DACアンプ・DACヘッドホンアンプ

Chord Mojoのレビュー:シルキーかつ高解像度サウンド。

Chord Mojoのレビューです。

Chordは変なデザインと名前で高価なオーディオ機器で有名ですが、特に独自の理論から作られるディスクリートDACが有名です。その中でも、最も安価なモデルがMojoです。

Mojoは、最安モデルだからといって妥協するでもなく、相変わらずディスクリートDACが搭載されています。発売当初は8万円くらいしたのですが、これでもマニアからは「ChordのDACがたったの8万円で買える」と話題になりました。
また、Chord史上初のまともなポータブルヘッドホンアンプ/DACでもあります。それ以前にHugoというポータブルモデルがありましたが、かろうじて持ち歩ける程度のもので、ハガキより少し小さい程度のものでした。Mojoは厚みこそありますが、名刺程度の大きさまで縮小されています。

(2022/02/03追記・2022/02/17改訂)
Mojoはすでに生産終了しているようです。本国の公式ページではLegacy遺産ジャンル入りしています。それに伴って、Mojo 2が出ました。2022/02/16あたりに、日本でも公開されたようです。
Mojo 2は、初代よりさらにキモ系の見た目になってしまったようです。Chordはよくわからないデザインだがキモくはないという具合でしたが、Mojo 2で一線を越えてしまった感じがあります。デザインの他にはメニューボタンとUSB Type-Cジャックが付いたくらいで、カタログスペックはほぼ同じようです。Type-Cジャックの取り付け位置などから察するに、いろいろ使いまわした感じがありますが、わりと大きく中身を変更しているようです。アユートの公式ページ(Mojo 2)によると、DCカップリングになったなどと書いてあります(理想的ですが、イマイチ時代遅れ感があるような気も…)。また、メニューボタンの追加であまり使わなさそうな機能にアクセスできるようになったそうです。
(追記終わり)

閑話休題。Mojoのレビューに戻ります。

ポータブル機器とは思えない音ですが、いろいろな面でクセが強く、万人向けのものではありません。

外観・仕上げ等

全体

全体図

何とも言えないデザインです。Chordにしてはかなりおとなしいデザインですが、やはり流儀というか、カオスを感じます。

印字はレーザー刻印と思います。剥げてくる心配はないでしょう。

ビー玉みたいなものは操作ボタンです。しかも光ります(後述)。素材はガラスではなく、プラスチックです。このボタンは本当に玉で、回すことができます。最初は渋くゾリゾリと回転するのですが、やっているうちに軽快な動きになっていきます。ボタンが回るのは遊び心によるものらしいです。さすがですね。
3つあるボタンのうち、向かって左のボタンが電源ボタンで、中央がボリュームアップ、右がボリュームダウン。

Chordのロゴも印字。上位モデルではプレートを貼り付けてあるのですが、むしろ印字であることによって全体のデザインを壊さず、落ち着いた雰囲気に貢献しているので、これが最適解のような気もします。

本体はアルミの塊なので、結構ズッシリくる重さです。

仕上げ

仕上げはきめ細かいサンドブラストもしくはビーズブラストにアルマイトだと思います。かなりいい感じの仕上げです。金属加工品が好きな人にはたまらないものでしょう。写真だとプラスチックかなにかのように見えてイマイチですが、実物は高級感があります。ズッシリくる重さもその一助となっています。

公式ではこの本体をアルミ削り出しと謳っていますが、本当のようです。分解して確かめたところ、フライスの加工痕がありましたので、間違いないでしょう。

側面①

側面 入力端子側

向かって右の側面には、入力端子類があります。USB、同軸および光入力に対応しています。ポータブルなのに入力は豊富です。

USBはマイクロBで、2つありますが、写真右側が信号入力端子、左が充電用端子です。これらは役割が完全に固定されており、融通が効かない仕様です。信号入力側から充電することはできず、逆も然り。
充電端子の下の穴は、バッテリー残量を表すインジケータです。電源をオンにするとLEDが光ります。

