KEF Model 104のレストアです。
いつもは「修理」としますが、今回がエンクロージャーまでしっかり整備したので「レストア」としています。
レストアしがいのある、圧倒的な音を出すスピーカーです。ただし、レストア作業は死ぬほど面倒でした。
※このレストアは未完です。暫定的に音が出て、ある程度見た目も整ってきたので記事にしていますが、細かいところはやりきれていない部分があります。
※本記事で言及されるスペック等の情報については、オーディオの足跡様の当該ページに準拠しています。
レビュー記事はこちら。
[更新情報]
2022/05/31追記:ネットワークのコンデンサを変更しました。
レストア
レストア内容を詳細に紹介します。
状態の確認
まずは状態の確認をします。
この個体は例のようにハードオフからサルベージしたものですが、保証なしの中古で、ジャンクとは書いていないがほぼジャンクのものでした(名機はジャンク扱いにしないというルールでもあるんですかね?)。状態は「全てのユニットから音が出た」とのこと。音は出たが明らかに正常でなかった、ということをぼかして書いているのはあからさまでしたが、どうせレストアする気マンマンだったので、そのまま買い付けてきました。
価格はヤフオク等の相場を見ても納得できる程度でした。送料を考えると安上がりだったと思います。それに、ここは北海道なので比較的温度や湿度が低く、状態の良いスピーカーが多く見られます。そういう考えもあり、下手にオークション等で本州から輸入するよりは、これを買ったほうが良いと判断したわけです。
ともあれ、そのように買ってきた個体がこれです。
外観からすでに直さなければいけない部分が露呈しています。具体的には、次の画像を参照。
まあなんというか、わりとよくある感じです。ただし、ウーファーのエッジがつぶれているとか、内周部に謎の物体があるというのはあまり見たことがありません。謎の物体は前オーナーがエッジを接着した痕跡かと思っていましたが、実際はコーン表に塗ってあるダンプ剤が集まったものでした。
ウーファーはほとんどストロークせず、センターも全く合っていません。すでに苦戦しそうな予感がします。
また、エンクロージャーは本物のチーク突板が貼ってありますが、肌が荒れて、かわいそうな感じです。一部水濡れのような部分もあり、デコボコがひどい部分もあります。
外側からわかる問題はこのくらいなので、分解します。プラスネジはポジドライブなので、普通のフィリップスドライバーを使うとなめやすく、注意が必要です。
まずはパッシブラジエーターから外しました。ネジは驚くほどスルスルと外れましたが、ガスケットが固着し、なかなか外れません。最終的に、ネジ穴にマイナスドライバーを突っ込んでこじったら外れました。
次はウーファーを外しました。やはり固着していましたが、すでにパッシブラジエーターが外れているので、内側から押して簡単に外せます。ツイーターも同様。
ウーファーの磁気回路部分がすごいことになっています。また、配線は全てはんだ付けで、メンテナンス性が劣悪です。
ツイーターも同じような感じで酸化しています。こちらは端子すらない仕様です。やはりメンテナンス性が劣悪。
次の写真は、ネットワーク基板です。
はんだが全く劣化していません。ツヤの感じから鉛入りはんだでしょうが、50年近く経ってもほとんど劣化しない優れたものなんですねェ。このはんだ、溶けにくいということもありませんし、本当に劣化していない感じです。
このネットワークのコンデンサが悪名高いものなので、チェックする必要があります。
ネットワーク基板に付いていた銘板などはネジとナットで留め、間にスペーサーを挟む方式です。これ、分解するのはともかく、組み立てが難しいんですよね。
銘板に固定されていたロータリースイッチはかなり固く締められており、外すのに苦労しました。モンキーレンチを使っていたのに、外れた衝撃で部品が吹っ飛ぶほどの締付け具合でした。
青矢印のスペーサーが黄色く酸化しています。このように酸化しているのはあまり見たことがありませんが、メッキ等の仕上げが日本で一般的なものと異なるのかもしれません。
改めてウーファーを観察しましょう。次の写真のウーファーは、上の写真のものとは別個体から外したもので、センターキャップがつぶれていませんでした。
見事にエッジがつぶれています。外側の接着面を見るに、収縮した感じです。そのせいで外側が剥がれかかっています。分解前の気密性は問題なかったので、ギリギリのところで踏みとどまっていたようです。
