DENON PMA-730の修理・レビューです。
80年代初頭くらいのプリメインアンプです。値段や型番から察するに、最廉価モデルかその1つ上くらいのグレードでしょう。DCアンプと疑似A級が流行っていた時期でしょうが、コストの関係なのか上位モデルとの差をつけるためなのか、このPMA-730はDC構成でも疑似A級でもなく、ごく普通のAB級アンプです。
いつものように、ハードオフでサルベージしたものです。音NG(どのようにNGなのかは書いていませんでした)という症状でジャンク品でした。値段は税抜1000円。電源NGでなければ、修理できなかったとしても高容量・高電圧でセンタータップ付きのトランスが手に入るので、購入して損はないでしょう。電源トランスは非常に高額な部品ですからね。
※本記事で言及されるスペック等の情報については、オーディオの足跡様の当該ページに準拠しています。
[更新情報]
2022/08/04:全体画像を変更。元の画像は最後に付けてあります。白っぽいものを撮るときに白背景にしてはいけないという戒めに(当たり前)。
修理
DC漏れ修理以前の内容については写真を撮っていなかったので、文章のみです。次項の開腹写真は後で撮ったものです。
分解・掃除
分解して掃除します。実に単純なシャーシ構造のため分解は簡単ですが、底面パネルを固定するネジが10本もあり、着脱が面倒です。
上面カバーを開けるとこんな感じ。
なんというか、「バカだなァ」というのが素直な感想です。絶対に入出力を背面側の基板にまとめるという執念を感じます。バカというのはオーディオにおいては褒め言葉だと思っています。
中央付近に5本見える棒は、入力切替スイッチをフロントパネルから押すためのものです。この棒にテンションの弱い板バネがかかっており、フロントのボタンを押し戻すようになっています。「テンションの弱い」とあるように、フロントのボタンはフニャフニャとした軟弱な押し心地です。
水色と黒のケーブルのような物体は、リモート式のスイッチの伝達部分です。フロントにある操作部を操作すると、ステンレスの伝達部分がスライドし、後ろの基板にあるスイッチ本体の接点が切り替わります。左の水色のものはREC OUTセレクタで、右の黒いものはカートリッジのMM/MC切替用です。なぜかMCカートリッジにも対応しています。
外すのが面倒な底面パネルを外した様子はこちら。
出力トランジスタが鎮座しています。傘の東芝マークがとても良い。このようなMT-200タイプのトランジスタは、ロゴなどを遠慮なくフルで描けるのがいいですよね。トランジスタ自体が大きいというのも箔がつきます。
トランスは大きめで、156VAもあります。このアンプ、グレードの割には豪華な部分が多い気がします。
電源の平滑コンデンサは8200uFもあります。コンデンサは全て日本ケミコンです。
オペアンプがついています。NJM4559Dです。4558の改良版ですね。ちなみに、フォノイコには4558が使われています。
中身で面白い部分はこれくらいでしょう。
中身はホコリをハケで払いました。
外側は全体的にヤニコーティングされていた記憶があります。強力な洗剤で少し拭いただけで、別物かのように本来の色が現れました。この掃除の快感を求めてジャンクアンプを買ってきている節もあります。
動作確認 その1
電源がマズいようには見えませんし、はんだが割れているところもありませんので、とりあえず音出し確認してみます。
結果としては、音は出ましたが正常ではありません。音の感じからするに、出力リレーや入力切替スイッチなどの接点系が怪しいので、そのあたりを掃除してみます。
リレーとスイッチの掃除
リレーとスイッチの接点を磨きました。スイッチは全て妥協なくやりました。
詳細はオンキヨーのA-911MLTDでのスイッチ磨きや、トリオのKA-3300でのスイッチ磨きと同様。
リレーの接点磨きはそれらの記事にはありませんが、要領は同じです。ただし、接点間の隙間が狭いので、つまようじにピカールをつけて磨きました。つまようじは木製なので、ミクロで見れば布みたいなものですから、細かいところを磨くのに十分使えます。
ちなみに、リレーは松下製でした。
動作確認 その2
問題と思われる接点系をクリーニングしたので、改めて動作確認します。
結果は、正常に音が出ました。
このとき、アイドリング調整やDC漏れチェックなどを行いました。
アイドリング電流は規定値に調整しておきました。なお、アイドリングは普通に調整できたので、半固定抵抗はイカれておらず、交換する必要性はなさそうです。
このアンプ、アイドリングが安定するまでにかなり時間がかかります。しかも、調整用の半固定抵抗を回してから数分はアイドリングが安定しなくなります。もちろん、大抵のアンプでそういう傾向はありますが、このアンプは特に粘っこい感じです。1時間くらい放置してから、地道に調整しました。
