スピーカーテクニック

DIATONE DS-15Bのメンテナンス・レビュー・改造

DIATONE DS-15Bのメンテナンス、レビュー、改造です。

いつもはジャンク品を仕入れているので修理しないと使用できないのですが、今回は完動品の中古を仕入れたので、メンテナンスとしています。完動品といっても、古いものですから、相応のメンテナンスは必要です。

今回は改造もしています。筆者の方針として、できる限り新品の音を復元することを心がけているため、あまり改造はしないのですが、後述の理由によりやむを得ずネットワークを変更しています。

メンテナンス

今回手に入れたものはこちら。

購入当初の図

ネジのサビがすごいので、きれいにします。
ダイキャストフレームが腐食していますが、これはこれで味があるのと、このタイプの腐食は根が深くて除去するのが面倒なため、このままにしておきます。

ウーファーエッジはいつものダイヤトーンのものですが、なぜかほとんど硬化していません。前オーナーが業者に頼んだか何かしたのでしょう。素人がいじったようには見えませんでした。しかし、多少の劣化感があるので、補修します。

ツイーターのエッジはガチガチです。最初が柔らかかったのかはわかりませんが、ウーファーのエッジと同じようなものが塗ってあるように見えます。これも柔らかくします。

ネジのサビ取り

ネジのサビを除去します。ヤスリなどで削れば一発ですが、あまりメッキを剥がしたくないので、サンポールに漬けました。サンポールは塩酸が主成分で、家で使える希塩酸として重宝します。塩酸は鉄をどんどん溶かしますが、ニッケルメッキしてあるなら別です。ニッケルと塩酸の反応は遅く、サビを除去してきれいにでき、ニッケルメッキを剥がしすぎません。

次の画像がビフォーアフター。ネジのサビ取りだけでもかなりきれいな印象になります。

ビフォー
アフター

ウーファー・ツイーターのエッジ軟化

ウーファーとツイーターのエッジを軟化します。軟化方法はコニシボンドG17を薄めて塗る方式。詳細はこちらの記事で紹介しています。

硬化したエッジの軟化方法 | ダイヤトーンや劣化し始めているゴムエッジなどに
ダイヤトーンに代表される経年劣化で硬化したエッジを軟化させる方法を解説しています。劣化し始めて柔軟性を失いつつあるゴムエッジも同じ方法で軟化できます。やり方は簡単。シンナーに溶かしたゴム系接着剤を薄く塗布するだけです。

メンテナンス 総括

ネジのサビを取り、エッジを軟化しただけです。特に面白みもありません。

この個体はハードオフで入手したものですが、コンディションが良く、当たりの個体と思います。
ハードオフの完動品と銘打たれている中古品は魑魅魍魎ちみもうりょうです。不可解な修理などが施されており、ジャンクよりたちの悪いものなどが非常に多い。これはただの愚痴ですけれども。

外観・仕上げ等

全体

全体図

70年代らしい角の立った外観です。今は見なくなったコーンツイーターも古めかしさに寄与しています。ツイーターもウーファーも実にダイヤトーンという見た目です。ユニットの取り付けが六角ボルトなのも古い感じがします。

仕上げ

バッフル面は黒いシートが貼ってあります。側面・天面・底面は突き板仕上げで、木目がきれいな仕上げです。背面は黒塗装のみ。

バッフル面に張ってあるシートは少し小さく、箱の素材のパーティクルボードがチラと見えています。

ネット

ネットは青いジャージ生地のようなものが張ってあります。ネットの枠には角丸とスラントがついており、80年代に流行りだすような見た目を先取りしている感じもあります。

枠が太く、非常に強靭なネットです。これもいつものダイヤトーンという感じですが、貧弱な構造アレルギーみたいな人が重役だったのでしょうか。

背面

背面ターミナル部

背面にはターミナルのみ。密閉型なので、穴などは一切ありません。

ターミナルはごく普通のプッシュ式。昔のプッシュターミナルは穴が小さく、太い電線は入りません。1.25sqでぴったりという感じです。筆者は基本的にベルデン8460を使っているので、特に問題はありません。

