(2022/02/24 改稿。特に「総評」部分を大幅に加筆訂正)
ヤマハ NS-BP200の詳細レビューです。
ヤマハの安価なスピーカーです。ブランド力のあるメーカーが作る単体のパッシブスピーカーとしては、類を見ない程に安い。元はコンポに付属するスピーカーだったという説もありますが、詳細は不明です。エントリーモデルであることに違いはないでしょう。
全体的には、なんとも微妙なスピーカーです。同じ価格帯のものがなく、ライバルがいないシロモノではあります。
※すでにメーカーでは生産終了していますが、まだ新品が手に入るようです。
外観・仕上げ等
全体
普通の2ウェイスピーカーのデザインです。ウーファーは口径のわりに6本ものネジで留めてあります。
70年代のスピーカーかと思うくらいに角ばっているうえ、ネットがマグネット式でバッフル面がスッキリしており、非常にシンプルな外観です。
仕上げ
バッフル面のみ艶消し仕上げで、側面・天面・底面はピアノブラック風仕上げです。このピアノブラック風仕上げは、艶があるプラスチックの板を貼ってあるもので、なかなかの曲者です。静電気でホコリがつきやすく、布で軽く拭いただけで細かいかすり傷がつきます。もちろん、指紋も目立ちます。
ネット
ネットのデザインはどう思われるでしょうか。…まあ、かっこよくはありませんね。ひょうたんとか雪だるまなどと言われていますが。
個人的には個性的で好きなのですが、一般的な評判はあまりよろしくないようで。
公式的には「ギターを思わせる形状」を謳っています。わからないこともないのですが、それにしてはくびれすぎでしょう。
マグネット式なので、少しリッチな雰囲気もあります。
背面
背面はざらついたプラスチック板が貼ってあり、バスレフポートとターミナルがあります。
バスレフポートは見るからに狭く、低めの周波数にセッティングしてあります。その周波数は約60Hzです(各種寸法から計算)。ウーファーの口径のわりには、かなり低いと言えるでしょう。
ターミナルは安価なモデルでよくあるタイプです。バナナプラグも使えます。
外観 総評
デザインは普通のスピーカーです。
ピアノブラック風仕上げは一見高級感がありますが、静電気の問題や傷がつきやすいなど、実際に使っているとストレスが溜まります。
来客があるときはよく磨いておきましょう。高級スピーカーと思われるかもしれません。
ネットは気に入ったのであれば使いましょう。
音について
概要
音は自然ですが、無難すぎる雰囲気もあります。
2ウェイにしてはナローレンジな感覚があり、広帯域で特性の整ったフルレンジを聴いているようです。
次の図は、このスピーカーの音について感覚的に図示しています。
図の詳細な説明はこちらから。
以下は詳細な説明です。
周波数的な特徴
低音域
このスピーカーは低音が出るとか出ないとかで、巷では曖昧な評価ですが、筆者の意見は「ナチュラルなチューニングだが無理をしている感じがある」です。
決して低音が多いわけでも少ないわけでもなく、量はちょうどよい塩梅だと思います。しかし質にやや問題があり、小径ユニットで無理しているからか、ボフボフとバスレフっぽい雰囲気が目立ちます。
この筆者の意見は、スピーカーの後ろ側のスペースを十分にとり、部屋の定在波対策などを施した状態、すなわち最適な設置条件の場合です。スピーカーの後ろ側にスペースがとれないと、かなり低音が強くなります。どうしてもそのように設置したい場合は、あきらめてバスレフポートにタオルやスポンジなどを詰めましょう。
中高音域
中高域は、あまり特筆すべきことがありません。自然ですがきらめきがない。整いすぎているというか、必要以上に自然というか…
感動するような音でないことだけは間違いありません。
音場感・定位感
音場は狭め。左右のスピーカー間にコンパクトに広がります。
定位はあまり良くない。なにかぼやけているというか、スッパリと決まってくる感じに乏しい。口もとが大きいとでも言えばよいのでしょうか。大きさ数センチメートルの人間の口から発せられる歌声が、30センチくらいの大きさの何かから聴こえてくるような感じです。
音について 総評
