ヘッドホン

Pioneer DJ HRM-5のレビュー:全方面スキがない優良モデルだが、知名度低く不遇。

パイオニアDJブランドのヘッドホン、HRM-5のレビューです。

パイオニアDJのスタジオモニター、HRMシリーズの最廉価モデル。価格やスペック等から、ライバルとなるモデルはおそらくオーディオテクニカのATH-M40xでしょうが、このHRM-5は知名度が絶望的であり、勝負になっていないのが実情です。

しかし、全方向にスキがなく、極めて完成度が高いヘッドホンです。とにかく弱点がない。

かんたんレビュー

長所
  • フラットだが厚みのあるサウンド
  • 優れた空間表現
  • 素晴らしい装着感
  • 鳴らしやすく音量も取りやすい
  • 音漏れ・遮音も良し。携帯性高い
欠点
  • 特筆すべきことはない
  • 強いて言うなら、短いストレートケーブルが付属しない
  • 知名度がない

[2022/22/01更新]
公式サイトには生産終了と書いていないのですが、公式オンラインショップでも在庫がないようで、しばらく生産はされていないようです。著名な通販サイトでも取り扱いがなくなりつつあります。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

全体

全体

全体。マットブラックでプロ感を醸し出しています。

ハウジングとアームのデザインがやや独特です。

アーム部分や、アームとヘッドバンドの付け根はプラスチック製で折れそうにも見えますが、かなり太くできており頑丈です。

仕上げ

全体の材質はプラスチックで、無塗装の部分と塗装してある部分があります。なお、外装で金属の部品は1つもありません。

メーカーロゴ以外は一切のメッキ等がなく、素朴です。

側面

側面

側面。ハウジングは耳の向きに沿って傾斜しているタイプです。

ハウジング中心の領域はシボが荒く、他の部分と質感が違います。このように同じ色で質感を変える仕上げは高級感が出やすい。この場合は全体が素朴すぎてそのように思えませんが。

メーカーロゴのみメッキしてあります。全体でシルバーの部分がそれだけなので、非常に目立ちます。

上面

上面

上面。ヘッドバンドに大きくメーカーロゴがありますが、エンボス加工で比較的地味です。材質は合皮。

ハウジング上部に穴があります。公式サイトによると、これがバスレフとしてはたらき、低音を最適化していると謳っています。この穴は片側に付き5つくらい空いていますが、そのまま開放したり和紙のようなものを裏から貼ってあったりして、かなり細かくチューニングされています。

バッフル面

バッフル面

イヤーパッドを外すとこうなっています。スタジオモニターを謳うモデルの割に珍しく、バッフルが傾斜しています。

ごく普通のPET薄膜を駆動するドライバーがあります。周りの低音を増強するであろう部分には、和紙のようなものが裏から貼られています。

折りたたみ

折りたたみ

このヘッドホンはコンパクトに折りたたむことができます。この折りたたみ方はATH-M40xと全く同じです。

なお、片耳モニターがしやすい用に配慮されているのかはわかりませんが、ハウジングやアーム周りがクネクネと自在に動きます。

外観 総評

やや独特のデザインで、非常に素朴な仕上げです。あまり言うことも思いつきません。

付属品など

付属品は次の4点です。

  • 3mストレートケーブル
  • 3mカールケーブル
  • 標準プラグ変換アダプタ
  • キャリングポーチ
付属品

3mストレートケーブル

3mのストレートケーブル。コネクタは入力側が3.5mmステレオミニで、ヘッドホン側が2.5mmのミニミニプラグです。

ケーブル本体は太め。ややビニール感の強い質感ですが、しなやかで取り扱いやすい。

入力コネクタは太く、しっかりしています。業務使用で雑に扱っても壊れにくそうです。

ヘッドホン側コネクタは特殊仕様で、ロック機構が付いています。

ヘッドホン側コネクタ

この機構は、ロックされるとカチッと手応えがあります。このカチッに至るまでが結構固いので、力強く回す必要がありますが、これは逆に外れづらいとも言えます。特に初めは固いので、ビビらずにコネクタを回してください。コネクタに表示の「LOCK」という文字が、本体に表示されている線と直線上になれば正常にロックされていることになります(側面画像参照)。