また、コーンに塗ってあるダンプ剤がガチガチに固まっています。これは弾力を復活させるか、もしくは剥がして同等のものを塗り直す必要がありそうです。
センターキャップもガチガチです。これは布にダンプ剤を塗ったもののようなので、元は柔らかいとは言わないまでも、固くはないはずです。そのせいで、つぶれている方のセンターキャップは分解しないと復活できません。掃除機で吸ってみましたが、ピクリとも変化がありませんでした。
軽い分解でわかることはこの程度です。レストアの方針が決まってきました…と言っても、全体的に状態が悪いので、フルレストアせざるを得ません。箱もチーク突板で高級な仕上げですし、ここを妥協するわけにはいかない気がしました。
以降は具体的な作業を記しています。
ネットワークの修理
まずは簡単そうなところから。ネットワークを点検します。
まず、最初の状態が次の写真です。
悪名高いコンデンサと、逞しいコイルが付いています。構成についてはレビュー記事で公開していますが、中域の出方を調整するアコースティック・コンター・コントロールが見どころです。最も大きいコイルの途中から中点が2つ出ており、その定数の変化で中域の出方が変わる独特のものです。-18dB/octでないとできない、巧みな仕様。
ちなみに、ものすごくどうでもよいことですが、コイルの固定に使われている結束バンドは本物のタイラップです。タイラップは本来は商標です。
コンデンサは片側につき5uFが2つと、4.2uFが1つ。見たことがない定数です。全て調べましたが、左右分合わせて6つ、全てダメでした。しかも、計測器でコンデンサとすら検出されないものが大半。かろうじて4.2uFのうち1つが、5uF強くらいの容量に肥大化して生きていました。それによると、両極性の電解にしては損失が少なく、性能の良さそうなコンデンサであることもわかりました。
とりあえず、ユニットが完成したときに音を鳴らせるように、近い値のコンデンサを取り付けておきます。手元にたまたま汎用両極性のルビコンNA 4.7uFが6つあったので(神がかり的に…)、全てこれにしておきました。とりあえずは、元に近い音が出ればよいのです。
さすがに見た目がアレですが、仮設置なので…
(ここから2022/05/31追記)
コンデンサを買ってきて、本格的に据付けました。
元が5uFだったところはParc Audioの5.6uF、4.2uFだったところにはJantzen Audioの3.9uFを取り付けました。むやみに近い定数を選んだわけではなく、定数の変更でどのような影響があるのかを考慮したうえで選んでいます(例えば、5uFだったところに4.7uFを取り付ける手もありますが、あえて5.6uFを選んだということです)。ブランドはテキトーで、狙いの定数の在庫があるものを選んだだけです。どうせ電解ですから、あまりこだわっても仕方がありません。
わざと電解を選んでいます。これをフィルムに変更すると、音量バランス等が悪くなる可能性が高い。また、オリジナルを尊重するということもあります。フィルムコンデンサは電解コンデンサより圧倒的に電気的特性に優れ、音の傾向も全く異なりますので、単純に代替できるとは思えません。
ちなみに、今回使用したコンデンサは全て、両極性電解の割には損失やESRが小さく高性能です。電気的な特性が良いからオーディオ用という部品は多くありませんが、これは例外のようです。
この変更によって、ネットワークの周波数特性は次のように変化します。
見ての通り、ウーファーはややクロスを下げる方向になり、ツイーター側は肩のリプルが減っています。ピーキーな音にならない方向に定数を調整したということです。しかし、変化は非常に小さく、誤差のレベルです。これでオリジナルの雰囲気を95%くらいは取り戻したのではないでしょうか。
(追記終わり)
次はアコースティック・コンター・コントロール用ロータリースイッチの接点復活を行います。これは見るからに接点異常が起きていると断言できるほど、接点が黒々としていました。
次の写真の青矢印のストッパー部分を曲げる(曲げ戻す?)ことによって、接点をずらし、簡単に磨くことができました。
接点はピカールを綿棒やつまようじに付けて、地道に磨きました。これが確実に接点を復活できて、しかも比較的ダメージが少ない方法だと思います。
磨き終わったらアルコールで洗浄して、接点グリスを塗っておきました。
作業前後の様子がこちら。Beforeのものも意外にきれいですが、それは拭き掃除をしてしまったからです。最初はもっとカーボンまみれですごいことになっていました。
