具合なので、あまり多くのコメントが書けません。適正としか言いようがない。

装着感 総評

装着感は非常に良いと思います。各部のクッション性がちょうどよく、側圧も適正です。全てが完璧にマッチし、吸い付くような装着の具合とすら言えます。イヤーパッドがベロア調で、汗をかきづらいのも高ポイントです。

携帯性

携帯性に優れているとは言えないでしょう。

持ち運びしやすさ

折りたたんだり、平たくしたりできないので、カバンの中に入れると場所をとります。しかし、ヘッドバンドが普通のタイプなので、あまり大きくもありません。やや持ち運びづらいという感じでしょうか。

それにしても、外で使うにはカールケーブルが邪魔でしょう。

外部遮音・音漏れ防止

一応は開放型なので、外部遮音性はほぼなし、音漏れもそれなりにあります。

しかし、前述のように開放穴が小さいので、意外と音漏れは少ないようです。寝ている人がいる部屋のドアを開けた状態で、その隣の部屋にてこのヘッドホンを使用しても、とくに迷惑がられないほどです。

総評

最小限のデザインに意外とフラットな音、そして装着感に優れるヘッドホンです。最小の要素で最大のパフォーマンスを得ようとする、いかにもドイツ的な雰囲気を感じます。

音に関しては、刺さり感を許容できるかどうかが、このヘッドホンの音をどう評価するのかの決め手かもしれません。ヘッドホンとしてはかなり高音が多めに感じますので。
ヘッドホンばかりを使ってきて、刺さる音が嫌いならば、このDT990を買うべきではありません。

古くからあるヘッドホンですので、骨董品のようなものを新品で買えるという別の魅力もあります。

本記事の内容は以上です。

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