外観 総評

まさに70年代のダイヤトーンの2ウェイブックシェルフ、というデザイン。
まあ、ダイヤトーンのスピーカーで「ダイヤトーン感」がないスピーカーは存在しませんが。

音について

概要

音は、ノーマル状態だとうるさい。とにかくうるさい。うるさすぎて聴けないので、ネットワークを改造しました。改造の詳細は後述。

ノーマルの音は次の図。

DIATONE DS-15B 音の傾向

改造後は次の図のような感じに。うるさめではありますが、かなり改善しました。そのかわり定位がややぼやけてしまいましたが。

DIATONE DS-15B改造後 音の傾向

この図についての詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は詳細な説明です。ただし改造後の音について述べています。初期状態では「うるさい」以外の感想はありませんので。

周波数的な特徴

低音域

低音は多くない。20cmというウーファー径、および密閉型ということを考えてもずいぶん出ません。例えばバスドラムが「ズムズム」という音とすると、このスピーカーから出る音は「トゥムトゥム」という感じ。
これはユニットやエンクロージャの構造に起因している気がします。詳細は後述。

中高音域

ダイヤトーンなので、当然のように中域が張り出します。低音が少ないことも相まって、ボーカルはスッキリと聴けます。

中高域は刺さりぎみ。これでもかなり改善したはずですが。

高域はやや強めで金属感があります。

音場感・定位感

音場は広くない。低音が出ないのでスケール感が出にくいのかもしれません。

定位はそこまで良くはない。少しもやりぎみです。ダイヤトーンから定位の良さを除いたら、ただのうるさいカマボコ音スピーカーになってしまいます。
改造前はもう少し良かったような気もしますが、なにせうるさすぎてまともに聴けていないので、あまり確かな記憶ではありません。

音について 総評

ダイヤトーンの悪い方面が目立つ音と思います。同社のスピーカーは中域が張り出して少しうるさめ、かつ低音は控えめという印象がありますが、それが先鋭化している感じです。

ユニット・ネットワークなど

ユニットやエンクロージャ、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。

ユニット

ウーファー

ウーファーは次のようになっています。

ウーファー

20cmコーン型ウーファー。インピーダンスは8Ωの表記ですが、実測は6.2Ωでした。

コーンはなんの変哲もない紙。結構柔らかい紙です。そのためか中心部は何かを含浸してあり、硬くなっています。また、コルゲーションがついており、強度を高めてあります。色は茶色ですが、新品時は黒かった可能性があります。経年劣化で茶色になるこの顔料(?)、なにを使っているのでしょうか。
センターキャップはコーンと同じ素材に見えますが、それよりかなり硬いものです。
エッジは布にダンプ剤を塗ったもの。表はエア漏れ防止用、裏はダンプ用と思います。ダイヤトーンにしては柔らかめのエッジです。同社のエッジは柔軟性の低い布が使われていることが多いのですが、これは違います。

フレームはアルミダイキャストで、補強がガッチリ。これを見ただけでダイヤトーンとわかる見た目です。

マグネットはかなり大きく、駆動力はありそうですが、先述のように低音は出ません。

低音が出ない原因の1つは、このウーファーである可能性は高いでしょう。具体的に言えばコーン。このスピーカーのような比較的小型の密閉型の場合、本体の容積が少なく詰まった低音になりやすいことに対して、コーンが軽すぎると思います。つまり、過制動で低音が出ていない。実際、これとほぼ同じエンクロージャとウーファーの大きさを持ち、同じく密閉型のONKYO M55は、コーンにおもりが取り付けられており、低域の不足を全く感じません。

全体的に豪華な作りのウーファーで、単体では良いものでしょうが、箱との兼ね合いが良くないのかもしれません。

ツイーター

ツイーターは次の画像のようになっています。

ツイーター

4cmコーンツイーター。インピーダンスは8Ω表記ですが、実測で5.2Ωしかありません。

今は使われないコーンツイーターです。コーンは紙。センターキャップは金属製で、ダイヤトーンらしい円錐に丸みをつけたような形状。エッジは布にダンプ剤を塗ったものです。

