Fostexのヘッドホン、T50RPmk3nのレビューです。
Fostexの平面駆動・半開放型スタジオモニターヘッドホン。改造すれば良い音になることで有名なT50RP(初代)から続く3代目のモデルです。姉妹モデルのT20RPmk3n(密閉型)やT40RPmk3n(開放型)もありましたが、現在は生産終了しているようです。
なお、このT50RPmk3nは生産終了していますが、後継のT50RPmk3gは現在も生産中です。このmk3gは付属ケーブルのコネクタを金メッキにしたもので、ヘッドホン本体は同じものと思われます。mk3gの購入を検討している場合でも、このレビューは参考になるはずです。
(このケーブルの変更は、公式ページに「プラグ由来のノイズが発生することがある」との旨が書かれているように、ニッケルメッキプラグの問題を認識していたようですので、その関係でしょう。)
外観・仕上げ等
外観や仕上げについてのレビューです。
全体
全体。基本的には黒ですが、ガンメタの調整部やオレンジのロゴ・ケーブルをワンポイントにしています。
全体的に角張っており、いかつい形状をしています。
仕上げ
全体の材質はほぼプラスチックですが、ガンメタ部品は金属製です。
プラスチック部品はほぼ全て塗装されており、一部の部品は印刷でキレイに仕上げられています。
側面
側面。ハウジングに印刷で何やら書いてあります。
R表記の上の横縞は開放用の穴です。裏から布が貼られており、それによって半開放ということになっているようです。なお、その上部にも似た部分がありますが、こちらはダミーです。
上面
上面。幅広のヘッドバンドに、これ以上ないほどの大きさでメーカーロゴが書かれています。しかも黒地に白の文字という、最もコントラストが高い配色です。ヘッドバンドにロゴを表示するのはお約束とも言えるものですが、大抵はエンボス加工のようなもので地味です。ここまで堂々としているのは清々しさすらあります。
伸縮機構
このヘッドホンももちろん頭に合わせた大きさに調整できますが、やや異質であると言えます。まず、最も縮めた状態がこれです。
そして、最も伸ばした状態がこれです。
完全に伸ばした状態は、明らかに長すぎます。頭頂部から耳がこんなに離れている人はいないでしょう。この調整部(ガンメタ部品)の長さのバランスを、デザイン優先で決めたら結果的にこうなったとでも言うのでしょうか。
バッフル面
イヤーパッドを外すと、次のようになっています。
中央の四角い物体はもちろんドライバーです。平面駆動なので独特の形をしています。
スポンジをはめる部分の周りは穴が開いていますが、これは内部と繋がっており、ここからハウジング内部で反射した低音を拾っているようです。反射した低音以外の音は雑味の原因になるので、スポンジで吸収させているのでしょう。
外観 総評
角張ったごつい形状ですが、仕上げは丁寧です。
ヘッドバンドのロゴは驚きの自己主張ぶりですが、たまにはこういうヘッドホンも良いと思います。
付属品など
付属品は次の2点です。
- ステレオミニケーブル
- 標準プラグケーブル
ケーブル交換で対応できるためか、ステレオミニと標準プラグを変換するアダプタは付属しません。
ステレオミニケーブル
両端がステレオミニプラグのケーブル。どちらも全く同じコネクタなので、向きはありません。
オレンジで目立ちます。見た目重視ならこちらを使いたいところ。
柔らかく曲げクセがつきにくいものですが、ゴムっぽい質感が強く安っぽい。本当に中に金属の芯線が入っているのか疑問に思うほどです。黒いほうのケーブルと比べると、こちらはオマケ感が強く感じてしまいます。
標準プラグケーブル
ヘッドホン側がステレオミニで、アンプ側が標準プラグのケーブル。
黒く地味ですが、ケーブル本体の質感はこちらのほうが優れています。こちらも柔らかく曲げクセがつきにくいものですが、ゴム感がほとんどなく、質感が良い。
標準プラグの重厚感も魅力です。
なお、どちらのケーブルともに接点がニッケルメッキなので、長期間放置していると酸化膜が形成され、導通が悪くなることがあります。軽いものであれば、布などで強く乾拭きすることで落とすことができます。目に見えて全体が白っぽくなっている場合は重度で、布などでいくら拭いても落とせません。その場合はピカールなどの金属磨きで軽く磨くと復活できますが、やりすぎるとメッキが剥げるので、ほどほどにしましょう。
現在生産中のT50RPmk3gの場合は、コネクタの接点が金メッキになっているので、そのような心配はほとんどありません。
音について
音についてのレビューです。
概要
全体的にはフラットですがややカマボコ型。音の色付けを全く感じず、ウォームともクールとも言えない無色な音です。
このヘッドホンの音のイメージが次の画像です。
この画像の詳細はこちら。
周波数的な特徴
低音域
低域は多くも少なくもないナチュラルなバランス。アンプがしっかりしていれば、適度な締まりも得られます。
特筆すべきはバスドラム等の太鼓系で、その類の音のホンモノ感が段違いです。平面駆動という方式が太鼓と同じような発音方式ですので、そのようなメリットがあるのかもしれません。