同軸入力はステレオミニと同じ形状のもの。これは一部のDAPなどで使われている仕様のようですが、一般的とは言えないものです。普通の同軸RCAもしくはBNCと変換するには、そのDAP用の変換コネクタを購入するか、自作するしかありません。
内部的にはTSの2極構造で、チップが信号、スリーブがアースになっています。筆者が変換ケーブルを自作して確かめたので、間違いのない情報です。
この仕様になったのはRCAやBNCのジャックがかさばるからでしょうが、それならば同軸入力を排除するという手もあります。極めて使いにくい仕様にしてまで同軸入力を実装している理由は謎に包まれています。

光入力はごく普通に角型のTOSLINKです。同軸がミニジャックなのになぜこっちは角型なのでしょうか。むしろ光のミニジャック(Mini-TOSLINK)の方が有名だと思うのですが。角型の方が一般的で便利なのは良いところですけれども。

入力切り替えは自動。据え置きで使うには不便なこともあります。優先順位は USB>同軸>光 のようです。

印字が袋文字になっているのが何とも言えないところです。

側面②

側面 出力端子側

向かって左の側面には出力端子があります。ステレオミニジャックが2つありますが、バランス接続などには非対応で、ただ出力が2系統あるだけです。これはChordの偉い人が「2人で音楽を楽しめるようにした」などと言っていた記憶もありますが、はたしてこのMojoを買う人が音楽をシェアして聴きたいと思うでしょうか。Mojoを買うような人は「ヘッドホンを2つ挿すとインピーダンスなどの関係で周波数特性が変化する」とか言うような人でしょう。
まあ、Chordの偉い人はMojoについて「Mobile and JoyでMojoだ」などと言っていたそうですので、そんなものなのでしょう。高級なDACにDAVEという名前をつける人たちですし。

発光

発光の図

前述の通り、ボタンが光ります。画像では電源ボタンが光っていませんが、入力を認識すると光ります。つまり、使用中は全ボタンが光り輝きます

電源ボタンは入力のサンプリング周波数を表示(PCMの場合。DSDの場合はDSDである旨のみ表示)し、ボリュームボタンはボリュームの状態を表示します。
このボリュームの光り方がわかりづらいと不評ですが、筆者はそうは思いません。光り方の詳細を説明すると長くなるので省きますが、RGBの3つの光源を使ったフルカラーの一巡を3ループし、左右ボタンの組み合わせで何ループ目かわかるようになっている感じ。わかりにくいといえばわかりにくいのですが、慣れれば瞬間的に現在のボリュームを認識できます。たとえわかりづらいとしても、ボリュームの状態が表示されているだけマシだと思うのは筆者だけではないはず。

この光の色が変わる際、パッパッと断続的に変わるのではなく、フェードのような処理によってなめらかに変化します。これがかなり良く、見た目の満足感があります。

この光の明るさを変えられます。操作方法は電源オン時に両ボリュームボタンを同時押し。明るさは2種類です。デフォルトは明るい方に設定されていますが、これ、結構まぶしい光量です。基本的には暗い方で使用することが推奨されます。暗い方でも、ナツメ球のみを点けている程度の暗い部屋ではそれなりにまぶしいのですが。
操作をボリューム同時押しとして、余計なボタンを追加しないのはとても良いと思います。コストは抑えられ、デザインも保てるという合理的仕様です。

外観 総評

Chordにしてはおとなしいデザインですが、流儀という名のカオスさがにじみ出ています。

仕上げや重さ、発光の演出などが良く、実物を手にすると想像以上に満足感があります。持ち歩いて傷だらけにするのが惜しいとすら思う仕上げの良さです。

音について

音については、ヘッドホンアンプとして使用した場合と、単体DACとして使用した場合について評価します。

ヘッドホンアンプとして使用時

ヘッドホンアンプとして使用した場合、非常にシルキーな音で、中域寄りに感じます。

非常になめらかで、高域のザラつき感が一切ないきめ細かい音です。解像度の高さを極限まで突き詰めたような音で、元がデジタルであることを微塵も感じさせません。

中域寄りに感じる理由は、Mojoでのアナログ信号出力の再現度が非常に高いため、人間の耳が敏感な中域が強調されて聴こえるという仮説を立てました。ボーカルものを聴くとわかりやすいのですが、かなり生っぽい質感であり、異色ともいえる実在感あるいは実体感があります。
また、パワーのなさも中域寄りに聴こえることに拍車をかけているかもしれません。スペック上のパワーがないわけではないのですが、ダイナミックな雰囲気というかゴリ押し感というか、そういったものが不足しています。

