ヘッドホン

DENON AH-D1200のレビュー:正当なDENONサウンド。

DENON AH-D1200のレビューです。

デノン最新世代シリーズの末端モデル。アームが折れることに定評があるAH-D1100の後継になるかと思いきや、その上位モデルという位置づけのようです。

全体的にスキがなく、完成度が高いヘッドホンです。筆者のお気に入りでもあります。人にもオススメしやすい推せるヘッドホンです。

外観・仕上げ等

全体

全体図

曲線で構成されたなめらかなデザインです。細身ですが、あまりスタイリッシュではないと思います。

ヘッドバンドからハウジングまで伸びるアームはアルミダイキャスト製。アームの裏打ちはプラスチックです。
このアームが、良くも悪くも全体の雰囲気を握っている感じです。少々モッサリした雰囲気の原因は、このくびれかもしれません。

仕上げ

ハウジングはピーチスキン加工のようなラバーコーティングのような感じで、さらさらの質感ですが、なにかねっとりしています。触り心地は悪くないのですが、ホコリが付きやすく取れにくいという厄介な仕上げです。その証拠に、上の写真でもゴミが付いているのがわかります。撮影する前によく拭いたつもりだったのですが…

アームは上記の通り金属製で、やたらぶ厚い塗膜の塗装仕上げ。これがやぼったさの原因かもしれません。光沢があるのもイマイチです。薄膜のつや消しから半光沢くらいの焼付け塗装にするか、黒アルマイトなどであれば、かなりカッコよくなったでしょうに。
しかしながら、金属のひんやり感があるので、見ずに触るだけなら満足感があります。

ヘッドバンドは内側がファブリックで、外側が合皮です。詳細は後述。

側面

側面

側面。ツルッとしたデザインなので、あまりコメントできることがありません。

後ろの木っぽいものは、自作ヘッドホンスタンドです。パイン材に濃い色のニスを塗ったもの。

ヘッドバンド

上面

ヘッドバンドもツルッとした感じです。

上述の通り、内側がファブリック(布)で、外側が合皮。
内側も合皮のヘッドホンが多いのですが、そういうタイプは内側だけが加水分解し、ボロボロになります。このヘッドホンではその心配はなさそうですので、機能性には優れていると言えそうです。

バッフル面

バッフル面&イヤーパッド

イヤーパッドは時計回りに回すと外せます。イヤーパッドとハウジングが楕円なので信じ難いと思いますが、回して外します。取り付けるときは反時計回りに回せばよいのですが、少し難しい。イヤーパッド側と本体側のツメどうしが、どのように噛み合うのかを見極めるのがコツです。

バッフルは傾斜しているタイプ。このタイプの方が装着感、音共に優れていると筆者は思いますが、定位が前方に来るので、好みが分かれる部分かもしれません。

また、バッフルには網のようなものが貼り付けてあり、容易に剥がせません。少し剥がして中を見てみましたが、そんなに面白いものでもありませんでした。ドライバーも普通のPETのようですし。

外観 総評

全体的に、ツルッとかつヌメッとしたデザイン。公式では「洗練されたコスメティックデザイン」(出典:AH-D1200公式サイト)を売りにしていますが、筆者は洗練されていると思えません。良いデザインにしようとして失敗したようなおもむきを感じます。トヨタの車のように。
とはいえ、許せないほど醜いものでは決してありません。あるべきシンプルさはあります。

アルミダイキャストのアーム部分の仕上げは惜しいところ。これがもう少し金属感のある仕上げだったりすれば、外観への評価は変わってくるでしょう。

総合的には、洗練されているとは言えないが、デザインが悪いとも言えない感じでしょうか。光るものを感じるが惜しい部分も多いという外観です。

付属品など

付属品は次の3点。

  • 通常ケーブル
  • マイク付きケーブル
  • キャリングポーチ

標準プラグへの変換アダプタは付属しません。

以下は詳細です。

通常ケーブル・マイク付きケーブル

通常ケーブル&マイク付きケーブル

ケーブルはどちらも細く、1.3mの長さです。コネクタはアンプ側がL字型の3.5mmステレオミニ、ヘッドホン側が2.5mmプラグ。2つのケーブルの違いは、マイクがついているかそうでないかということのみ。

ヘッドホン側コネクタが4極なので、4芯ケーブルかもしれません。そうだとすれば、こだわりを感じるものです。4芯ケーブルでも根本が3極なので意味がないと思うかもしれませんが、ケーブルを4芯にするだけで左右チャンネルのセパレーションが増し、音場が広くなるような効果があります。