ツイーターもダイキャストフレームです。これが必要以上のうるささを引き出しているかもしれません。特にツイーターは、フレームの素材がわかりやすく音に影響してきます。

マグネットは大きめ。コストを惜しんでいるようには見えません。昔のスピーカーは豪華にできています。

ツイーターもなかなかコストがかかっているように見える作りです。音が良いかどうかは別の話ですが。

エンクロージャ

エンクロージャは次のようになっています。

エンクロージャ 全体
エンクロージャ 上部
エンクロージャ 下部

なんというか、凝りすぎですね。ほぼ全ての角補強はともかく、魂柱たまばしら力木ちからぎのようなものもあります。楽器のようなチューニング方法です。実際の魂柱は固定されていないのでちょっと違いますが。

このやりすぎの補強が、低音が少ないもう1つの原因と思います。密閉型の場合は箱鳴りがわりと低音を発生させますが、これではそうもいきません。実際、結構な音量で鳴らしていても、ほとんどエンクロージャが振動していません。
一応、天面は補強が少しゆるく、そこで鳴らそうとしているような意図を感じなくもないのですが、それほど効果はない気がします。

素材は全面パーティクルボード。昔のスピーカーの大半に使われています。今はそれがMDFに代替した感じです。

吸音材は次のように入っていました。

吸音材の入り方

吸音材は2枚あり、長いものが折りたたまれて入っているほか、例の魂柱のような部分と側面の間に挟まっているものがあります。密閉型にしては少なめかもしれません。ウーファーの高域がかなり出てくるので、吸音材が足りない可能性もあります。

ネットワーク

ここでは、改造前のノーマル状態のものを示します。改造後のものは「改造」の項まで。

外観

ネットワークの外観は次の画像です。

ネットワーク

公式の宣伝文句の通り、フィルムコンデンサが使用されていますが、電解と並列に接続されており、肩透かしを食らった気分です。ダイヤトーンは高級モデルでも電解を使っているので、電解の音を気に入って使っていたのかもしれません。

電解コンデンサはエルナー。ダイヤトーンは空色のルビコンの印象がありますが、この時代は違ったのでしょうか。このエルナー自体は、スピーカーのネットワークによく使われているものです。

コイルはいつものダイヤトーンのもの。黄色い帯に型番(?)とインダクタンスが書いてあるのが特徴です。

結線はラグ板を使う方式。70年代のスピーカーではメーカーを問わずよくある方式です。改造の際にもレイアウトが自由自在なので、結構便利だったりします。

ネットワークが取り付けてあるパーティクルボードは、接着剤でエンクロージャにガッチリ付けてあります。後述の改造の際に剥がしましたが、パーティクルボードの一部がごっそりと分離しました。母材の強度より接着強度の方が高い例ですね。

回路図

回路図は次の通り。
ただし、ツイーター側の「0.47uF?」と記しているコンデンサは、表記上の容量が不明ですが、実測その他によって予想された容量です。

ネットワーク回路図

ツイーター側は普通に12dB/octで低域をカットする構成です。

ウーファー側はバンドストップフィルタになっています。特定の帯域を狭く切り取る回路です。つまり、ウーファーはフルレンジ的に使ってほぼスルーで、嫌な音が出るところだけ切り取っているような構成です。

ボード線図

この回路の特性は次の通り。ただし、全ての部品の定数は上記回路図の値を使い、スピーカーは表記上のインピーダンスと同じ値の抵抗としています。

ネットワーク ボード線図

意外と面白い特性だと思います。

バンドストップフィルタの減衰をクロスオーバーとして使っているように見えますが、偶然かもしれません。

注目すべきは位相です。3.2kHzあたりから上の領域において、位相がほぼ一致しています。これは単純にツイーターとウーファーの音が合成されると考えると、その帯域の音は強め合うということです。これがうるささの原因かもしれません。ウーファーから3.2kHzより上の帯域が出ていなければ問題なかったのですが、残念なことにしっかりと出ています。

改造

上述の通り、ネットワークの構成を変更しました。

方針

この改造の目的は、ノーマルの状態のうるささを取り除くことです。
まず、うるささの原因を調べたところ、次のようなことが判明しました。

  • ネットワークの問題。3.2kHz以降がウーファーとツイーターで同位相で、強め合う。これはネットワークの項で述べた通りです。
  • ウーファーの高域が出ているので、それが出てしまう。
  • そもそもツイーターがうるさい。ツイーターの音を確認したところ、2~5kHzあたりが多く出ており、非常にうるさく感じるものでした。