ダイナミックレンジが低く感じます。微細音が聞こえすぎる雰囲気。これによって平坦な表現に感じ、空気感みたいなものはあまり優れていません。

音量は十分すぎるほどにとれます。低能率ヘッドホンでもかなりの余力を残して爆音になります。

総合的に、ヘッドホンアンプとして使用した場合は、きめ細かい雰囲気はわかるがダイナミック感やエアー感がもの足りないという評価になります。高音がきれいなヘッドホンではアリな音ですが、大抵のヘッドホンではどこか物足りなく感じる音です。

単体DACとして使用時

単体DACとして使用すると、緻密な雰囲気はそのままに、非常に低音が出るようになります。

低音が出るとはもちろん、低音が過剰で下品な音ではなく、より下の帯域まで伸びるということです。これにより、シルキーかつダイナミックという反則級のサウンドになります。単体DACとして使用する場合は、文句なしに素晴らしい音です。

単体DACとして使用して素晴らしいということは、それだけのポテンシャルがあるということです。つまり、何らかの理由でヘッドホンアンプとして使用する際の性能がスポイルされていることがわかります。それは、結果的に電源が貧弱なことに起因している気がします。廉価モデルならではの妥協かもしれません。

しかし素晴らしいのは音だけです。単体DACとして使用するのであれば据え置きしたくなりますが、そのように使用するには不便です。詳細は後述。

音について 総評

ヘッドホンアンプとしては、音量は十分すぎるほどにとれますが、パワー感などの不足により物足りなさを感じる音です。パワー感を必要としないならば、そのまま使用するのもアリでしょう。

反面、単体DACとして使用すると、良さはそのままに不満要素が払拭され、素晴らしい音になります。

ポータブル使用でも、Mojoを単体DACとして使用し、単体アナログポータブルヘッドホンアンプと併用すると、最高の音を持ち歩けます。やや冗長なシステムですが。

操作性・機能性

操作性と機能性の説明です。

操作性

ボタンが3つしかなく、電源とボリュームの操作くらいしかないため、操作性は良好と言えるでしょう。説明書を読まずとも、誰でも操作できると思います。

ボタンが小さすぎて操作しづらいとか、大きすぎるために間違って押しやすいといったことはありません。ちょうどよい大きさです。ボタンが本体からはみ出ていないのも誤作動防止に貢献しています。

入力切り替えが自動なので操作する必要がありません。操作性という点では良好ですが、入力を切り替えたいときはその都度各種ケーブルを取り外しする必要があり、利便性という点では劣悪です。

機能性

非常にシンプルで最小限の機能しかありませんので、使いやすいという面での機能性は良いと言えるでしょう。「機能の多さ」と「機能性」は違う気がします。

隠しコマンド的に明るさの調整ができたり、ラインアウトモードにすることもできます。見た目よりは多機能です。

各部の光で、入力信号のサンプリング周波数、現在のボリューム、および電池残量がわかります。これらは常に表示され、いつでも確認できます。これは結構便利だと思います。

その他

据え置きで使いづらい

上で何度か述べている通り、本機は据え置きで使いづらい部分があります。

まず1つ目は、入力切替が自動なところ。入力機器が1つしかない場合は特に問題ありませんが、据え置きの場合は複数の機器を切り替えて使いたいシーンも多いので、不便です。USB、同軸、光の3種もの入力が使用できるのも、残念さに拍車をかけています。