マイクの部分は非常に安っぽいもので、オマケ程度です。

最初にケーブルを本体に差し込むときはかなり固いので、遠慮せず押し込んでください。バチンというような手応えがあるほどに固くなっています。何度か抜き挿しすると落ち着いてきます。

キャリングポーチ

キャリングポーチ

ポーチは外側がやや荒い質感の布で、内側が起毛生地の2層構造。それに加え、角が丸く縫ってあるなど、結構凝っているようにも見えます。
合皮のポーチより安っぽく見えますが、長い目で見れば布の方が優れているでしょう。

外側にはロゴがエンボス加工されていますが、非常に地味です。画像の左下のあたりにかすかに写っています。

音について

概要

音は「デンオン」だった時代のスピーカーの面影がある、実に正当なDENONサウンドです。かつては非常にソリッドで無骨という雰囲気の音でしたが、このヘッドホンにもその雰囲気があります。しかし無骨一辺倒という感じではなく、あるべき「丸さ」のようなものが付加され、聴いた瞬間に無骨だなァと思うほどではなくなりました。

しっかりした低音に支えられ、やや中域が張り出し、高音の遠慮がないのも当時の音そのままです。

聴感上の周波数特性と音場感は次の図の通り。最低音の薄い部分は、アンプなどの環境によって変化する具合を表しています。

DENON AH-D1200 音の傾向

この図の詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は音の詳細です。

周波数的な特徴

低音域

低音は適度に丸みがあるがだぶつかない、ちょうどよい感じ。DENONも丸くなったなァという感じです。

低音の量は適正かやや多いくらい。しっかりとした低音で、重心が低めな安定感のある音を出します。

先述の通り、アンプによって低音の具合が違います。パワーが出せるアンプに接続すると低音が多くなり、そうでない場合はスッキリした感じになります。しかし後者の場合でも、ボワついた雰囲気ではありません。ずいぶんと不思議な鳴り方です。
ドライバーが50mmもあるので、パワーがない環境では制動しきれずにボワついた感じになるならわかりますが、どうもそうではなさそうです。

中高音域

中域はやや張り出す。ボーカルなどは非常にクリアです。この部分と安定感のある低音がDENONらしさの秘訣でしょう。

高域はしっかり出ていますがあっさりめ。心地よく聴けるように高音を少なめにしようなどと思わないのが無骨感の原因かもしれません。

音場感・定位感

音場は広め。耳が入る空間が広く、ドライバーと耳の物理的距離があるので、そのおかげかもしれません。

定位は前方。バッフル面が傾斜していることによるものと思いますが、それにしてもずいぶんと前に定位する気がします。

ヘッドホンにしては窮屈に感じない空間表現です。あまりヘッドホンに対してこの言葉を使いたくはないのですが、「音場感が良い」といったところでしょうか。

音量・鳴らしやすさ

音量

音量は普通。いかにも日本メーカーのヘッドホンだ、という音量です。

大抵の機器において、十分な爆音を出せるでしょう。

鳴らしやすさ

鳴らしやすさは、よくわかりません。ドライバーが50mmもあるので鳴らしやすくはないでしょうが、鳴らしきれていなさそうな環境でも不満は出にくいと思います。

このヘッドホンにおいては、何度も書いている通り、環境を変えると低音の量が変わります。しかしそれだけであって、ショボい環境でも聴けない音にはなりません。

アンプなどは好みで選べばよいと思います。スマートフォンなどに直結するのも十分にアリです。
筆者の場合は、ショボい環境の方がバランスは好みです。パワーのあるアンプを使った場合は、少し低音過多に感じます。ちなみに、筆者が試したショボい環境とは、iPad(第6世代)のヘッドホン端子に直挿しです。

これは完全に蛇足ですが、最近はスマートフォンなどからヘッドホンジャックが消え、鳴らしきれなさそうな環境で試すことすら困難になっています。そういう意味では、iPadの無印モデルは貴重な存在です。ProやAirになるとヘッドホン端子が無くなりますし。

音について 総評

全体的には、しっかりした低域にやや張り出す中域、遠慮のない高域と、ドンシャリにカマボコを足したような感じです。しかしフラットで面白みがないのとも違います。あえて言うなら無骨。
空間表現にも優れ、音に関してはスキがありません。

