テクニックヘッドホン

Pioneer SE-205の修理・レビュー:かなりカマボコサウンド。

Pioneer SE-205の修理・レビューです。

行きつけのハードオフにて、いつもは見ない細かいジャンクが入ったコンテナをふと見てみると、やたらゴツいヘッドホンがひとつだけ鎮座していました。コンテナ内の他のものが本当にゴミにしかならないようなものですので、このヘッドホンは異彩を放っていたと言えるでしょう。そういうわけで、迷わずサルベージしてきました。値段は税抜300円。

誰がどれほど使ったのかもわからないヘッドホンを使うのは少々恐ろしげですが、キレイに掃除すれば問題ないでしょう。手垢まみれのアンプなどを掃除しているうちに、得体の知れない汚れにも慣れてきたようです。しかしながら、持ち帰っている途中は、早く掃除したいとそわそわしていました。手垢より頭や顔の脂の方が汚い感じがしますからね。

修理

修理と言っても、たいしたことはしていません。今回は掃除がメインです。

購入当初の状態

当初の状態はこちら。

購入直後の様子

写真ではそこまで汚れているように見えませんが、実は結構汚れています。なにやら脂ぎっているような感じで、あまり触りたくない感じです。

バッフル面にスポンジが貼ってありますが…

バッフル面のスポンジ

これ、見ればわかると思いますが朽ちかけています。いや、かろうじて形を保っているだけで、完全に朽ち果てていると言っても問題ないでしょう。触るとポロポロと崩れていきます。これはウレタンエッジと同じウレタンフォームなので、劣化するとベタベタになるはずですが、劣化が進行しすぎてベタベタを通り越し、軽石のようになっています。

このスポンジは当然除去しますが、これの有無で音が大きく違いそうなので、代替品を作ります。詳細は後ほど

イヤーパッドは合皮です。

イヤーパッド 表
イヤーパッド 裏

それなりの劣化感がありますが、あまりひどくない雰囲気。劣化しているのは表面だけです。少なくとも40年以上は経っているはずですが、まだまだ使えそうですので、ずいぶんと強固な合皮です。昔のものの方が作りが良かったと口癖のように言う老人もいますが、これを見ると納得してしまいます。

状態は把握しましたので、掃除・修理に取り掛かります。

掃除

今回、最も重要な作業です。キレイに掃除しなければ、動作確認もできません。

分解して、すみずみまで非常に入念に掃除しました。油汚れがよく落ちる、除菌タイプの強力な洗剤を使いました(いつもと同じですが)。さすがに、古いものに付く特有の臭いは取れませんが、それすらも除去する勢いでやりました。

スポンジの製作

前述のように、バッフル面に貼るスポンジを作ります。

材料はダイソーのキッチン用スポンジです。ソフトとハードの2種類を選べましたが、なんとなくソフトを選びました。6個も入っていますが、欧州ではこれよりかなり多く入ったもの(そのぶんパッケージも非常に長い)が1ユーロ(およそ130円)で買えるらしいので、あまりお得感はありません。

ダイソー 泡立ちよくキズをつけにくいソフトスポンジ ソフト

コレを薄くスライスします。普通にカッターで切るとガタガタになるのが目に見えているので、少し工夫します。

使うのは同じくダイソーのMDFです。この板厚が切断後のスポンジの厚さになります。こう言えば、もうどうするのかわかった方も居られることでしょう。

ダイソー MDF 正方形6枚入り

このMDFを2枚使い、門のようにカッターの刃を貼り付けます。幅はスポンジよりやや広い程度。カッターの刃は新品のものがよいでしょう。なまくらでは仕上がりが悪くなります。

カッターの刃を貼り付ける

そして、比較的平らで硬いものの上に置きます。今回はカッターマットを使いました。

平らで硬いものの上に置く

あとは切るのみ。小刻みに左右に動かして切っていきます。

切っていく

焦ると確実に失敗するので、ゆっくりやります。いつのまにかスポンジがテイクオフして薄くなっていることがあるので、少しだけ下に押し付けることも意識すべきです。見た目は地味ですが意外と難しい作業です。

できたのがこちら。

完成

うまくスライスできているように見えますが、すこしミスしています。

完成品 別アングル

青矢印のところが少し欠けています。最後に焦ってしまったようです。

この方法でうまくやれば、かなりキレイにスライスできます。カッターの刃を貼る台を別のものにすれば、任意の厚さのものが作れますので、何かと役に立つこともあるかもしれません。薄いスポンジが欲しい場合にはお試しあれ。

あとはバッフル面に合うように、ハサミで切って仕上げました。仕上がりは後述

イヤーパッド関連

前述のようにイヤーパッドの劣化が見られるので、思い切って表面を剥がしてみます。劣化した部分はもろくなっているので、少しの刺激で簡単に落ち、生き残っている部分のみが残るはずです。

ガムテープなどを使い表面の劣化層を剥がしました。結果がこちら。

イヤーパッド 劣化層剥離後

意外に簡単には落ちず、長時間の作業になりましたが、新品のような仕上がりになりました。

それにしても、ずいぶんと強靭な合皮です。現代のヘッドホンに付属のイヤーパッドが劣化したものをこのようにガムテープでベリベリすれば、たちまち合皮の表面が全て剥がれ、基材の布地だけになるでしょう。この方法を真似してはいけません。