そして2つ目は、バッテリー駆動なことです。これは基本的に充電端子に電源を接続しっぱなしにすれば解決できますが、ここで障害になるのは、使われているバッテリーがリポバッテリーなことです。リポは瞬間的なパワーに優れるバッテリーですが、少々繊細なものです。もちろん内部的に安全な充電制御を行っているはずですが、どうにも充電しっぱなしでは不安が残ります。
バッテリーを取り外し、完全に据え置きに特化させることもできます。これについては後述。

まだあります。3つ目は、出力端子がステレオミニであるところです。据え置き機器のアンプに入力する場合、大抵はRCAジャックですので、変換が必要です。変換コネクタや変換ケーブルを使えばよいのですが、ケーブルや変換コネクタにまでこだわりたい場合は工夫が必要です。
筆者の場合は、ステレオミニからRCAジャックに変換する短い変換ケーブルを自作し、その先は通常の自作RCAケーブルを使用しています。

音に関しては据え置き使用を推奨したいのですが、細かい部分で据え置き使用を妨害してくる仕様があります。せめて入力切替が手動でできればよかったのですが。

バッテリーの取り外し

完全に据え置きで仕様するのであれば、バッテリーを取り外すことを考えてもよいでしょう。ただし、前述の通りリポバッテリーが使われているので、バッテリーのケアが必要です。リポバッテリーは過放電すると膨らみ、その状態で力がかかると発火することがあります。つまり、放っておくと大変なことになる可能性があります。

バッテリーの取り外しは非常に簡単です。本体裏の8本のネジ(多ッ!)を外し、バッテリーから出ている電線のコネクタをメイン基板から外せばよいだけ。簡単すぎてあくびが出そうな作業です。保証はなくなります

バッテリーを外した状態で充電端子に電源を接続すると、いかにも「バッテリーが死んでいる!」のような警告らしき雰囲気でバッテリー残量を示すLEDが点滅しますが、特に問題なく使用できます。

ボタンが勝手に押されている…?

カバンに入れていたら勝手にボタンが押されていて、爆音になっていることに気づかずにイヤホンを壊した、などという報告もありますが、自業自得です。アンプ類は電源を入れたらまず音量を最小にする癖をつけましょう。アナログボリュームの機器なら電源を入れる前に最小音量にしましょう。特にMojoは音量の表示がわかりづらいと評判(筆者の意見は異なりますが)なので、これを徹底しましょう。
要するに、使いこなせないものを使うな、ということです。このように細かいケアをしながら使うのが、使いこなすということだと思います。

大抵のまともなヘッドホンアンプ機能のあるオーディオ機器は、イヤホン程度ならば容易に破壊できるほどの出力があります。そういう点では、Mojoだけをイヤホン破壊機として攻めるのはおかしいと思いますが、そのような評判が一定数あります。

アナログ単体ヘッドホンアンプと重ねる場合は、Mojoと書いている表面とそのアンプが面するようにしましょう。これは公式が推奨する重ね方で、ボタンの誤作動を防げます。この状態でも問題なく操作することができます(少し操作しづらいのですが)。

総評

ちょっとクセのある外観に、ポータブル機器とは思えない上質なサウンドを備えたヘッドホンアンプ/DACです。ただし、そのままヘッドホンを駆動すると少し物足りなく感じます。反面、DACとしての性能は非常に素晴らしい。

音のみを考慮すれば、価格を考えても買いでしょう。Chordのフィロソフィーを比較的低価格で味わえるというのもよいところ。

本体のデザインやビカビカに発光するボタンなどの外観、あるいは利便性の低い入力切替など、音以外の要素にクセが強く、万人にオススメできるものではありません。
少なくとも、見た目が好みでないと僅かにでも思った方は購入しないほうがよいでしょう。反対に、この見た目が個性的でよい、という方には購入をオススメします。
Mojoが向いているのは、無難で便利なものを欲しがる人ではなく、クセがあるものでも個性を認め、これはこれでよいと言えるような人です。

本記事の内容は以上です。

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