無難さを追い求めすぎて、それ以外がないがしろになっているような感じがあります。
美点は自然であること。それ以外にほめる表現は見つかりません。
問題点は質の悪い低音、微妙な定位感など。セッティングが無難すぎて、悪い点ばかりが浮き上がっていてしまいます。このようなセッティングにする場合は、ユニット単体やネットワーク部品などの部品単位での性能が重要なのかもしれません。
このスピーカーは同じ価格帯で比べられる対象が存在しないほど安価なので、なんとも言えないところがあります。オーディオ用スピーカーらしい音が出ていれば、それでよいのかもしれません。
ユニット・ネットワークなど
ユニットやエンクロージャ、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。
スピーカーユニット
ユニットは次の画像のようになっています。
ウーファー
ウーファーは公称12cm(実際はエッジ外周部の直径で10cmくらいしかありませんが)のコーン型で、インピーダンスは6Ωです。
コーンはポリプロピレンに見えます。まあ、無難ですね。センターキャップは薄手のゴム製。エッジは場所によって厚みが異なるゴム製です。
とにかく、トゲのある音を出さないようなコーンの作りに見えます。
フレームはプラスチックの成型品。Boseの11.5cmフルレンジのように硬いプラスチックではありません。単なるコストダウンでしょう。強度はそれなりに確保してあり、手で曲げて簡単に歪むようなものではありません。
ダンパーの動きをスムーズにするための空気穴が開いています。小口径ゆえにストロークを確保しないと低音が出ませんので、そのあたりを考慮しているかもしれません。それが逆に上述のバスレフ感の強い低音を生み出しているのかもしれませんが。
マグネットは決して小さくはなく、悪くない感じです。ペア1万円未満のスピーカーに付いているユニットとしては豪勢にも見えます。
このウーファー、接着剤のはみ出しが少なく、はみ出している部分も均一であるなど、かなりビルドクオリティが高い雰囲気です。筆者は70年代とか80年代あたりのスピーカーを愛好しているので、その時代から比べると品質管理の進化を感じます。
ツイーター
ツイーターは公称3cmのソフトドーム型。インピーダンスは5Ωという半端な数値です。
ドームは極めてなめらかで柔らかい素材を布に含浸したものでできています。やはりこれも、トゲが出ないようにしているように思います。ソフトドームでも硬めなものは、相応に固いような雰囲気が出て同時にトゲ感も出てきますが、それの対極のようなものでしょう。
フレームはもちろんプラスチック。音的にもこれがベストでしょう。
マグネットは小さめです。ウーファーにリソースを食われたのかもしれません。
ユニット 総括
ポリコーンのウーファーにソフトドームのツイーターという、とにかくピーキーな音にならないような組み合わせです。それでいて、後述のようにネットワークも普通なので、そりゃあ艶感も感動も出ないことでしょう。
これが紙コーンウーファーだったりすれば、ボーカルに艶感が出て良いスピーカーになっていたかもしれません。
エンクロージャ
エンクロージャ内部の詳細です。
箱の材料は後面以外全てMDFで、後面はパーティクルボードです。
角の補強は少なめ。そのかわりなのか、側面は筋交いのような面を補強する棒がついています。
吸音材は最小限に満たないくらい少ない。下がポリウールで、上はゴミみたいな見た目というか、”えいごであそぼ”のケボ(リンク先は画像検索結果です)みたいなよくあるタイプです。MDFやパーティクルボードは響きが少ないので、この程度でも問題ないのかもしれません。
エンクロージャに関しては、あまり言うことがありません。コストを鑑みた最小限の設定と思います。
ネットワーク
ネットワーク基板は、ターミナルの裏に直付けのタイプです。
このネットワークに付いている電解コンデンサは、日本ケミコンのSNXというシリーズのようですが、公式サイトから検索してもそのようなものは見当たりません。念の為ユナイテッドケミコンのサイトでも検索してみましたが、それでもダメでした。専用のカスタム品か何かなのでしょう。
