スピーカー

Victor SX-300のメンテナンス・レビュー

ビクターのスピーカー、SX-300のメンテナンスとレビューです。最初から致命的な故障はなかったため、修理ではなくメンテナンスとしています。

やはり行きつけのハードオフでジャンク品として入手。音はOKと書いてありましたが、値段は格安の税抜500円です。しかしながら、筆者はこの値付けに特に驚くことはありませんでした。なぜならば、外観があまりにもひどかったからです。突板もどきのプラスチックシートが無惨に剥がれ、テープで補修した跡があったりして、見るに堪えないものでした。一応欠損しているシートはないようでしたし、安いので、とりあえず購入しました。

ビクターSXシリーズの小型機です。有名かつ人気なSX-500の弟分でしょう。初代モデルのSX-3と同系統の外観で、SXを冠するモデルの中でも特に正統派です。小型機ではありますが、他の同年代のSXシリーズと同様に、羽二重エッジのツイーターが付いており、クルトミューラーコーンのウーファーが搭載され、全てのユニットにアルニコ磁石が使用されているという豪華仕様です。

メンテナンス

メンテナンスについて記しています。

当初の状態

購入当初の状態

これが当初の状態です。突板もどきのビニールシートが剥がれ放題で、大変なことになっています。運搬はこの剥がれたシートをそれ以上折らないように、かつ破かないように慎重に行いました。その甲斐あってか、ほぼ店頭で見たままの状態でこの写真を撮ることができました。

一応、分解して中身を見ておきます。まずはネットを外します。これは金網の外側に布を張ったものです。接着剤がついていますが、劣化してほぼ意味をなさなくなっているので、比較的簡単に外れました。また、金網を保持するためのゴム部品も同時に外しました。

とはいえ、このネットは一度も外されたことがなかったようで、わずかに接着剤の抵抗を感じました。

金網を外したところ

ユニットは非常にキレイで、筆者が購入したジャンクの中では一番と思います。

あとは各ユニットのネジを外せば分解できるのですが、なんと、ユニットに接続されるケーブルが直付けでカシメられているので、取り外せません。音に異常があれば分解を強行しますが、そうでなければ手を加えるのはやめようと思います。音を出すにも、外装の剥がれをケアしながら使用するのが面倒なため、とりあえずそっとユニットを戻し、突板もどきのシートを貼り付けることにしました。

突板もどきシートの貼り付け

シートの剥がれている部分を貼り付けました。基本的には本物の突板を貼る手順と同様ですが、接着剤には、塩ビと木材を接着できると謳うアルテコの速乾アクリアを使用しました。また、接着剤の他には、アイロンとヘラを使いました。

肝心な貼り方ですが、キレイに貼るには少しコツがいります。

まず、剥がれている部分をめくり、接着剤をうすく塗りつけます。そしてシートを密着させ、さらにヘラで余分な接着剤を掻き出します。この手順が重要で、これをしなければ接着剤を塗ったところが少し盛り上がり、仕上がりが悪くなります。あとは掻き出された余分な接着剤を拭き取り、アイロンで熱したら貼り付きます。アイロンの温度は最低(ポリエステル用の温度)にしました。木工用の接着剤は水分が揮発して固まるので、このように貼り付けられます。

夢中で作業してしまったので、写真はありません。結果は外観・仕上げ等の項で確認してください。

音出し確認

音を確認します。

音は全く問題がなさそうです。分解を強行せずに済みました。

電解コンデンサの容量は確認したいところですが、ネットワーク用の電解コンは極端に容量が抜けているとか、増えていることはほとんどありません。70年代のスピーカーのコンデンサですら大抵は生きています。例のイギリスのものでなければ…
音に問題はないので、とりあえずはいじらないことにします。

メンテナンス 総括

簡潔に言えば外装のシートを貼っただけです。

ユニットからターミナルに至るまで全て圧着してあり、半端な覚悟では分解できません。恨めしや。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

全体

全体

全体。SXシリーズらしいナチュラルな木目調仕上げです。突板もどきのシートはこのようにうまく貼れました。

各ユニットには金網が付いていますが、取り外す前提ではありません。各ユニットの見栄えがするだけに、惜しい気もします。

金網の上に布を貼ったものは外観こそ良いものですが、あまり音が良いように作用しているとは思えません。また、ツイーターとウーファー双方に同じデザインの金網を被せるのは、抑揚がなさすぎる気もします。