接点が銀色になり、いかにも復活した雰囲気があります。もちろん接点抵抗を測って、正常に復活したかどうかも確認しました。
復活したスイッチを取り付け、銘板と基板を組み立てたら、ネットワークの修理は終了です。
ツイーターの修理
次はツイーターです。
ツイーターはまず、掃除機を使ってドームの膨らみを復活させましたが、磁気ギャップ部の錆が気になるので、結局分解することになりました。
分解するには、まず電線を外します。接合部が黒くなっていますが、これははんだ付けしてある上に黒塗装してあるだけなので、そのままはんだごてを当てれば簡単に外れます。
あとは平たいものをドーム周辺部とフレームの間に差し込み、剥がすだけです。この部分は過度な力がかかると割れそうな気配もあるので(ガラスエポキシ基板のような素材です)、できるだけ均等に優しく剥がしていくのがよいでしょう。
位置合わせ用の突起があるので、組み立てるときの心配はしなくて大丈夫です。思い切って剥がしましょう。ただし、向きは合わせられるように印などをつけておきましょう。180度反転しても組み立てられるようになっているので、間違うと逆相になってしまいます。
剥がしたものがこちら。
どこにも見えないと思いますが、密かに向き合わせ用の印がつけてあります。なぜ見えないかというと、黒塗装の上に青マッキーで印を書いたからです。
それにしても、磁気回路のトッププレートがそのままフレームになっているという合理的な仕様です。ただしそのせいでフレーム部に強い磁気が通っており、ネジなどを強烈に吸着しますので注意が必要です。
次の写真は、磁気回路側のアップです。
思いのほかキレイです。ギャップ部に酸化物のカスが溜まっていたりしません。もう1つのものも同じような感じでした。
見えない奥の方にカスが溜まっていたりしても嫌なので、念のためハケで奥まで払っておきました。
このツイーターは分解が簡単なので、とりあえずこのまま戻します。酸化物が溜まってビリ付いてきたら、また分解すればよいのです。
その前に、ドーム部に残ったつぶされていた跡の修復を試みます。まず、修復前のものが次の写真です。
ドーム外縁部、エッジの内側あたりに、つぶされていた痕跡が凹みとして残っています。この凹みは裏から押しても直せず、この形にクセがついてしまっています。
これを直すには、熱を加えます。筆者はごく普通のドライヤーを使用しました。方法は簡単で、ドライヤーでこのドーム部を温めるだけです。熱が一部に集中しないように、こまめに動かしながらやってみました。
これくらいの凹みであれば、熱を加えると、それだけで勝手に直ります。熱を加えながら凹みの部分を裏から押したりする必要はありません。
うまくいくコツは、引くほど高温にすることです。熱くて触れないくらいになり、そろそろヤバいと思ったあたりで、ペコっと直ります。直ったことを確認したら、すぐに加熱をやめて冷却します。
そのように修復されたものが次の写真です。上の写真と同じもので、ほぼ同じアングルで撮ってあります。
なかなかうまくいったと思います。そのかわり端がめくれてしまいましたが、これは接着剤で貼り付けました。
最後に、ボイスコイルボビンの接着剥がれがないかを確認しましたが、特に問題はありませんでした。
あとは組み立てて、ツイーターは終了です。
その後、はんだ付け部の黒塗装をしました。
タミヤアクリルのセミグロスブラックで塗ったのですが、ツヤ消し感が強すぎます。しかし普通のブラックだと光沢でテカテカなので、厳密に合わせたい場合はセミグロスブラックとブラックを混色し、ツヤ感を合わせる必要があるみたいです。
ウーファー修理
ウーファーの修理です。これがこのスピーカーの最大の問題点であり、鬼門です。
まずはエッジを剥がしました。ダンプ剤がパリパリになっているので、一緒に剥がれてきて大変でした。剥がした当時はこのダンプ剤を再生しようと思っていたので、できるだけ残して剥がすことを意識しました。
そしてコーン表側に塗ってあるダンプ剤を軟化させようと試みました。どうせゴム質のものだと思って、ダイヤトーンのエッジ軟化と同じ方法でやりました。これがいけませんでした。
何がいけなかったかというと、まずこのダンプ剤がシンナーに溶けるものではなかったので、効果がほとんどありませんでした。そして、そのくせにコーンの素材がシンナーに溶けやすく、コーンの変形や表面の悪化などを招いてしまいました。
これは筆者が、コーンの素材をポリプロピレンだと勘違いしていたために起こったミスです(ポリプロピレンは全くシンナーに溶けません)。実際の素材はベクストレンで、スチロール系です。スチロール樹脂は非常にシンナーに溶けやすい材料です。