3mカールケーブル

通常時は1.2mで、伸ばすと3mになるとされるカールケーブルです。実際にそんなに伸ばすとものすごい力で引っ張られるので、適度な長さで使用するのがよいでしょう。

その他の部分はストレートケーブルと同じです。ケーブルの太さまで同じ。

標準プラグ変換アダプタ

ステレオミニプラグを標準プラグに変換するアダプタ。ネジ式のためアダプタだけ脱落することがなく便利です。

ヘッドホンのレビュー時に付属品の詳細を毎度書いているわけですが、大抵このアダプタが付いてくるので、説明に悩みます。面白いことが書けるようなものではありませんが…

キャリングポーチ

キャリングポーチです。しっとりした上質な合皮でできています。

このポーチ、やや小さい気もします。ポーチの上に折りたたんだ状態のヘッドホンを置いたのが次の写真です。

ポーチの上にヘッドホンを置く

この状態でぴっちりと入りそうですが、しかし、ケーブルも同時に入れて持ち歩かなければなりません。

ケーブル2種と本体を同時に収納するとこうなります。

本体とケーブル2種を収納

明らかにパツンパツンで、ケーブルが浮き出てしまっています。まあ、下手にダルダルで中のものが自在に動き、ヘッドホン本体に傷が付きやすいのも問題ですが、ここまできついのもねェ…

なお、本体とケーブルを1種のみ収めるぶんにはそこまで問題になりません。折りたたんだ状態では、ハウジング下部よりもアーム部が突き出しているので、その隙間にケーブルを1本までなら収納できます。

音について

音についてのレビューです。

概要

全体的には、スタジオモニターらしいフラット感はありますが、細かく言えば弱ピラミッド型でウォームサウンドです。厚みがあり、情熱的な音でもあります。ヘッドホンにしては空間表現も良い。

次の画像は、このヘッドホンの音のイメージです。

Pioneer DJ HRM-5音の傾向

この画像についての詳細はこちら

周波数的な特徴

低音域

低域はやや多めで、伸びが凄まじい。音としてではなく、振動として感じるような超低域を余裕で鳴らします。それでいて、中高域を邪魔していません。

この低音の特に素晴らしいところは、貧弱なアンプでもほぼ鳴らしきれるところです。ハイパワーなアンプに繋ごうが、iPadに直挿ししようが、地を這うような低音が感じられます。

中高音域

中域は艶と厚みがあります。この中域が全体の音調、すなわちウォーム感に大いに貢献しているものと思います。しかし、それでいて繊細さは失われません。しっかりと解像している。

高域は過度な刺さりがなく量はやや控えめですが、質は良く、意外なほどにヌケが良い。厚みのある中低域に埋もれて気づきにくいのですが、高域もクオリティが高いと言えます。

その他

このヘッドホンの音は、音源によって大きく違うように感じられます。つまり、音源のクオリティ以上には鳴らないシビアなヘッドホンであるとも言えます。ヘッドホンによっては、音源が多少ダメでも心地よく聴かせてくれるものもありますが、これはそうではありません。スタジオモニターを謳うものなので、そうであって欲しい部分はありますが。

音場感・定位感

音場は広い。耳のふた周りくらい外側まで音が広がっている感覚があります。そこまで巨大ではない桔平型ヘッドホンでこれは珍しい。

定位も良い。バッフルが傾斜しているタイプなのでやや前方に定位しますが、それだけでなく、明らかに位置が掴みやすい。スピーカーの音場をそのまま小さくした感じです。

音量・鳴らしやすさ

音量

音量は大きい。出力が貧弱な機器でも、音量が足りないということにはまずならないと思います。

鳴らしやすさ

非常に鳴らしやすい。iPad直挿しでもハイパワーなアンプを繋いでも、ほとんど音に変化がありません。もちろん機器ごとの個性は出ますが、鳴らしきれていないので音が変化しているとは感じられません。

