JBL Control 1の修理、レビューです。
Control 1シリーズは、80年代に発売した初代を筆頭に様々なモデルがあり、現在もControl 1 PROというマイナーチェンジ版を購入できます。本記事では初代モデルであるControl 1(無印)を取り上げます。初代モデルは、ウーファーのウレタンエッジが加水分解し、ボロボロのものがジャンクとしてよく出回っています。
修理に関しては、画像が少なくわかりにくいのですが、わりと詳細に記述しています(筆者としてはそのつもりです)。
このスピーカーの修理記事は他サイトさんでもよく取り扱っているので、それらの情報と合わせてご活用ください。
修理
修理に関しては、ウーファーのエッジを自作エッジで張り替え、ネットワークの電解コンデンサの劣化をチェックした程度です。ツイーターは音に問題はなく、下手にいじるとマズそうな雰囲気がありましたので、手を出していません。
修理の全体に関わることですが、このスピーカー、とにかくあらゆる部分が接着剤でガチガチに固めてあり、分解するだけでも難儀する曲者です。使われているのはゴム系接着剤ですが、シンナーに溶けにくいというおまけ付き。正直なところ、あまりやりたくないタイプです。
本体の分解
エンクロージャをかち割ります。接着剤で強固に貼り付いているので、分解するというよりはかち割るという方がしっくりきます。まずこれをやらないと、どの作業もできません。
まず、正面のネジ6本を六角レンチでゆるめて、取り除きます。
次に、本体側面の溝の隙間にマイナスドライバーなどを入れ、接着剤をはがします。それさえできれば、あとはわりと簡単にかち割れるはずです。ただし、全体にスポンジ状のガスケットがついており、それが固着しているので、少々力がいります。
次の画像の青い四角で囲ったあたりに接着剤がベットリとついています。その次の画像は、分解したあとの接着剤の様子です。
ウーファーの取り外し
接着剤でガチガチなので、なんとかして外してください。接着剤が付いていそうなところにカッターを入れたりすると良いかもしれません。
時には力ずくでしか解決できないこともあります。頑張りましょう。
ウーファーエッジ張り替え
ウーファーのエッジを自作エッジで張り替えました。買い取り時点でエッジが存在しない状態でした。
自作エッジは布に液体ゴムを染み込ませたものですが、元がウレタンエッジなので、極力柔らかい仕上がりになるようにしました。
難敵はウーファーのフレームに接着されているガスケット。これは表からスポンジ状のもの、エッジ、紙のガスケットという3層構造になっています。スポンジ状のものは身近に代用できそうなものがないので、やさしく剥ぎ取って再利用しましょう。2層目のエッジはきれいに剥がし、3層目(フレームに直接接着)の紙ガスケットはそのまま使いまわしましょう。この紙ガスケットをきれいに取ろうとすると、かなり大変です。シンナーに溶けにくい接着剤で、嫌がらせのごとくガッッチガチ(誤字ではありません)に接着してあります。次の画像は断面図のイメージです。
コーン側に残ったエッジのカスを除去するのも、また大変です。まずは手で除去し(ベタベタしますが我慢しましょう)、細かいところはマイナスドライバーなどで優しくやりましょう。カッターは最終手段です。紙コーンなので、折らないように気をつけて作業しましょう。
万が一折れた場合は、折れた箇所とその周辺に水を染み込ませ、1周間くらい置いて乾燥させると、強度だけはだいたい戻ります(100%ではありません)。見た目は戻らないと思います。
修理したウーファーはこんな感じ。エッジが柔らかすぎて張る作業が難しく、シワが寄ってしまいました。ちなみに、例の紙ガスケットは完全に除去し、作り直したものを装着してあります(写真では見えませんが)。写真は次項のコーン塗装も終えた状態です。
エッジの自作・張り替えの詳細は以下の記事から。
ウーファーコーン塗装
筆者が入手した個体は、ウーファーのコーンが油性マジックで塗装されており、あの怪しげな紫がかった黒に輝いていました(写真がなくて申し訳ない)。音には影響なさそうですが、なんとなく気になるので、アルコールで剥がしました。すると、元からコーンに含浸してあったダンプ剤のようなものの表面が溶け、みすぼらしい見た目になってしまいましたので、薄くラッカースプレーで塗装しました。
電解コンデンサのチェック
ネットワークの電解コンデンサを外し、測定器でチェックします。
これも例外なく接着剤のようなもので固めてありましたが、ホットメルト接着剤のようなベタつきの少ないタイプでしたので、簡単に除去できました。
測定したところ、若干の容量肥大の雰囲気も感じましたが、定格の10%以内でしたので、問題なしとしました。ESRについては非常に良好で、ほぼ0Ωでした。電解コンデンサとしてはべらぼうに優秀です。
ネットワークの詳細は後述しています。
修理は以上です。あとは掃除した程度です。
修理 総括