例えば、発泡スチロールは当然発泡させたスチロール樹脂ですが、これをシンナーに投入すると、水に砂糖や塩を入れるよりも超高速で溶けます。
そして写真のようになりました。
そして、肝心のダンプ剤が何なのかというと、おそらくPVA(ポバール)ではないかと予想されます。
ベクストレンについて調べていたところ、B&W 808というスピーカーのページにたどりつき、そこで「コーンはベクストレンでPVAをコーティング」と書いてあったものに着想を得ました。こういう素材の組み合わせは定番のものを使いまわしたりするものですので、この104のウーファー(B200)でも同様かもしれないと思ったわけです。
実際に試したところ、シンナーの種類を問わずほとんど溶けない(つまり有機溶剤に溶けない)がアルコールには溶ける、水には溶けないがかなり膨潤するという結果でした。PVAは水に溶ける樹脂ですが、PVAの劣化について調べると「経年劣化で架橋が進み水に溶けなくなる」という情報も得たので、このダンプ剤は劣化したPVAであると判断しました。水で膨潤するゴム質の材料は見たことがありませんので、元は水に溶ける物質が劣化で改質され、溶けはしないが水に弱いというのであれば、ある程度の妥当性があると思います。
ダンプ剤の素材がわかったので、剥がして塗り直すことにします。PVAといえば合成洗濯のりです。ダイソーの洗濯のりがPVA100%のようなので、これを塗ります。元の塗ってあったものとはケン化度が違ったりして物性も違いそうですが、ガチガチのダンプ剤を放置するよりはマシでしょう。
元のダンプ剤を剥がします。最初はパリパリでしたが、シンナーを少し吸って柔らかくなったのか、ビニール状で簡単に剥がせました。もう1つの個体はパリパリのまま剥がしましたが、これは結構大変でした。
ところで、ウーファーも磁気ギャップ部の酸化物堆積がやはり気になりますので、さらに分解します。
ダンパーがフレームに接着されているだけなので、それを剥がせば分解できます。接着剤はシンナーに溶けるものなので、接着部にシンナーを染み込ませれば比較的簡単に外れます。
このとき、フレームの塗装剥がれが気になるかもしれませんが、その心配はいりません。この塗装は非常に強靭で、シンナーをつけて割り箸でガリガリこすっても少しも剥がれないほどです。
剥がす際、多少無理がかかり、下の写真のようにダンパーが変形することがありますが(写真中央上くらい、やや外周部がゆがんでいます)、これもドライヤーで温めれば元に戻ります。
ダンパーはヘタってはいないと思います。フレームに付いた状態で動かしてもカクカクしませんし、中立でない位置で変形したりもしていません。
そして、問題のギャップ部は次の写真です。
見事にアウトでした。分解して正解です。酸化物のカスを取り除き、防錆剤を塗布しておきました。
防錆剤はクレのスーパーラストガードを使いました。これは車のシャーシ部などの比較的過酷な環境で使用して1年以上持ったというレビューも見られましたので、このような使用法ならばだいぶしばらくは持ってくれるでしょう。塗膜は乾燥してもベタベタしているのでゴミがつきやすく、取り扱いに注意が必要です。
また、フレーム部の接着剤の残りカスは入念に除去しました。ダンパーなどを接着する際に斜めになるとマズいので…
この写真のフレームはもう1つの個体のもので、磁気ギャップ部に問題は見受けられませんでしたが、やはり防錆剤は塗りました。
分解したコーン側は次のようになりました。まずはひどいことになった方です。外周部などの比較的ツヤがなくなっている部分が、シンナーで溶かしてしまった部分です。
もう1つの、問題ない方はこうです。
ボイスコイルをチェックしておきます。
ボビンのアルミ部分は酸化の気配がありますが、ボイスコイル自体に問題はなさそうです。
ウーファーとしては珍しい、細線のショートボイスコイルです。推奨エンクロージャーが密閉型なので、あまり大ストロークを前提としていないのかもしれません。
コーンには、例の洗濯のりを塗っておきます。アルコールで拭いて、残ったダンプ剤を可能な限り除去してから塗りました。次の写真はコーンに洗濯のりを塗った様子です。
この写真ではフレームに組付けられておりセンターキャップが付いていますが、これは分解前に試し塗りしたときのものです(写真の時系列が前後しています)。このときの洗濯のり層は都合により剥がされました。そしてコーンのみの状態で、再度塗布しました。