金網を外し、ゴム部品のみを付けると次のようになります。

金網を外した状態

なんというか、この状態で使いたいとは思えません。ゴム部品がネットを付ける前提なので、このままではみすぼらしく見えます。

仕上げ

仕上げは木目調のプラスチックシートです。しかし、このシートは妙にリアルで、剥がれた状態を見ていなせれば本物と勘違いしていたでしょう。なにせ、木をオイル仕上げしたあの質感(内側から光るような感じ、ややメタリックとも言えるかも)がそのまま再現できています。
しかし、さすがに導管(に似せたモールド)が浅くのっぺりしているので、よく観察すれば気づけるかもしれません。

名前の表示は印刷です。

背面

背面

背面。ターミナルとスタンド固定用の穴があります。

ターミナルはネジ式ですが、取手が小さくあまり使いやすくはありません。

スタンド用の穴には防振用なのか、コルクが付いています。

外観 総評

やたらリアルな木目調シートが貼ってあり、安っぽくは見えません。ユニットが見えないのはやや惜しい。

また、角が立ったエンクロージャーや柾目でナチュラル風の仕上げなど、初代SX-3に近い外観をしています(大きさは全く異なりますが)。実はネットワーク構成も全く同じですし、SX-300という型番からも、90年代版のSX-3を志向したモデルなのかもしれません。

音について

概要

音はやや高音寄りのカマボコ系です。ツイーターが良いのか、うるさいというよりは高解像度に感じるサウンドと思います。

次の図は、このスピーカーの音を感覚的に示したものです。

Victor SX-300 音の傾向

この図についての詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は詳細な説明です。

周波数的な特徴

低音域

低域は密閉型らしくタイトで、質は良い。このあたりは初代SX-3の血筋を感じます。

また、量は最低限出ていますが、本体の大きさと密閉型という構造から、やや少なめなことに間違いはありません。しかし、コーンの重さでチューニングしてあるため(裏にウエイトが付いています)、見た目よりはよく出ていると感じます。
しかし、低音好きの人にとっては間違いなく物足りない低音だと思います。量を重視するか、質を重視するかによって、この低音の評価は大きく違うでしょう。

中高音域

中域は適度に艶と厚みがあります。ソリッドすぎず、特にボーカルの場合は人の人らしさが出てきます。これはおなじみのクルトミューラーコーン搭載のウーファーによるものと思います。

また、クロスオーバーが高めなのか、ボーカルがくっきりめでやや前に出てきます。ボーカル向けスピーカーと言ってもよいでしょう。

高域は勢いがあるが過度にうるさくはありません。質が良く、芯がしっかりしている。よくチューニングされたハードドームツイーターのような質感です。

音場感・定位感

音場は決して広くはありませんが、特に狭いとも感じません。普通です。スピーカーよりひと周り大きい程度。

定位は悪くはないのですが、やや口元が大きい感じもあります。そこにいると感じられるほどではありません。
音像はやや前に出ます。日本のスピーカーらしい鳴り方です。

音について 総評

やや高音寄りのスピーカーです。全帯域において質が良いのですが、特にボーカルものには合うバランスと思います。

ウーファーとツイーターの質が高くポテンシャルを感じますが、ネットワークにあまり凝っていないので、濃厚な感じが出ていません。これは典型的な日本メーカーのスピーカーの特徴とも言えます。ネットワークチューンを行えば、とんでもないスピーカーになる可能性もあります。

ユニット・ネットワークなど

ユニットやエンクロージャ、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。

ユニット

ウーファー

ウーファー 表
ウーファー 裏

14cmコーンウーファーです。定格インピーダンスは6Ω。

このスピーカーに関する資料は見つけられなかったのですが、コーンはクルトミューラー製と確信しています。手持ちの初代SX-3のウーファーのコーン(これはクルトミューラー製です)とほぼ同じ、ウールのような柔らかいパルプを適度に固めたコーンで、色が独特です。
センターキャップもコーンと同じような材質です。クルトミューラーコーンのウーファーはとにかく中域が絶品なので、その特徴を活かしつつセンターキャップで高域を伸ばしているのかもしれません。