つまり、ツイーターがそもそもうるさいにも関わらず、ウーファーの高域と合わさって強め合い、超うるさい音になっていたということです。

よって、ツイーターの2~5kHzあたりを削り、ウーファーの高域を下げるようにする方向性で改造しました。

回路図・特性

上で述べた目的を達成するため、次のような構成を考えました。ただし、シミュレーションと現実とをよく一致させるため、ノーマル状態でついている部品の定数は実測値を使いました。なお、並列に接続されているコンデンサは1つにまとめてあります。

ネットワーク回路図 改造後

ウーファー側、ツイーター側共に、スピーカーの直前に並列に接続しているものが改造で追加した部品です。今回は大きく構成を変えずに、不要な帯域のみを切り取るようにしています。ウーファー側に追加したコンデンサはオマケ程度です。これにより高域インピーダンスが下がりますが、そこまで問題にはならないでしょう。

この回路をシミュレーションすると、次のような特性が得られます。

ネットワーク ボード線図 改造後

目的通りに、ツイーター側の2~5kHzをカットできています。シミュレーションを繰り返して定数を決めたので当然ではあるのですが。

ウーファー側の高域もそれなりに抑えられています。1.5kHzあたりが少し持ち上がっていますが、1dB程度ですのでわからない程度でしょう。実際はスピーカーのインダクタンス成分があるので、持ち上がっていない可能性もあります。

この回路を実際に組み込んでみましたが、シミュレーション通りに動作しているようでしたので、部品の定数などの微調整すら必要ありませんでした。

ネットワーク外観(改造後)

改造後のネットワークは次のようになりました。

ネットワーク外観 改造後

追加した部品を重点的に写しているのが次の写真です。

追加部品のアップ

コンデンサと抵抗は全て秋月で購入したものです。
電解コンデンサはルビコンNA、フィルムコンデンサはパナソニックECQUAです。
抵抗はFAITHFUL LINKの1W金皮。たまたま2.2Ωのものしかなかったので、4つ直列で8.8Ωとしています。全体で定格4Wになるはずなので、十分でしょう。
オーディオ用という部品はあまり使いたくありません。べらぼうに高価ですし、オーディオ用でないものの音が悪いとも限りません。

追加した空芯コイルは、筆者謹製の自作手巻きコイルで、3Dプリンターで作ったボビンに、ホームセンターで買った0.4mm径のエナメル線を巻きつけたものです。このエナメル線は10m巻で売っているのですが、それを全て巻きつけて0.43mHのインダクタンスとなりました。こう書くと簡単に作ったように聞こえますが、実際はインダクタンスを増やすためにコイルの直径や厚さを変更したものを何度も作り直しており、それなりに苦労した結果できあがったものです。ちょっと頼りない線径ですが、直流抵抗は1Ω程度で、特に問題はないはずです。

追加した部品はギボシ端子で接続してありますが、これは簡単にノーマルに戻せるようにしているためです。戻すことはほとんどないと思うので、ターミナルに切り替えスイッチを配したりはしていません。なぜギボシ端子なのかというと、たまたま在庫があったからです。真鍮製でスズメッキなので、変な音になったりはしないでしょう。下手に金や銀、あるいはロジウムでメッキされているものよりは問題のないもののはずです。

改造 結果

結果は「音について」で書いている通りです。うるささが抑えられ、聴ける音になりました。しかしまだうるさめな音なので、元の雰囲気を残しつつおとなしい音にできたのかもしれません。

総評

ノーマル状態ではとにかくうるさいスピーカーです。そのままではダイヤトーンの悪いところを煮詰めたような音であり、聴くに堪えないものです。

なんというか、各部品のポテンシャルは高いのですが、組み合わせとチューニングに失敗している感じです。
ダイヤトーンは中域が張り出すサウンドながら、うまさというか、絶妙なチューニングを感じるのですが、嫌味な部分を消していないという印象です。これはうまくハマれば名機となる可能性がありますが、そうでない場合は嫌味でクセの強いものになるでしょう。このスピーカーは後者の方です。

今回はネットワークチューンを行いましたが、バスレフ化やコーンの重量増など、ハード的な改造をしてもよいと思います。
ネットワークは大幅に変更する場合、ウーファーの高域側が結構出ているので、クロスを5kHzくらいに引き上げてもよいかもしれません。そうすればツイーターの嫌味な部分を回避できます。

本記事の内容は以上です。

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