AKG K612 PROのレビューです。
歴代AKGヘッドホンでも地味な、K601の後継モデルです。K712と同時期に発売したと記憶しています。
非常にバランスのよい音で、ほぼフラットに感じます。特徴がないのが特徴というタイプ。AKGらしさは薄れぎみですが、わずかには残っています。
外観・仕上げ等
外観や仕上げのレビューです。
全体
全体。K700シリーズと同じような”いつものAKGのデザイン”ですが、ハウジング部のデザインがやや異なり、少しモッサリしています。先代モデルのK601と全く同じです。
基本的な作りはK701と同じです。特にヘッドバンド周辺は、同一金型からできていると思われます。
仕上げ
全体的にプラスチックで、メッキ部品以外は塗装もされていません。
メッキされていないプラスチック部品は、やや茶色がかった濃いグレーです。大抵の写真では黒に見えますが、実際は異なります。上の写真は、それがわかるようにしたつもりです。
側面
側面。スタジオモニターを謳いつつも、メッキ部品でキメてきます。プロ仕様だから無骨なデザインである必要はないということでしょうか。
ハウジング外周部の細いメッキ部品が良い味を出しています。
上面
上面。ヘッドバンドはグレーです。ヘッドバンドにピンポイントで差し色を入れるというのはK701と同様ですので、確かな伝統を感じます。
ヘッドバンドは本革で、相変わらず柔らかくはありません。
伸縮機構は相変わらずです。ヘアゴムのようなものでテンションがかかり、装着するときに自動で大きさが調整されるようになっています。ヘッドホンスタンドなどに掛ける場合は、ヘッドバンドに負担がかからないようにしましょう。さもなくば、このゴムがビロビロにへたります。ヨドバシなどの展示機でその様子が見られます。
バッフル面
イヤーパッドを外すと、このようになっています。イヤーパッドは時計回りに回すと外れます。K712とK701は反時計回りなので、K612だけなぜか反対です。
スポンジが取り付けられます。これ、K701と同じものと思われます。K712はこれまた別のスポンジが付いています。
ドライバーはやはり緑がかった乳白色で半透明なタイプです。
外観 総評
いつものAKGとほぼ同様ですが、少しモッサリ、もしくはボッテリしたデザインです。
全体的に黒っぽく、現行ラインナップでは最もプロ感の強い外観ですが、銀色の部分は妥協していません。メッキしない方が原価が下がるでしょうが、それは美意識的に許されないということなのでしょうか。
付属品など
付属品は次の2点です。ただし、本体に直付けのケーブルも付属品に含みます。
- ケーブル(本体に直付け)
- ステレオミニ-標準変換プラグ
ケーブル
本体に直付けのケーブルです。長さは3m。
いつものAKGのもので、ケーブル本体はK712やK240に付属のものと同じものと思います。細めで非常にしなやかな3芯のケーブルです。
取り回しやすく優れたものですが、汗や皮脂などが頻繁に付く部分は劣化しやすく、硬化してくることがあります。
変換プラグ
もはや説明の必要もない変換プラグ。
ステレオミニプラグをステレオ標準プラグに変換するものです。ネジ式で簡単に外れないようになっています。
音について
音についてのレビューです。
概要
全体的には、フラット感が非常に強い。大抵のヘッドホンより低域は少なく高域は多めに感じ、スピーカーのような音です。
音場はあまり広くありません。いかにもモニターという雰囲気。
次の図は、このヘッドホンの音を感覚的に示したものです。
この図に付いての詳細はこちら。
以下は詳細です。
周波数的な特徴
低音域
低域は少なめですが、しっかり伸びています。インピーダンスが高めなこともあり、締まった低音です。
パワーが十分なアンプで鳴らさなければ、低音がスカスカになります。AKGヘッドホンはそういう傾向がありますが、このK612は最も顕著です。
中高音域
中高域はあまり特徴がなく、出てほしい音がそれだけ出てくる感じです。特に中域はAKGとしてはかなりドライで、独特の艶感みたいなものがほとんど感じられません。音源なりに鳴らしてくる感じ。
しかし、AKGらしい高解像度かつやや甘いトーンで鳴らす、いわゆる美音系サウンドの傾向がわずかにあります。特に高域の刺さり感が控えめですので、甘く感じるのかもしれません。なお、ここで言う「甘い」というのはスウィートな質感のことであって、高域の詰めが甘いということではありません。
音場感・定位感
音場は普通。広いとも狭いとも言えない感じ。スタジオモニター系にしては広めかもしれません。K700シリーズよりは確実に狭く感じます。