洗濯のりを塗った瞬間は筆の跡まみれですが、放置していると非常に平滑な面になり、仕上がりはツヤツヤになります。決して乾燥中に触ってはいけません。
また、この洗濯のりは粘度が低く一度に厚く塗れませんので、4回塗りました。だいたい2時間くらいで乾いてくるので、そこで重ね塗りしました。休日なら1日で終わります。
4回塗りの根拠は、剥がした元のダンプ剤と、塗った新しいダンプ剤を剥がしたものの厚さを比較し、だいたい同じくらいと判断したためです。しかし4回塗りでもやや薄い気がするので、5~6回くらい塗ってもよいかもしれません。
次に、エッジを用意します。剥がした後、接着剤を除去したりして準備したものです。
これは多少劣化した雰囲気はありますが、弾力は問題なく、そのまま使えると判断しました。
これをコーンに貼り付けます。
乾いた洗濯のりはこのようになり、美しいツヤが出ます。元のダンプ剤は筆の跡のようなものがあからさまについていましたので、やはり粘度が違う(≒ケン化度が違う)感じがしますが、まあ仕方ないでしょう。
そしてフレームに組み付けます。ダンパーをフレームに接着します。
ポールピースとボイスコイルボビンの間に紙が挟んでありますが、これはもちろんセンター合わせ用です。写真では坪量127.9g/m2の中厚口のケント紙が1枚ですが、実際は2枚でピタピタに収まります(一度剥がしてやり直しています)。
厚紙を切ってガスケットを用意しました。エッジが収縮ぎみなので、内側に大きめに作りました。また、エッジで隠れないような気がしたので、黒く塗装しました。
ガスケットをフレームに接着した後に、エッジを貼ります。ついでにセンターキャップも接着しました。センターキャップは例のエッジ軟化法で柔らかくしました。
いろいろやってみましたが、しっかりロール部分を作ってシワなく張るのは無理です。
そしてここで問題が露呈します。ほとんど奥側にストロークできないのです。ダンパーは中立位置にあるので、エッジが邪魔をしていることに間違いはありません。試しに音を出してみても、当然ですがロクな音ではありません。
このままではどうしようもないので、とりあえずエッジを剥がします。エッジを剥がすと、塗ったダンプ剤とセンターキャップが一緒に取れてきます。
エッジが収縮しているのを修復し、なんとか元に戻せないかと試行錯誤しましたが、終ぞ戻ることはありませんでした。温めて成形したり、煮たり、無理やり手で引張ったりしましたが、やはり元の収縮した大きさに戻ってしまいます。
しょうがないので、エッジを作りました。エッジの作り方はこちら。
元のエッジが厚手のゴムなので、できるだけ液ゴムを厚塗りしたら、筆の跡が残って不格好になりましたが、とりあえずはよしとしました。これも液ゴムを4回くらい塗った気がします。
できるだけ元の硬さに近くなるように工夫しています。液ゴムと布だけでは、どうしても厚手ゴムエッジの硬さは再現できません。
そしてコーンを洗濯のりでコーティングし直した(これで一日つぶれます)後、コーンにエッジを貼って…
この写真でコーンがフレームに付いていないのは、センター合わせが納得いかず、組み立て直したからです。
ガスケットを作って…
フレームにガスケットとエッジを貼ります。
とりあえず完成しました。前後にしっかりストロークしますし、センターもバッチリ合わせたので、大振幅でもビビリ音などはしません。長い戦いでした。
エッジにシワが残っていたりと問題もありますが、正常に音は出るので、ひとまずここで完成とします。
…としていましたが、やはり満足できず、早々に張り替えることになりました。
ウーファー修理 リベンジ
問題のエッジを張り替えます。まずは元のエッジを剥がします。
エッジを剥がすと同時にPVAコーティング剥がれますので、ほぼコーンにダメージがありません。何度でも挑戦可能です。
そしてエッジを作りました。
前に張ってあった自作エッジは、液ゴムの塗り跡が気になる、光沢感が気に食わないなどの問題がありましたので、見た目に十分に気を配って作ってみました。液ゴムの性質上必ず光沢感は出てしまいますが、完成後にタミヤアクリルのセミグロスブラックをエアブラシで吹付け(モデラーだったころの名残りです)、光沢感を消しました。使っている液ゴムがアクリル樹脂系なので、タミヤアクリルの定着性が抜群です。
そして張りました。
エッジの質感が良くなったのでだいぶ見た目は改善していますが、まだシワ感があり気に入りません。
このシワ感は、コーンの端が変形することによってもたらされているようです。つまり、コーンの変形に負けないような、コーン側のノリシロの強度が必要です。