DC漏れは左側が10mV程度、右側が40mV程度で、不合格ではないがやや不満です。右側の40mVの場合、スピーカーON/OFF時(電源のことではなく)に大きくはないが確実に聞こえる程度の音量でポツッという音がします。そこまで困りはしませんが、左右で異なるというのも微妙に気になるので、改善を試みます。
DC漏れ修理
DC漏れの原因は、例によって初段の差動増幅用トランジスタの特性のばらつきによるものでした。おそらく出荷時は特性が揃っていたのでしょうが、経年劣化によってばらついてきたのでしょう。
使われているトランジスタは2SA970です。
左右分の合計4つのトランジスタを外し、hFEが近いものでペアを組み直しましたが、いまいち改善できません。諦めてトランジスタを交換します。
その際、あることに気が付きました。まずは次の画像をご覧ください。青枠で囲ってあるのが件のトランジスタです。
わざわざ横並びで、向きを反対にしてまでエミッタどうしを隣接させてあります。
これを受けて、次のものを作ってみました。
これは画像右の内部配線図からわかるように、エミッタが共通で2ピンから出ているデュアルトランジスタで、変換基板にはんだ付けしたものです。どう見ても差動増幅に特化したシロモノですよね。
このHN4A06Jというデュアルトランジスタのミソは、2SA970のチップ版の2SA1312のデュアル版ということです。つまり、2SA970とほぼ同じ特性を持っています。しかも、デュアルトランジスタは2素子の特性がほぼ揃っているはずなので、選別しなくても初段からのDC漏れは抑えられるはずです。
これを取り付けるため、次のように加工しました。
これよく考えたら、コレクタ側を下にすれば足が干渉せず、収縮チューブなんて使わなくてもうまくいきそうですよね。実際に作業しているときは頭がおかしくなっているので、そういうことを思いつかないわけです。試験になると突然珍回答を記述してしまうのと同じです。
ともあれ、これを取り付けました。
昔ながらの紙フェノール基板に緑の変換基板が映えます。本体のトランジスタは塵芥のような大きさですが。
トランジスタを交換した場合、それぞれの端子がショートしていないかをテスターで確かめるのがおすすめです。ごくまれにですが、はんだ吸い取り器のノズル先端のはんだかすが基板に付着し、ショートしていることがあります。
これでDC漏れは解決したはずです。
動作確認 その3
DCオフセットを確認します。
結果は左右共に5mV程度でした。これならかなり良い具合と言えるでしょう。スピーカーON/OFF時にもポップ音が全くしません。
このトランジスタ換装によって、音が締まったような感覚もあります。詳しくは後述。
回路構成など
当時の宣伝文句によると、無帰還0dBアンプを謳っています。より詳細に言えば、歪み成分だけを抜き出して負帰還させるということになっていますので、無帰還ではありません。現在のラックスのトランジスタアンプと同じような方式でしょうか。
このアンプ、無帰還を名乗る割には普通に帰還させています。オーバーオールで帰還していないというだけです。無帰還0dBアンプの正体は、オペアンプを前段に据えたパワーアンプで、これは出力を全てオペアンプにフィードバックしています。これにより、利得が1(つまり0dB)のパワーアンプとなるわけです。では、前段はどうなっているのかというと、普通にディスクリートの電圧増幅段があります。こちらは、差動増幅の出力を両側から取り出し、プッシュプルエミッタ接地で利得を稼ぎ、エミッタフォロワで出力インピーダンスを下げており、出力から差動増幅部に一部帰還させています。この出力をオペアンプに入力しており、つまり、プリアンプとパワーアンプが分かれており、一筐体に収められているということです。これが本当のプリ・メイン・アンプか。歪み成分だけ抜き出して帰還というのはよくわかりません。
修理 まとめ
故障の主たる原因は各部の接点不良でしたが、勢い余って初段のトランジスタ交換までしました。これでしばらくは持ちそうです。
外観・仕上げ等
外観についてのレビューです。
全体
四角基調のデザインです。80年代初め頃のものなので、70年代の重厚感は失われつつありますが、90年代の安っぽさはまだありません。ちょうどよい具合のデザインと思います。現代的なアンプのデザインになってきた感じ。
色はシルバーですが、かなり強くつや消しで、白にも見えます。ラックスマンもこのような色なのでしょうか。
フロントパネルの角がかなり尖っており、危険な感じがします。現代ならクレームものかもしれません。
横幅は完全なフルサイズで、奥行きもそれなりにあります。そのかわり高さが抑えられ、扁平なボディに仕上がっています。スポーツカーみたいでカッコいいと思うか、中身が少なそうでショボいと思うかは人それぞれでしょう。
仕上げ
フロントパネルはアルミ、それ以外は鋼板を板金したものです。
印字は印刷のような塗装のようなタイプ。