普段スピーカーで聴いている人にも馴染みやすい音だと思います。スピーカーと比べると、ヘッドホンは高域が少ないものが多いと思いますが、このヘッドホンは違います。

無骨だなんだと書いていますが、低域や中域が充実しているので、比較的万人向けと言って問題ない音だとは思います。

装着感

装着感はかなり良いと思います。

イヤーパッド

イヤーパッド

イヤーパッドはほぼ楕円ですが、少し変形した形状のようにも見えます。

表面は質感の良い合皮で、公式によると従来の2倍の耐久性を得たもののようです。プロテインレザーの類だと思います。
この合皮はあまり革っぽくなく、非常にもちもちとした質感です。革というよりはゴムのような感じ。かといってシリコンゴムのような無機質な雰囲気でもなく、なんとも微妙な質感です。しかし肌触りが悪いということはないので、その点に関しての心配はいりません。

内部のスポンジはやや低反発でやわらかめ。

寸法は次の通り。単位はmmミリメートルです。本格的な図面風味なのでちょっと見づらいかもしれませんが、これ意外の方法を思いつきませんでした。青線の部分がイヤーパッドです。

イヤーパッド各部寸法

イヤーパッドはそこまで大きくはありませんが、深さがあり、さらにバッフル面が傾斜しているので、耳が接触しづらいと思います。

ヘッドバンド

ヘッドバンドは頭頂部に接触する部分がファブリックなので、蒸れにくく良い具合です。また、前述のように、加水分解してボロボロになる心配はありません。その反面、整髪料などがつくと取りにくいので、気をつける必要があります。

内部のクッションは厚めで、頭頂部への攻撃力は低い。最初は少し硬めに感じますが、徐々にフィット感が増してきます。

側圧

側圧は適正と思いますが、ほんの少~しだけ強いかもしれません。イヤーパッドやヘッドバンドが優秀なので、側圧は全く気にならないと思います。

装着感 総評

装着感は非常に良いと言って大丈夫と思います。もっちりとしたイヤーパッドやヘッドバンドに包まれるような装着感です。

ヘッドホンを装着している、という感覚の強めな装着感ではあります。
例えばAKGの装着感が良いモデルは空気のようなもので、何も装着していないようにすら感じられるものですが、このヘッドホンはその逆です。しかしクッション性に優れ、いつまでも装着していられるので、装着感が良いという感想になります。

携帯性

携帯性はわりと良い。十分に持ち運べるヘッドホンです。

持ち運びしやすさ

ハウジングを回して平たくできるうえ、折りたたむこともできるので、少し小さくなります。折りたたんだ状態が次の写真。

折りたたんだ状態

キャリングポーチも付属しているので、持ち運ぶのには適切でしょう。

外部遮音・音漏れ防止

外部遮音性や音漏れ防止性は優れています。密閉型ヘッドホンの中でも、非常に優秀な部類です。

外から入ってくるほとんどの音を遮断しますし、音漏れもほとんどありません。
音漏れに関しては、爆音だとさすがにマズいでしょうが、一般的にうるさいと感じるくらいの音量であれば、ほとんど問題ありません。

総評

やや細身なデザインで、実にDENONなサウンドを奏で、装着感や携帯性にも優れるヘッドホンです。完成度は相当に高い。

エントリーモデルというには少々高価ですが、それ以上の価値があるといって問題ないと思います。少なくとも、このD1200の下位モデルのD1100よりはオススメです。これらの価格差を考えても、D1200の方がお買い得と言えるでしょう。

これといった欠点がないので、素人から玄人まで、万人にオススメできます。そういう意味では、非常に推せる一品です。

これを書いている時点で、筆者は30本以上のヘッドホンを持っていますが、その中でも最も気に入っているヘッドホンかもしれません。音を気に入っているのが一番の理由ですが、何時間でも着けていられて、しかも携帯してどこでも使えます。
筆者は基本的に音8割、他2割くらいの重みでヘッドホンを評価しますので、音がよければなんでもいいというスタイルに近いのですが、これは自分だけの評価です。他者に勧める場合は、その他の項目が無視できないと思っています。本サイトもそれに則り、音以外にも詳細に記述しているつもりです。そのような点では、このD1200は、推せる下地が完璧です。しかも音は非常に筆者好み。

DENON AH-D1200、筆者激推しのヘッドホンです

本記事の内容は以上です。

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