というわけで、また剥がして張り直します。このエッジは作るのが面倒なので、再利用します。
コーン側のノリシロ部分には、コーンの角度と一致するように作ったケント紙をはり、強度を確保します。また、外側のガスケットも先に貼りました。
そして再び張りました。コーンの変形を修正するため、ドライヤーで温めてから貼りました。このコーンは非常に熱に弱く、少し温めただけでヘロヘロに柔らかくなります。
やや改善が見られますが、今度はノリとケント紙のはみ出しが出てきました。しかし、活路が見えてきた感じがあります。
今度は、コーン側を楕円のように偏って貼ってしまったことに原因がありそうです。このウーファー、コーンがフレームよりやや奥まっているので、エッジが奥にストロークしたような形状になり、少しでも貼り方に問題があるとシワになってしまいます。
現状の筆者の腕前ではキレイに張ることができないと悟ったので、とりあえずはこれで完成とします。さらに修行して腕が上がり、やる気が出た時に再挑戦しようと思います。
パッシブラジエーターの修理
パッシブラジエーターは、欠けた部分の補修とフレームの塗装を行いました。
欠け補修
欠け補修したものが次の写真です。
振動板の材質は発泡スチロールなので、同じく発泡スチロールを欠けた部分の形に切り、接着剤で固定・塗装しました。このとき、発泡スチロールが溶剤に溶けやすいので、溶剤系接着剤(G17など)や油性塗料を使ってはいけません。
接着剤はセメダインスーパーXゴールドを、塗装にはタミヤアクリルのフラットブラックを使用しました。スーパーX系は無溶剤の化学反応系で、タミヤアクリルは水性塗料です。
スーパーXゴールドは、これに限らず、上記のウーファー修理などにも全般に使用しています。もちろん、スーパーX(無印)でも問題はありません。ゴールドは乾燥が早くてやや接着力が弱い、無印は乾燥が遅く接着力が強い感じです。ゴールドは乾燥が早すぎて使いづらい場面もありますので、慣れていない場合は無印がオススメです。
フレーム塗装
フレームの塗装が傷んでいるので、塗装し直します。ひどいところは下地が酸化しており、塗膜が浮いてきています。そういった部分は、爪やつまようじ程度のものでこすっても簡単に落ちてきます。
このままでは塗装や下地処理をしにくいので、分解します。
エッジは接着剤が劣化していたので、引っ張れば簡単に剥がれました。ダンパーはシンナーを染み込ませて剥がしました。このとき、ダイヤフラム裏の発泡スチロール部にシンナーが付くとものすごい勢いで溶けるので、細心の注意が必要です。
分解しました。塗装の劣化が激しい部分(外気に触れていた部分)を中心に剥がしました。
塗料剥がしにはホルツの塗装はがし液を使いました。これ、シンナーほど臭いはきつくないのですが、古いトイレのアンモニア臭のような強烈な臭いがします。
拡大図が次の写真です。酸化してきているのがわかります。
そして磨きました。金属は塗料の定着が悪いので、400番か600番くらいで粗く仕上げると良い感じです。今回は400番で仕上げました。
磨いたら、脱脂して塗装します。脱脂はごく普通に中性洗剤で洗いました。
塗料は、アサヒペンのメタルプライマーを下塗りした後、ホルツの車用ツヤ消し黒を塗りました。
このホルツのツヤ消し黒は、「ツヤ消し」を名乗る割には光沢感が強く、大抵の半光沢よりツヤ感が強いという独特の色です。あまり好ましくないと思っていたのですが、この104の他のユニットが似たようなツヤ感なので、ちょうどよい具合でした。
ちなみに、一般的に想像されるツヤ消し黒で塗りたい場合は、アサヒペンのつや消し黒がオススメです。
塗装したのがこちら。
乾燥後、組み立てます。スピーカーユニットのようにセンター合わせがないので、ものすごく簡単に組み立てられます。ダンパーはコニシボンドG17、エッジはスーパーXゴールドで接着しました。
フレームの黒が蘇り、非常に精悍です。
また、エッジをダイヤトーンのエッジ復活の要領で復活させました。これはリンク先の記事でも書いていますが、劣化しつつあるゴムエッジも再生可能な方法です。
最後に、裏に貼ってあったシール類の糊が弱っていたので、強力両面テープを使って復活させておきました。
これにてパッシブラジエーターは完成です。
ターミナルのメンテナンス
入力ターミナルももちろん酸化が激しいので、メンテナンスしておきます。接点不良が起きているわけではありませんが、フルレストアを名乗る以上、しっかりやります。