エッジは布にダンプ剤を塗ったもので、いわゆるクロスエッジですが、その割にはかなり柔らかめです。ダイヤトーンとは全く異なります。

フレームは鉄プレスです。適度に厚手で強度は十分でしょう。

磁気回路にはアルニコ磁石が使用されており、つぼ型ヨークを奢った豪華な作りです。

フレームの裏にブチルのようなものが貼ってあります。フレームの支柱を制振しているつもりなのかもしれません。

コーンの裏には、ウエイトと思しき物体が貼り付けられています。

ウエイトらしきもの

密閉型は、コーンが軽すぎると制動されすぎて詰まった音になりやすいので、重さでチューニングしてあることがよくあります。

ツイーター

ツイーター 表
ツイーター 裏

ソフトドームツイーター。ドーム部は2.5cm、全体で3.5cmあります。定格インピーダンスは6Ωです。

ダイヤフラムは布に何か(ゴム?)を塗ったもののようですが、あまり柔らかくなく、コシがあります。

フレームはプレスで抜いたアルミのようです。アルミですがダイキャストではありません。せっかくアルミなのに、見せないデザインになっているのがもったいない気もします。

磁気回路にはやはりアルニコ磁石が使われており、つぼ型ヨークが付いています。

やはりこちらにも、ブチルらしきものが貼り付けられています。劣化が進行しているのか、やたら粘着性があり、ガムテープが霞んで見えるほどに貼り付きます(そのため表からの写真は下にチャック袋を敷いています)。下手に置くこともままならない、非常に厄介なシロモノです。

エンクロージャー

エンクロージャーはよくあるパーティクルボードではなく、積層合板でできているようです(少なくともバッフル面、後面は確認済。側面や天面、底面はわかりません)。メーカー製ではかなり珍しい気がします。

バッフル面と後面はかなり厚い板が使われています。

後面が積層合板の証拠

中の下側はこのようになっています。

中身 下側

角補強はありませんが、その代わりなのか響棒みたいなものがあります。楽器のようなチューニング方法です。

なお、バッフル面の裏には少しだけ角補強がありました。

上側は次のようになっています。

中身 上側

天面にちょこんと吸音材が配置されています。どの程度効果があるのかはわかりませんが、メーカーの音の方向性を決めるような人は驚くべき聴き分け能力を持っているという話も聞きますし、少なくともその人にはわかる程度の効果はあるのでしょう。

写真はありませんが、吸音材は大きめのものが2枚入っていました。1枚は丸めてウーファーの後ろに、もう1枚は二つ折りで、背面を全体的に覆うように入っていました。

ネットワーク

ネットワークについての詳細です。

回路基板

実際の回路はこちら。前項のエンクロージャー内部にも出ていましたが。

実際の回路

ウーファーはコイル1発の一次フィルタ(-6dB/oct)、ツイーター側はコイルとコンデンサを使った二次フィルタ(12dB/oct)です。ツイーターのコンデンサは、なぜか通常の有極性電解コンデンサを反対向きに直列接続し、無極性化しています。なお、この電解コンデンサはエルナーのシルミックです。

全ての部品がカシメで仕上げてあります。この頃のスピーカーは、このようにしてよくわからない凝り方をしてあるものが多い。ユニットやエンクロージャーをチューニングするだけでは、すでに技術が熟成されすぎて、このように工夫するしかなかったのかもしれません。

回路図

このネットワーウの回路図はこちら。

ネットワーク回路図

前述のように、ネットワーク部分は一切分解していないので、コイルの定数を測ることができませんでしたが、調べたら定数を乗せているブログがあったので、参考にしました。参考にしたのはこちらの記事です。

ボード線図

このネットワークの周波数応答です。ウーファーはWF、ツイーターはTWと略記しています。また、スピーカーは定格インピーダンスの抵抗としており、インダクタンス成分等は考慮していません。

ネットワーク ボード線図

クロスオーバーはぴったり3kHzです。

ツイーター側はコイルのインダクタンスが大きめなので、肩がゆるめになっています。メーカー製のスピーカーでは珍しい仕様です。

総評

初代SX-3に通ずる外観を持ったスピーカーです。音はやや高音寄りで、質が良い。もう少しネットワークにこだわっていれば、まさに絶品と言える音になったかもしれません。

比較的小型でちょうどいいサイズです。テレビの横に置くもよし、本気のステレオ用にするもよし。低音マニアでなければ、大抵の使い方で満足できるスピーカーと思います。

兄貴分のSX-500に隠れているのか、安い価格で取引されていることが多いらしい。安く手に入るならかなりお得なスピーカーです。ややバブリーなこだわりが感じられます。ちなみに、このSXシリーズのこだわりは、現在はクリプトンに受け継がれているはずです。

本記事の内容は以上です。

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