同じような方式で言えばSTAXイヤースピーカーも同様で、たしかにそのように感じられるのですが、STAXは振動板が軽すぎるのか低音の迫力が乏しく、結果としてこのT50RPmk3nほどのホンモノ感は出ていません。
STAXイヤースピーカーとは方式が似ているからか、全体的に似たような音と感じますが、低域に関してはこちらの方が優れているとすら言えます。
中高音域
中域は少し張り出しますが、最大の特徴は非常にセンシティブなところです。中域に関しては超高性能と言って問題なく、音源や再生機器に少しでも問題があると途端にざらつきます。じゃじゃ馬と言ってもよいでしょう。そういう部分があるので、単に音楽鑑賞用に購入するのはおすすめしづらい部分があります。
ボーカルのサ行などはかなり刺さります。刺さる音が苦手な場合は注意が必要です。しかし、これのおかげでフラットなスピーカーのような音であるとも言えます。
超高域はやや少なめに感じますが、ヌケは良く、質が良い。
音場感・定位感
このヘッドホンの場合、音場や定位は機器に依存しますが、おおむね音場は狭めで定位は良い。定位は直線的です。
音量・鳴らしやすさ
音量
音量は小さい。筆者の検証によると、iPad直挿しで8割か9割くらいまで音量を上げねば満足な音量になりませんでした。爆音派の人は必ずハイパワーなヘッドホンアンプが必要です。
他のヘッドホンとの比較では、K612と同程度か、それよりやや大きい程度です。インピーダンスの割には小さめの音量でしょう。
鳴らしやすさ
非常に鳴らしにくい。特に問題になるのは、やはり中域のざらつきです。ノイズが少ない上質なアンプを使う必要があり、本当にアンプのクオリティが求められます。例えば、鳴らしにくいと評判のAKG K700シリーズは、アンプのパワーさえあれば全て美音に仕立ててくれるので、細かいことは意外にも気になりにくいのですが、このヘッドホンではそうもいきません。じゃじゃ馬なヘッドホンです。
しかし、出力が小さいiPad等でも低域が露骨にしぼんだりせず、全体のバランスはあまり変わらないところは評価できます。
音について 総評
弱カマボコで色付けを感じない音ですが、刺さり感があり中域は異様なほどにセンシティブで、ピーキーです。良い音というよりは高性能というタイプ。
STAXと似たような感覚を安く味わえる魅力はあります。しかも、低域の押し出しはより優れているとも言えます。こちらはやや荒く、より重厚です。
装着感
装着感は悪くはないが良いとも言えない。
イヤーパッド
イヤーパッドは合皮ですが質感が良い。プロテインレザー(天然由来のタンパク質等を配合した合皮です)にも似た質感です。弾力も良く、もちもちです。
形状は長円形(オーバル形)で、外側が110×95mm、内側が65×40mm、厚さは15mmです。イヤーパッドが薄く、ほとんどの場合は耳がバッフル面に接触します。
基本的には良いイヤーパッドですが、薄いのが惜しいところ。
ヘッドバンド
ヘッドバンドのクッションは薄め。本体が重めなので、長時間は使用は確実に頭頂部を攻撃してきます。
ヘッドバンド本体が幅広ですが、それは装着感に関係がありません。ヘッドバンドは頭頂部のほぼ1点で接触するので、幅が広くても狭くてもあまり影響がありません。
側圧
側圧はやや弱いか適正くらい。強いとは感じないと思います。
装着感 総評
イヤーパッドは薄さ以外は良く、その他の要素も悪くはないため、装着した瞬間はいいかもしれないと思いますが、長時間の使用では細かい部分が確実に悪さをしてきます。イヤーパッドが薄いことによって耳がバッフル面に当たり痛くなり、さらに本体の重さと側圧の弱さ、クッションの薄さが合わさり、頭頂部も痛くなります。
プロ用を謳うものは装着感があまり良くないものが多い気がしますが、気になってきたらヘッドホンを外して休憩しろ、ということなのでしょうか。
携帯性
可搬性などについてのレビューです。
持ち運びしやすさ
可搬性はあまり良くない。ポーチ等は付属しませんし、折りたたむこともできません。また、本体は比較的大柄です。
外部遮音・音漏れ防止
遮音性は意外に悪くはない。半開放型ですが、密閉寄りのようです。
音漏れもそう多くはない。十分な音量で音楽を鳴らしていても、扉を開けた隣の部屋にほとんど聞こえない程度です。音漏れが多めの密閉型とほとんど同じくらいしか漏れません。
総評
ごつめの大柄な外観に、透明感の強い音を出すヘッドホンです。
特に中域が非常にセンシティブで、使いこなしが難しい面があります。この高性能さを活かし、アンプやDACのベンチマーク用に所持するのはアリではないかと思います。マニア向けのヘッドホンです。
平面駆動ヘッドホンの中では鳴らしやすく、価格も控えめなので、入門用として良いかもしれません。前述のように、安価なSTAXの代替としてのポテンシャルもあります。
本記事の内容は以上です。
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