まずはターミナルを外すのですが、これを見てください。
独特の固定方法で、ターミナル本体から伸びるプラ棒に爪を食い込ませて固定してあります。この爪を外してみたのですが、1個外すのに1時間以上かかったうえ、プラ棒部分がボロボロになったので、諦めてプラ棒を切って外します。それに伴い、ネジ式に改造することにしました。
ターミナルを外しました。
金具も全て外してありますが、これは圧入してあるだけなので、後ろからハンマーで叩けば簡単に外れます。
それにしても汚い。特にシリアルナンバーが書いてあるプレートとその周囲は、なにか茶色い汚れがついています。こういう部分は設置している状態だと隠れてしまうので、汚れが溜まりやすいかもしれません。
また、本体はプラスチックが劣化して軽石のような表面になっています。これはどうしようもないのでなにもせず、あまり触らないようにしました。
これが金具のアップです。特にネットワークへの電線がはんだ付けされる部品の酸化がひどい。
フォーク状の部品は、ターミナル中央の謎の端子用の接点です。まず使わないと思いますが、一応キレイにしておきます。
全ての金具を磨き、本体も掃除しました。
そして組み立てました。
金属の輝きを取り戻しました。
なぜか左右分でプラ部の色が違います。材質は同じABSのようです。シリアルナンバーが25503と25546であまり離れていないので、ちょうど過渡期だったのかもしれません。ペアのスピーカーでシリアルが連続していないというのも微妙ですが。
メインの端子はバナナプラグが入りますので、特に謎の規格ではありません。なぜかバナナプラグが入らないとしている記事を見たことがあるような気もしますが、それは正しくありません。しかし、バナナプラグのみに対応というのも珍しい。
あとは、四隅に穴を開けてネジ式に改造しました。この方がメンテナンス性に優れ、将来的にもお得でしょう。プラ棒が生えていた位置に正確に穴を開けました。
このとき、ネジはM4×30が太さ・長さ共にぴったりフィットします。
エンクロージャーに取り付けると、このようになりました。
ネジはブロンズめっきのトラスネジですが、これを選んだのは安かったからです。なぜかユニクロ仕上げのナベネジより安く販売されていました。箱がチーク仕上げのアンティーク調なので、合っているとは思います。
エンクロージャーの補修
エンクロージャーの補修です。
補修の前に、吸音材を全て取り出し、乾燥させておきます。密閉箱に入っていた吸音材はジメジメした感じで、気持ち悪い質感になっていることが多い。吸音材は全てスポンジでした。
まず、最もひどい部分はこうです。
花瓶かなにかを置いていて、倒れて水濡れ状態になったと思われます。そして発見が遅れて深くまで浸透したのか、かなり表面がボコボコです。
この部分は、表面を木目に沿ってカッターで切り刻み、接着剤を流し込んでアイロンがけする手法を試しましたが、完全には戻りませんでした。根が深く、突板の奥の構造材までボコボコになってしまっているのでしょう。完全に平らに戻すには、平らになるまで削って、新しい突板を貼るしかなさそうです。しかし、50年近く経つものとは風合いが全く違いそうですので、このまま多少のデコボコ感を残しつつ仕上げることにしました。
また、この部分は端が剥がれかかっており、欠けている部分があります。
手前側の丸っこい欠け部分は筆者が搬入中にやらかしたものなので、破片を接着すれば元に戻りますが、奥側の一文字のような部分は最初から欠けており、埋めるしかありません。
新たにオイル仕上げをするために、多少削ってみたのが次の写真です。
どのようにデコボコしているかわかりやすいと思います。これでも、前述のアイロン法を全体に適用しており、だいぶマシになった方です。このままオイル仕上げしてしまうと、木肌の部分と乾燥したオイルが残っている部分で質感が異なる仕上がりになってしまうので(そのままこの模様が出てしまうので)、できるだけくぼみの部分も削るようにしながら、下地を仕上げました。
その他の部分も全てやすりがけし、全面をオイル仕上げし直します。このとき、大物の木工をほとんどしない筆者のもとには電動サンダーがなく、全て手で削ることになりましたが、なんとかやりきりました。しかもハンドサンダーなどは使わず、紙やすりを手で持って全面を磨きました。これが狂気。今度こういう作業をするときは、迷わず電動サンダーを買いたいと思います。
オイル仕上げなので、下地は丁寧に作ります。今回は120番でオイル層を落とし、240番→360番→600番という具合に仕上げました。ここまでやると、もう無仕上げでよいのではないかというほど平滑になります。
