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電気ケトルが「まだ使えそうな故障」をしている場合、危険な状態なので使用しないでほしいという旨の記事です。
電気ケトルのスイッチの構造も解説しています。
※ この画像は電気ケトルの一例です。今回故障したものとは関係ありません。
なにが起きたのか
電気ケトルを使用していたら、明らかにお湯が沸いてグツグツと音がしていましたが、スイッチがオフにならない現象が発生しました。しかもその状態でしばらく経っているのに、一向にスイッチが切れる様子がありません。このとき、電源スイッチの見た目はオフの状態ですが、依然として通電している様子です。
とりあえず電源コードを抜いて事なきを得ました。しかし、電源スイッチが熱湯のごとき温度になっており、触れない状態でした。
つまり、電源スイッチがオフの状態でもオンの状態が維持され、しかも異常発熱するという明らかにおかしい状態です。しかし、電源コードを接続すれば、オンオフはできないにしてもお湯は沸かせるので、使用できなくもない故障です。
故障しているのは確実ですし、このまま使い続けるられるほどメンタルが強くもないので、捨てる前提で分解してみました。ちなみに、この電気ケトルは5年ほど使用したものです。
分解と故障の原因
分解は非常に簡単でした。1つ難点があったとすれば、ツメで引っかかっている部品の固定が固く、マイナスドライバーでこじっていたらスッポ抜けて指を怪我した程度です。
中の部品はほぼ無事のようでした。ヒーターや温度ヒューズは劣化している気配すらありませんでした。
そして、このようなスイッチが出てきました。おそらくコイツが犯人です。
これのガワを剥がすと、このようになっています。
このスイッチをさらに分解すると、接点が出てきます。
この接点の接触部はこうです。青の矢印部分。
この接点、見るからに黒々としており接点に見えないほどで、マズい状態です。接点抵抗が増加して発熱していたのでしょう。焼けたような跡があるのもそのせいと思われます。
そして、この接点の発熱によって、接点を押してスイッチオフさせる突起を溶かしていたようです(詳しくは構造の節で後述)。そのせいでオフにできない状態だったようです。次の写真の矢印部分が溶けています。
このまま使用していた場合、発熱で燃える可能性も否定はできません(電熱器具なので全体的に耐熱性が高い樹脂が使われているようには見えますが…)。なかなか危ない状態だったかもしれません。
スイッチの構造
このスイッチの構造を次の模式図にまとめました。ただし模式図なので、部品の向きなどはテキトーです。
図の通り、オフ時は可動部の突起で接点の片方を押し、開放します。そしてオン時は可動部の回転に伴い突起が上昇し、接点のばね力で勝手に導通する仕組みになっています。
このことから、接点が発熱している状態でオフになろうとした場合、可動部の突起が溶けて二度とオフにできないスイッチと化すようです。
また、この可動部は大変微妙なテンションでばねが付いており、可動部がオフかオンのどちらかのポジションにしかなり得ないようになっています。中間の位置ではばね力がかかり、オフ側に勝手に収まります。
図中の「バイメタル式可動部戻し器」とあるのは、その名の通り可動部をオフポジションに戻す器具です。これは一種の温度センサで、お湯が沸いた程度の温度になるとペコっと変形し、可動部を戻す方向に弾くものです。これを動作させるために、スイッチの周りに蒸気を引き込む必要があります。
なお、バイメタルとは熱膨張率の異なる2種の金属を貼り合わせたもので、熱を加えると変形します。実際の動作はWikipediaの当該ページにGIFがあるのでわかりやすい。
実際の「バイメタル式~」は次の画像のものです。
丸い金属のものがそれです。熱を加えると全体が反り返るように変形し、中央の突起が本体側に近づくような動きをします。
考察
100Vを直接オンオフする接点は、オンオフ時に火花が飛び表面が削れ続けるため、通常このようにひどく接点抵抗が増加することはありません。しかし、今回はひどく劣化しています。
なぜこのような接点抵抗の増加が起きたのかと言えば、極めて高温多湿な環境にさらされるからでしょう。このスイッチは蒸気の温度によって勝手にオフになるもので、動作させるためにはスイッチ周りに蒸気を引き込まなければなりません。これがひどい酸化の原因となったのでしょう。上のスイッチの写真にはカルシウムが付着しており、水が侵入している証拠です。
このスイッチの接点抵抗を測ったら、0.2Ω程度でした。市販の安いテスターでもぎりぎり測れる抵抗値です。このケトルに使用されているヒーターは900Wと表記されていたので、電流は9A流れることになります(力率は1)。接点抵抗による電圧降下は2Vに満たないので無視して、同じく9A流れているとすると、0.2Ωの接点抵抗がある場合は16.2Wの電力が発生することになります。これは全て熱になりますので、16.2Wの熱がスイッチで発生することになります。16W程度の場合、手のひらサイズのヒートシンクで放熱してもそれなりに高温になる程度の発熱ですので、ほぼ密閉空間のスイッチ接点が爆熱になるのは当然です。高耐熱樹脂と思われるこのスイッチのハウジングを溶かしていたのも頷けます。
まとめ
電気ケトルが壊れたので分解したら、電源スイッチの接点抵抗の上昇によって問題が起きているらしいことがわかりました。また、なかなか面白い構造のスイッチだとも思いました。
このような故障をした場合、その都度電源コードを抜き挿しするかベース部から離して置いておくなどの方法によって使えないことはなさそうですが、やめておいた方がよいでしょう。そのまま使用して、使用後に電源コードを抜かずにベース部に置いた場合は空焚きになるので、温度ヒューズが切れて完全に使用不能になるはずです。しかしその前にスイッチ付近から発火する可能性も否定はできません。
このような本体内側の上部から蒸気を引き込んでスイッチを動作させる方式の電気ケトルは、スイッチの寿命が短いということは覚えておくべきかもしれません。
本記事の内容は以上です。
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