四角のボタンからツマミ類に至るまで、全てアルミ製です。ボタン類は地味にヘアラインで、角が面取りされているので、安っぽくはありません。
背面
背面。特に変わったことはありません。上面カバーはシャンパンゴールドのような上品な色合いです。
スピーカー出力ターミナルはプッシュ式。2系統あるのは便利です。細めのケーブルでないと入りませんが、筆者は極太ケーブル教の信者ではないので問題ありません。筆者がメインで使用しているケーブルはベルデン8460で、もちろん音の観点から選んだものですが、スピーカーケーブルとしては細くて便利です。古いアンプでも芯線が太くて入らないということがありません。
ツマミなど
このアンプのツマミは地味にセンスが良い。普通は単純に角を削りますが、このツマミは1段下がったところを削ってあります。
印字も素朴な感じが好みです。70年代の濃い感じと比べて、エアー感みたいなものが違います。
入力表示など
入力の表示は文字が光るタイプ。とは言っても、よくあるVFDではなく、工夫して文字が光っているように見せているだけです。中身は電球。LEDですらなく、あの小学校の理科の実験で使う電球です。電球の光を文字が抜いてあるプレートや緑の透明フィルタなどを通すことによって、このように表示しています。隣の項目への光漏れなどはありませんし、この部分だけでもよく作り込んであると感じます。
電源LEDは赤。70年代のものよりはちょっとだけ優しい赤のような気もしますが、気のせいかもしれません。
外観 総評
基本は四角基調のデザインですが、白に近いフロントの色や、シャンパンゴールドのトップカバー、ツマミのデザインなど、繊細さを感じさせる部分もあり、総じて上品に仕上がっていると思います。
筆者にとっては、このデザインは結構ツボです。特にツマミがお気に入り。
音について
音についてのレビューです。
詳細
全体的にはあっさりした音でピラミッドバランス。柔らかさみたいなものはあまりなく、やはりデンオンらしい無骨な雰囲気がにじみ出ています。
そのあっさり感が最大の特徴で、特徴がないのが特徴、というタイプです。変に艶感を出してきたり、突っ張ったりもしない、ナチュラルな音です。リファレンス的と言ってもよいかもしれません。そのような飾りっ気のなさが、無骨な雰囲気の正体である可能性もあります。
ウォームはクールかで言えば、ほぼ中間のように感じますが、ややウォーム寄りの音かもしれません。
低音はややブーミーというか、あまり締まりがなくゆったりしている感じで、それがある種のリッチさを生み出していましたが、それはトランジスタ交換前のことです。
交換後は、低音が劇的に締まり、無骨な方向へシフトしました。無用なリッチ感が削ぎ落とされ、実にあっさりとした音になりました。
中高域はあまり特徴がありません。しっかり出てはいますが、これといってコメントが思いつきません。鳴るべき音が実に忠実に鳴っている感じ。それゆえにスピーカーの違いが非常にわかりやすい。
音について 総評
ピラミッドバランス系のあっさりした音です。
スピーカーごとの違いやチューニングの結果をわかりやすく鳴らしてくれますので、当面はリファレンスアンプになりそうです。
機能性・操作性
機能性や操作性についてのレビューです。
機能性
機能性はやや高い。通常のアンプに付いている機能はもちろんのこと、必要かどうかわからないREC OUTセレクターが付いており、さらにMM/MCカートリッジに両対応です。
REC OUTセレクターは音のためにオフが選べるということになってますが、他の機器に音源を垂れ流すことによる音の悪化はあるのでしょうか。よほどノイジーな機器であれば、そういう可能性もなくはないかもしれませんが。
MCカートリッジにも対応していますが、このような価格帯のアンプを買う人がMCカートリッジを買うのかは疑問です。DL-103を使えということですかね。しかしMCカートリッジを使うような人は、ヘッドアンプよりトランスが良いとか言いそうですから、やはりMCに対応する必要はないような気がします。
操作性
操作性は良い。ツマミやスイッチの機能は誰が見てもわかるようになっていますし、レイアウトにも問題がありません。
入力切替以外のスイッチは押し心地が固めでしっかりしているのも良い。
ツマミ類のトルク感はごく普通です。これはボリュームの軸に塗ってあるグリス依存なので、アンプのメーカー側もカスタムできない部分ではありますが。
総評
実にリファレンス的な音のアンプです。デザインもきめ細やかでよい。
非常に強くデンオンの雰囲気を感じます。まあデンオンの製品なので当たり前ですが、まさに想像されうるデンオンという雰囲気。やはりその音が原因かもしれません。真面目というか無骨というか、そんな感じです。
本記事の内容は以上です。
(かつての全体画像↓)
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