下地ができたら、オイルを塗ります。これも4回くらい塗ったかもしれません。4回塗りに呪われたスピーカーです。今回はアサヒペンのチークオイルを使いました。チークオイルは有名な外国産のものもありますが、このアサヒペンのものでも十分な風合いに仕上がりました。
そして、例の面はこのようになりました。先ほどの「ひどい部分」の画像とほぼ同じところです。
くぼみがひどいところはやすりをかけきれず、多少まだらですが、通常はキレイに見えます。写真では光の具合でまだら模様が強調されて見えます。
しかし、ちゃんと仕上げた木の風合いになっただけマシだと思います。元は明らかに問題のある表面でしたからね。
欠け部分も補修しました。パテはタミヤのエポキシ造形パテ(速硬化タイプ)を使いました。これ、エポキシのわりには削りやすく、作業性が抜群です。
このパテ部分の塗装が難しく、なかなか色が合いません。しかもチーク特有の縞模様があり、一色ではそれらしく塗装できないようです。
タミヤアクリルの赤と黄色をベースに、ゼロから調色したのがいけなかったのかもしれません。最初から木の色に近い色であれば、色味の調整程度で済んだかもしれません。
なんとか近い色にして、塗りました。
写真では塗ったところが目立ちますが、これもやはり光の加減で、通常はあまり目立ちません。オイル仕上げの表面は内側から光るような独特の面で、見る角度によって色が違いますので、通常の塗装で色を合わせても無理が出ます。
これでエンクロージャーは終了です。干しておいた吸音材を戻します。
組み立て
完成した部品を組み立てます。
ユニットを取り付ける際も、そこまで細かく気にする必要はありません。ツイーターの構造の関係上、あまり気密性が高くないので、ウーファーとパッシブラジエーターが変な位置で中立になるといったことは起きません。
これが完成したものです。まだ暫定版ですが。
やはり気になるのはウーファーのエッジです。これは後日張り直すと思います。
パッシブラジエーターのフレームが汚く、他の部分と色味も合っていないので、塗装し直すかもしれません。
銘板のネットワーク基板固定ネジが一本だけ真鍮ネジになっていますが、これはやむを得ない事情によって3点留めとしたためで、気密性確保用に手持ちの皿ネジを付けてあるだけです。これもその後替えるでしょう。その付近のネジは全て老朽化しつつあるので、いっそ全部替えるのもアリです。
ネット固定用の面ファスナーがないと、なにかしっくりきません。木目が存分に味わえるのは良いのですが。
その後、ウーファーエッジを張り替え、パッシブラジエーターのフレーム塗装したものがこれです。
あまり変わっていないような気もしますが(特にウーファーのエッジは)、パッシブラジエーターのフレーム塗装によって、よれた感じが減ったと思います。
レストア 総括
とにかく面倒な作業でした。特にウーファーが問題です。エッジが幅広でキレイに張りにくいのもストレスポイントです。
これだけ必死に作業したのだから、それなりの音が出てくれないと困ると思うでしょうが、心配する必要は全くありません。おそらく、大抵の人の予想の10倍はすごい音が出ます。これは本当に名機です。
レビュー記事は以下から。いつもは修理とレビューで1記事にまとめますが、このレストア記事が長くなりすぎたので分割します。
本記事の内容は以上です。
COMMENTS コメント
詳細なレストアの記録を公開してくださって、ありがとうございます。わたしもKEF104が好きで、過去3ペアレストアしました。現在も2ペアレストア待ちです。ウーファーのダンプ材にPVA洗濯のりを使うあたりは目からウロコで、笑ってしまいました。まさに材料に詳しい方の真骨頂ですね。私はそこまで調べられませんでしたので、今まで随分悩んでいました。早速使わせていただきます。エッジの張替えは何度も失敗してコツをのみこむしかないのですね。わたしも何度もやり直しています。また新たな気持で挑戦できそうです。感謝します。
コメントありがとうございます。管理人です。
3ペアもレストア済みですか。素晴らしいですね。良いスピーカーは可能な限りレストアして流通させたいですよね。
ダンプ剤に洗濯のりを使うのは、記事中でも書いていますが、恐らく粘度不足です。苦肉の策ですが、放置よりはマシだと判断しています。
エッジ張り替えは私も何度もやっていますが、何回やっても難しいですよね。スピーカーによっても全く性格が違います。それが面白いところでもありますが。