とにかく修理が面倒なスピーカーです。恐らくというかほぼ確実に、メーカー側で修理するようにはできていません。安価なモデルということもあり、修理対応には本体の交換で対処していたのではないかと思います。
これを修理できたなら、大抵のスピーカーは修理できるでしょう。スピーカー修理は部品を力ずくで外すようなことがよくあるので、その基礎を学べるスピーカーです。ここまでガチガチに固めてあるものはそう多くないとは思いますが。
外観・仕上げ等
全体
全体的に無骨なデザインです。ミリタリー感すら漂っています。
ウーファーは修理によって正常な見た目を手に入れました。
ツイーターはプラスチック丸出しの安っぽい見た目ですが、音は悪くないものです。ツイーターのディフューザーは透明プラスチックですが、なぜ透明なのかは謎です。余計に金をかけないために、プラスチックに顔料を入れなかっただけかもしれません。
縦に置いたときに天面・底面になる面には、ゴムが貼ってあります。ベタ置きしても問題ないということなのか、天吊り・壁掛けを見越して落下時の衝撃対策をしてあるのか、などの理由が思いつきますが、本当のところはよくわかりません。ただのデザインである可能性もあります。
残念なのは、金網を外した状態では、JBLのロゴが極端に小さく刻印されているだけということです(写真右)。ツイーターの上に小さくロゴがあります。筆者は基本的にネットや金網をつけない派ですが、こればっかりは残念すぎるので、つけて使っています。見ての通り、金網には大きくロゴが配置されており、見た目の満足感が違います。
仕上げ
仕上げはプラスチック丸出しですが、塗装はされています。少し青みがかった濃いグレーです。塗膜は薄く、下地の質感はそのまま残っています。エンクロージャは発泡ポリプロピレンで、梱包材よりはかなり高密度なものです。
金網
特に言うこともない金網です。普通のサランネットのようにダボで取り付けるものではなく、金網の周りに付いているゴムが本体のくぼみにフィットする感じで付きます。保持力が高くないので、天井や壁に設置する場合は取り外すか、両面テープで固定するなどした方がよいでしょう。
金網に付いているロゴは回すことができます。横置きなどでもロゴを正しい向きにしておけます。特に必要のない機能ですが、こういう機能は嫌いではありません。
背面
背面にはターミナルや天吊り・壁掛け用金具取り付け用の穴、落下防止のワイヤーをつなぐ金具があります。
これ見よがしなJBLのロゴもあります。JBLは自分のブランド力があることを理解していて、わざとやっている感じがありますよね。
ターミナルはプッシュ式ですが、バネの力が強く、強力にケーブルを保持できます。プロユースを意識したものかもしれません。
外観 総評
ミリタリー感すらある無骨なデザインです。全体的にプラスチック丸出しで高級感は皆無です。
金網を外すとロゴが小さいのが残念でなりません。
音について
概要
音は高音寄りで、低音はサイズを考えてもずいぶんと出ません。そのかわり定位感は抜群です。
次の図は、このスピーカーの音を感覚的に示したものです。
この図についての詳細はこちら。
以下は詳細な説明です。
周波数的な特徴
低音域
低音は出ません。ウーファーの口径やエンクロージャのサイズを考慮しても、かなり出ない方だと思います。これはバスレフポートのチューニングの関係ではないかと予想します。ポート周波数を下げすぎて、ただの空気穴になっている感じです。
しかし、無理に出そうとするよりははるかにマシです。そのおかげでスッキリとした音になっています。
中高音域
中音域はナチュラルでシャープです。これはフルレンジのような特性のウーファーによるものでしょう。このスピーカーは基本的に、フルレンジにスーパーツイーターを足したような構成になっていますので、クロスオーバー付近の濁りがなく、シャープな雰囲気が出ていると考えられます。これはネットワークの項でも詳述しています。
高音はかなり強い。しかし刺さりすぎることもなく、ツボを抑えている、という感じです。
その他
金網の有無で音がやや違います。金網がない方がきれいな雰囲気で、つけると少しシャリつきます。つけない方が音は良いのですが、上述のように見た目があまり良くありません。
音場感・定位感
音場は狭い。非常にコンパクトなスピーカーなので致し方ないところはありますが。
定位はかなり良い。スパッとそこに存在感を示してくる感じです。
左右のスピーカー間を直線状に定位する感じがあります。普通のスピーカーはやや前に出てくる感じの定位が多いので、相対的に奥まったような表現に感じます。
音について 総評
高音寄りで低音が出ないスピーカーです。うまく調教されている感じはありますが、クセが強いスピーカーです。
中音域が非常にシャープなのと、高音寄りであることが合わさり、超シャープに感じるサウンドです。
ユニット・ネットワークなど
ユニットやエンクロージャ、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。