コンデンサが電解だから必ずしも悪いとか、コストカットしているというものでもありません。電解はエネルギー感が相対的に低音側に寄るので、マイルドな音になります。これを狙ってか、カマボコサウンドの王様ダイヤトーンは高級モデルでも遠慮なく電解を使っていたようです。このスピーカーの場合はコストカットの結果でしょうが。
コイルはどちらも普通のコアコイルです。まあ、珍しいコイルが付いていることはほぼありませんが。
次の図は、このネットワークの回路図です。
特に言うことのない構成ですが、安価な割にウーファー・ツイーター共に12dB/octで構成しているのは特筆すべきことかもしれません。
次の図は、このネットワークのボード線図です。LTspiceにこの回路を入力し、周波数解析から得た図です。ただし、スピーカーは固定抵抗としています。
ウーファーはかなりゆるく落としていますが、これが味気ない原因かもしれません。-12dB/octで落としている意味があまりない気もしますが。ウーファーがかなり高域まで粘るタイプであれば、意味があるかもしれません。
ツイーターはかなり音量を下げており、5dB以上下がっています。ソフトドームツイーターの能率が著しく高いとは思えないので、ウーファーの能率が低いのでしょう。
その他
標準装備のインシュレーター
底面には、次の写真のように、インシュレーターが最初から付いています。
これは硬めのゴム質の素材なのですが、これがなかなかやっかいで、低音がだぶつく傾向があります。
このスピーカーの低音はバスレフ感の強い音なので、それがさらに目立つような感覚です。あるいは、後方に十分なスペースがとれないなどの場合は、ブーミーな低音がさらに強調されるようになります。
基本的には、このインシュレーターは使わない方がよいでしょう。
総評
このスピーカーを評価するのは非常に難しい。なぜならば、競合が存在しないほどに安価だからです。
筆者の純粋な感想としては、「あまり良くない、魅力に乏しい」という感じですが、許せないほど悪いわけではありません。微妙なところです。一応、オーディオスピーカーらしい音は出ており、BGM用などの本格的なリスニングでない用途であれば、十分だと言える音ではあります。
美点は、自然でトゲのない音です。それは反対に、面白みがないということでもあります。
万人受けするような音ではありますが、設置環境に厳しいとか、標準のインシュレーターがよくないなど、玄人向けの要素もあります。ピアノブラック風仕上げの問題もあり、安価ではあるが手放しでオススメできないものになっています。それらの要素が合わさった結果の評価が「微妙」。
このNS-BP200と格安のアンプを合わせて、総額15,000円くらいかかるとすると、当然同じような価格のパワードスピーカーが視野に入ってきます。気になるのはそれらのどちらが音が良いのか、ということでしょうが、これは一般的には前者(NS-BP200+安アンプ)の方が良いと思います。
この価格帯のパワードスピーカーというと、特にEdifier R1280Tが候補に上がるでしょうが、これはあまり褒められる音ではなく、高音が特にイマイチな感じです(筆者に親しい者が所有しており、試聴したことがあります)。
単体スピーカーとしてはべらぼうに安いので、これとアンプを買ってオーディオ入門の第一歩とするとか、寝室用の簡易オーディオを組む、などであれば好適でしょう。ストイックに音の良さを求めないのであれば、十分だと思います。最近はパワードスピーカーや一体型のシステムなどもありますが、やはりバラで買って組み合わせを楽しむのがオーディオというものだと思います。
このスピーカーは設置環境に厳しい部分がありますが、それも入門には最適な特徴かもしれません。購入したら様々な設置方法を試し、それがいかに音に大きな影響を及ぼすのかを学ぶことができます。そのための良い教材と思います。
本記事の内容は以上です。
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