定位は耳の間に直線上。位置はわかりやすい方だと思います。
音量・鳴らしやすさ
音量
音量はかなり小さい。平面駆動のT50RPと同じような感覚です。普通の円形ダイナミック型では、かなり小さい方と思います。
インピーダンスが高いので、駆動には比較的高い電圧(≒ボリューム)が必要です。電源電圧の低いポータブル機器では、かなり厳しいと思います。特にスマートフォンやタブレットに直挿しでは、満足な音量すら取れない可能性があります。
鳴らしやすさ
鳴らしづらい。インピーダンスが高い上におそらく能率も低いので、とにかくアンプのパワーが必要です。据え置きの単体ヘッドホンアンプは必須です。
パワーさえあれば、あとは好みの問題です。K700シリーズのように美音極まるような音ではないので、相性は出づらい気がします。
音について 総評
フラット感が強くバランスの良い音です。わずかにAKGらしさも感じられます。まさに、AKGができるだけクセのないスタジオモニターを作った、という感覚です。
大抵のヘッドホンよりは、かなりスピーカーに近い音と言えます。そういう意味でも、リファレンスとして間違いないヘッドホンの1つと思います。
装着感
装着感は良いと思います。
イヤーパッド
イヤーパッドは円形で、外形115mm、内径65mm、深さが20mmです。かなり大きいイヤーパッドで、耳が入り切らないということはほとんどなさそうですが、深さが浅めなので、耳がバッフル面に当たりやすいと思います。
しかし、バッフルにはスポンジが装着されるので、耳が痛いということにはなりづらいと思います。筆者もバッフルに耳が当たっているはずですが、痛いと感じたことはありません。
イヤーパッドのスポンジは柔らかめ。ベロアの表面と相まって、快適なイヤーパッドです。
ヘッドバンド
ヘッドバンドは硬く、クッションがないので、頭頂部への攻撃力があります。気になる場合は、スポンジのようなものを貼り付けるとよいでしょう。
しかし本革のようですので、使っていれば柔らかくなる可能性もあります。
側圧
側圧は適正。大抵の人が強いとも弱いとも感じないと思います。
ヘッドバンドがゴムひもで引っ張られますが、その力によってヘッドホンがずり上がるということはありません。ちょうどよい塩梅です。
装着感 総評
全体的な装着感は良いと言えるでしょう。硬めのヘッドバンドはなぜか気になりません。
K701と同じヘッドバンドですが、それより確実に装着感が良い。K701は側圧が弱い気もするので、ヘッドホンの重さが頭頂部にかかってしまうのかもしれません。K612ではそのようには感じれらません。
携帯性
携帯性は相変わらず皆無です。
持ち運びしやすさ
本体が大きいので、携帯に全く向きません。K700シリーズとK612で共通して、三方スキがなく大きいという、稀有なヘッドホンです。しかも繊細そうなデザインで、少し力がかかると折れそうです。
外部遮音・音漏れ防止
これらは当然皆無。STAXイヤースピーカーよりはマシですが、一般的に言って遮音は全くできませんし、再生している音はダダ漏れです。
その他
故障しやすさ
相変わらず故障しやすく、K612も断線の餌食になりました。同じようなシリーズではK701、K712およびK612を所持していますが、そのうちK712とK612が故障し、自分で修理しました。現状の故障率は驚異の67%です。
修理はこちら。K712の修理記事ですが、K612も全く同じ構造で、同じように修理できます。
総評
ほぼいつものAKGデザインで、実にフラットな音を出すヘッドホンです。装着感も良く、手堅い完成度と言えるでしょう。故障するところまでいつもの、というのはちょっとアレですが、修理は簡単なのでノーカウントということにしておきます。
コストパフォーマンスは高いと言えますが、積極的に人には勧められません。パワーのあるアンプを必要とするので、設備投資の必要があるからです。反対に、十分なアンプを持っているか購入予定の場合は、非常にオススメできます。間違いのないリファレンスヘッドホンとなるでしょう。
比較的黒々としたデザインや、AKGらしさの薄いフラットな音などを鑑みるに、AKGのスタジオモニターヘッドホンの本命ではないかと思います。ガチガチにモニターに寄っているということです。K712は高級モデルですが、伝統を守りつつ無難にしていったような路線なので、これまた毛色が違います。うまく棲み分けができており、両方持っていても片方が不要とは思えません。
本記事の内容は以上です。
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