ユニット
ウーファー
ウーファーは次の画像のようになっています。
ウーファーのインピーダンスが実測値で2Ωくらいしかありません。ネットワークを改造する場合は注意が必要かもしれません。
コーンは紙にダンプ剤を含浸したものです。センターキャップは紙そのままという質感です。エッジは当初はウレタンでしたが、クロスエッジに張り替えてあります。
マグネットは防磁型のものです。この手のものは中身のマグネット本体が小さかったりしますが、このウーファーではそのようなことはありません。
ツイーター
ツイーターは次のようになっています。見るからに外すのが面倒そうなので、取り付けたままなのは勘弁してください。
インピーダンスは実測4Ωくらいです。
振動板はまごうことなきプラスチック。セミドーム型らしき形をしています。
マグネットは非常に小さい。キャンセルマグネットが付いているので防磁型です。
なんというか、みみっちいツイーターです。少なくとも見た目は。
エンクロージャ
箱の中身は次のようになっています。
プラスチックを成型して作った箱なので、あまり面白みはありません。
吸音材は下部にベロンと1枚。材質はポリウールと思います。箱の材質と大きさのわりには、大きめな吸音材が入っている気もします。
バッフル側は接着剤まみれですが、最初はもっとひどい状態でした。ウーファーもツイーターと同様にガッチリ固められており、外すのに苦労しました。ネジにも接着剤が入り込んでおり、余計な苦労が増える原因になります。
バスレフポートが長い。ポート周波数も低めに感じます。
ネットワーク
回路基板
ネットワーク基板はターミナルの裏に直付けのタイプです。ターミナルの裏から出るファストンのオス端子に基板を直接はんだ付けしてある斬新な方式です。
裏にあまり見ない素子が付いていますが、これは電球です。試しに基板から外して6V程度の電圧をかけてみると、光りました。6Vではあまり明るくなかったので、定格は12Vくらいかもしれません。
コンデンサは電解ですが、小容量のフィルムコンデンサを並列に接続してあります。写真では見えないのですが、基板の中央付近にひっそりとあります。
コイルは2つとも空芯です。
回路図
次の図は、このネットワークの回路図です。
なんというか、あまり見ない構成です。特にウーファー側が。これは特定の帯域を凹ませる帯域阻止フィルタに分類されるものですが、それに並列に抵抗を接続することによって、凹ませる具合を抑えている感じです。具体的な挙動は次のボード線図を見ればわかります。
肝心の電球は、コイルと直列に入っています。電球は、印加される電圧を上げると抵抗値が上がる性質があります(非線形抵抗)。コイルは低域信号を通す素子なので、このように構成すると、入力信号が上がるにつれ、低域信号が流れづらくなることになります。すなわち、音量を上げるほど、相対的に低音が少なくなるということです(実際には低音だけではありませんが、体感的にはそのように聴こえます)。
実際、パソコン用スピーカーとして小音量で聴いているときは低音が少なく感じないのですが、それをオーディオルームに持ち込んで聴くと、ずいぶん低音が少なく感じます。
ボード線図
次の図は、このネットワークのボード線図です。この回路をLTspiceに入力し、周波数解析したデータから作成したものです。ただし、スピーカーと電球は固定抵抗としています。電球はテスター計測で0.5Ωでしたので、その値を使用しました。つまり、極めて小音量の場合の特性です。音量が上がると、ウーファー側ゲインの3kHz以下が減少していきます。
上述の通り、フルレンジにスーパーツイーターを足したような構成に見えます。ウーファーの3kHzあたりを凹ませているのは、そのあたりにピークが出るからなのか、あるいは不快な刺さる帯域を削りたかったのか、あるいはどちらもなのか謎ですが、これがなければうるさすぎる音になっていたことに間違いはないでしょう。
総評
無骨なデザインとは裏腹に、高音寄りのシャープサウンドなスピーカーです。低音が欲しい場合は、サブウーファーなどと併用するのもよいでしょう。
かなり筐体が小さいので、PCスピーカーとして使うのもよいと思います。筆者は通常そのように使用しています。アンプに関しては、最近は小さい中華D級アンプがよく出回っているので、そういったものを使えばよいでしょう。
あるいは、壁掛けや天吊りできることを利用し、サラウンドバックに使うのもよいでしょう。
これが発売した頃、安価にJBLが買えるということで人気を博し、かなりの個体数があるようです。実際、筆者の近所のリサイクルショップでも頻繁に入荷し、何台も在庫しているところもあります。入手は非常に容易です。ただし、雑に修理されているものも多いので、そういったものには注意が必要です。
本記事の内容は以上です。
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