音について 総評

音は質の良い弱ピラミッド型。AKGのK700シリーズを聴いたあとに使っても、繊細さ等で劣っているとは感じません。それでいて厚みがあり、情熱的な音です。しかも、力強い低音が容易に駆動できる。

現代のハイファイ調とは言えませんが、昔ながらの厚みがあり柔らかい雰囲気です。レコードやヴィンテージオーディオ機器が好きな人にはもちろん、現代のバキバキのサウンドに飽きてきた人にもオススメできる音です。

装着感

装着感はとても良い。

イヤーパッド

イヤーパッドはもちもち系。外側はごく普通に合皮ですが、やや厚手でしっとりした触り心地です。

形状は長円(オーバル形)で、外側が100×80mm、内側が60×40mm、厚さは20mm程度あります。厚めで耳がバッフル面に接触しにくい。

ヘッドバンド

ヘッドバンドのクッションはそこまで厚くないものの、十分なクッション性を備えています。長時間使用していても、頭頂部に違和感はありません。これは後述の側圧も関係しているように思います。

側圧

側圧はやや強い。しかし、イヤーパッドがもちもちで厚手のため、気になりません。

通常、側圧が強いことはデメリットになりがちですが、このモデルに関しては、側圧が強いことで良い影響をもたらしています。側圧でしっかりホールドしているので頭頂部に負荷がかかりづらく、しかも非常にズレにくい。一度装着すれば、何時間もノータッチで着けていられます。

しかし、側圧が強めなことに間違いはないので、全体的な装着感がどうであれ側圧が強いのだけは絶対に嫌だ、という人には向きません。

装着感 総評

もちもちで厚手のイヤーパッドとやや強めの側圧が合わさり、長時間の使用にも耐えうる素晴らしい装着感に仕上がっています。筆者は側圧が強いヘッドホンがあまり好みではありませんが、このモデルに関しては全く気になりません。むしろ、大抵の側圧が弱めのヘッドホンより優れているとすら感じます。

携帯性

可搬性や外部遮音性などについてのレビューです。

持ち運びしやすさ

持ち運びはしやすい。コンパクトに折り畳めるうえ、ポーチまで付属します。ただし、折りたたんだ状態は厚みがあり、ややかさばります。

ヘッドホン本体を平らにすることもでき、その状態で持ち歩くことも一応可能です(ポーチには入りません)。キズを気にするようなキレイな仕上げではありませんし、それでも問題はない気がします。

外部遮音・音漏れ防止

外部遮音性は良い。不要な音はほとんどカットでき、音を鳴らせば大抵の雑音が気にならなくなります。

音漏れ防止性能は高めですが、べらぼうに良いとは言いづらい。密閉型としては普通からやや良いくらいの水準。快適に音楽鑑賞するくらいの音量(80dB程度?)で、すぐ近くではどのような音楽を聴いているかわかるくらいの性能です。音量を下げ気味にすればほとんど漏れません。

総評

やや独特かつ無骨な外観で、質の良い弱ピラミッドサウンドを鳴らすヘッドホン。装着感や可搬性にも優れ、特に文句を言いたくなる部分はありません。

たいへんに完成度が高いヘッドホンです。側圧が強いことが苦手な人、または現代的なサウンドを過度に求めている人以外には、本当に誰にでもオススメできるヘッドホンです。特にアンプ等の環境を選ばないというのが大きい。

知名度が低いのが非常に惜しい。驚くべきことに、この記事を書いている時点ではAmazonの日本からのレビューが1つもありません。不人気だったと思われるFocal Listenですらそこそこのレビューが付いていたというのに…

本記事の内容は以上です。

COMMENTS コメント