動作確認

一通りきれいにしたので、動作確認します。

結果は、あっけなく音が出ました。修理完了です。

修理 まとめ

修理とは言っても、本体の掃除とスポンジ作り、イヤーパッドの劣化層除去を行った程度です。本当に修理と言えるかは疑問ですが、スポンジを作ったので修理ということにしてください。

上記以外にも、側面の銘板の歪みを修正したりはしていますが、あまりにも地味なので載せていません。

外観・仕上げ等

外観のレビューです。

全体

全体

全体。いかにもクラシカルなデザインです。発売は70年代初頭のようなので、50年くらい前のものです。

ハウジングがやたら大きく、イヤーパッドは非常に幅広いので、かなりモッサリした雰囲気です。これを装着してカッコよく決められる人は皆無でしょう。

ハウジングは無塗装のプラスチックですが、アーム部はステンレス、銘板はアルミです。昔のものは金属が多用されているので、重厚な雰囲気があります。

側面

側面

側面。銘板をメラミンスポンジで軽く磨いたので、光り輝いています。

ハウジングは前後で形状が異なり、ややD形です。もちろん、丸みの強い方が後ろ側。

ヘッドバンド

ヘッドバンド

ヘッドバンド。おそらく合皮ですが、使い込まれた本革のように上質な感じです。ステッチのほつれもなく、作りが非常に良い。

内側も同じように合皮1枚なので、クッション性はほとんどありません。

バッフル面

バッフル面

バッフル面。これが作ったスポンジです。

開口部は非常に狭い。ドライバーは70mmもありますが、こちらから見るとそうは見えません。

外観 総評

いかにも昔ヘッドホン、というモッサリした外観です。しかし重厚感はあります。

作りが非常に良い。50年近く経っているヘッドホンが、ちょっと掃除しただけで新品のようになるのは、非常に素晴らしいと言えるでしょう。純粋な精度やカッチリ感は現代の中国製造のものの方が上ですが、50年後に形を保っていられるかというと、無理でしょうね。メイド・イン・ジャパン神話はこういうところから生まれるのかもしれません。

付属品など

ジャンク品をサルベージしてきたものなので付属品は特にありませんが、当サイトの慣習に従い、ケーブルを付属品としてレビューします。

ケーブル

ケーブル

本体に直付けのケーブルです。長さはおそらく3m程度。

太めですが、しなやかで上質です。少なくとも外側は、劣化している気配が全くありません。ベタベタになったり硬くなっていたりする部分はありません。

コネクタは標準プラグ。昔らしくニッケルめっきです。当初は酸化膜が分厚く付いており、白っぽくなっていましたので、ピカールで磨きました。

音について

音についてのレビューです。

概要

音はかなりカマボコ系です。しかも中域だけでなく、刺さりやすい帯域まで出っ張っているので、ダイヤトーンのスピーカーみたいな雰囲気を感じます。しかし、低音と高音は全く出ていないので、出来損ないのダイヤトーンみたいな音、というべきでしょうか。

定位感や音場感もあまり良くない。ヘッドホンなのに音像がぼやけています。

それを図で表したのがこちら。これ、どこかで似たような傾向のものを見たような…と思ったら、それはダイソーの300円のスピーカーでした。ダイソーのスピーカーみたいな音のヘッドホンとはこれいかに。

Pioneer SE-205 音の傾向

この図の詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は詳細な説明です。…と言いたいところですが、詳細にレビューしたくなるほどの音ではありませんので、細かい部分は省略します。

音について 総評

かなりカマボコサウンド。現代のヘッドホンは確実に進化していることを実感しました。ただチューニングが悪いのではなく、ドライバー本体の底力に限界を感じます。紙コーンはヘッドホンに向いていないのかもしれません。これが発売した当時はネオジム磁石がなかったので、ヘッドホン用の磁石が小さいドライバーでは駆動力不足になるのは当然かもしれません。

スピーカーの場合は、70年代初期のものでも現代のものに見劣りするものではありませんが、ヘッドホンはその限りではないようです。ビンテージのヘッドホンはこれしか持っていないので、そのように判断するのは早計ではありますが。

装着感

装着感はあまり良いとは言えません。

イヤーパッド

イヤーパッドは硬め。合皮が厚いのが問題のようです。しかし、それにより超絶的な耐久性があるので、一概に悪いとも言えません。

内部のスポンジはフカフカではありません。安いハンバーガーショップのバンズみたいな感じ。これは経年劣化の可能性もありますが。

ヘッドバンド

ヘッドバンドは前述の通り、合皮のようなもの一枚ですので、クッション性がほとんどありません。ヘッドホン本体が重いこともあり、頭頂部への攻撃力は凄まじいものがあります。

側圧

側圧は普通からやや強めか。それでも本体の重さをサポートしきれず、ヘッドバンドから頭頂部に荷重がかかる感じがあります。

装着感 総評

本体が重く、さらにヘッドバンドのクッション性に乏しいというダブルパンチ。イヤーパッドもあまり快適ではありません。

総評

なんというか、昔なりのヘッドホンです。外観も音も、まさに想像されうるいにしえの感じ。

このカマボコ感は、ラジオの音と表現してもよいかもしれません。この場合のラジオとは、一体型でポケットサイズのラジオのことです。まともなステレオシステムで聴くラジオは、いわゆる「ラジオの音」ではありません。

ヘッドホンの歴史において、ネオジム磁石の発明は最も重要な技術革新だったかもしれません。そんなことを考えさせられるヘッドホンです。

本記事の内容は以上です。

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