タイトルの通り、ダイソーのものだけで比較的まともなスピーカーを作ります。
ユニットは過去にレビューしたUSBミニスピーカーのものを使うので、それの改造としてもよいかもしれません。しかし、使い回すのがユニットのみなので、実質的には自作スピーカーにあたる気がします。
製作方針
まずは着地点とそれに至る方針を決めましょう。趣味の工作なので、気ままに作りはじめて流れでできたものを完成品としても悪くはないのですが、そういったものは駄作になりやすい。目標を決めて、それを達成するように作るのが「ものづくり」というものでしょう。
まず、USBミニスピーカーは、低音が絶望的に出ないことに加え、高音も出ないという弱点を抱えていました。これは両者とも改善したいものです。つまり着地点は、中域一辺倒のスピーカーから脱却することです。具体的とは言えない目標ですが、これがあるだけでも作業時の締まりが違います。
低音は、明らかにエンクロージャーの容積不足によるものですので、別のものを作ります。密閉型にするかバスレフ型にするかは、作りながら決めます。
高音は、ユニットをそのまま使う限りはどうしようもないので、ユニットを直接改造することにします。
せっかくユニットがダイソーで手に入ったので、他の材料も原則としてダイソーで揃えることにしました。ダイソーだけでどれほどのものができるか気になることもあり、あえて縛りを設けています。
使ったもの
使ったものの一覧です。全てダイソーで手に入ります。写真に写っているものが主ですが、それ以外のダイソーで買ったものも使用しています。
写真内のもの(左から)
- ケント紙 中厚口(坪量127.9g/m2)
– センターキャップを作るのに使用 - USBミニスピーカー
– 分解してユニットのみ使用 - MDF材 100×100mm t6
– 箱に組んでエンクロージャーにする - 洗濯のり
– ユニットの改造に使用 - 木工用接着剤
– エンクロージャーの組み立てに使用 - ボルト・ナット・ワッシャーセット
– ターミナルとして使用 - コニシ ボンド G17
– 木材以外の接着箇所に使用
写真にないもの
- 厚紙
– ガスケットとして使用 - 食器洗い用スポンジ
– 吸音材として使用 - ろ過ウール
– 同じく吸音材として使用 - ネオジム磁石
– 磁気回路の強化に使用 - ナチュラルミルクペイント ナチュラルベージュ
– 塗装に使用
今回はナチュラルミルクペイントなる塗料を用意して、塗ってみることにしました。これももちろんダイソーで買えます。
色を塗るだけでも自作スピーカー感が抑えられます。個人的には、自作スピーカー感が強い無仕上げのエンクロージャーが好みではありません。
製作
実際に作っていきます。
ユニットの改造 その1
ユニットを改造します。
コーンのコーティング
まず、表面に貼ってあるツルッとしたプラ板を外します。端の接着が甘いので、端をめくります。
めくったところに、水をかけます。このプラ板は木工用接着剤のような水性タイプの接着剤で付いているらしく、水をつければ簡単に外れます。
こうすれば、端に溜まった水が接着剤を剥がしつつ順次進行するので、非常に簡単に剥がせるはずです。
剥がすとこうなっています。
接着剤が非常に分厚く塗られています。これがバネの役割となったり、質量が増えて動きづらくなったりしていそうですので、そういうところから高域が出ないユニットになっていたのかもしれません。
この接着剤を剥がします。溶かして剥がすことはできなさそうなので、コーンの表面の紙を1層剥がすようにして剥がしました。要するに、強引に剥がしたということです。
これに洗濯のりを塗ってコーティングします。洗濯のりはPVA(ポバール)という樹脂で、よくスピーカーのコーンにコーティングしてある材料です。プラ系でも紙系でも使われているはずです。
これを乾かし、合計3回くらい塗ってみました。なにもせずに待つと乾燥に1~2時間かかりますが、ドライヤー等で温めれば非常に早く乾燥させられます。
3回塗ったものがこちら。光沢が出て良い質感になりました。
このコーティングは、コーンを硬化させる効能と、ピークを抑える効果があるはずです。このユニットのコーンは非常に薄い、コピー用紙のような紙なので、この程度のダンプ材塗布でも硬化してしまいます。
センターキャップの製作
次に、センターキャップを作りました。ケント紙を濡らし、3Dプリンターで作った型で成形後、乾燥させました。紙は濡らすと柔らかいのである程度自由に成形でき、乾かすとそのままの形状を維持します。こだわるなら、紙を濡らしてミキサーなどで砕き、パルプのような状態にしてから成形するのもアリです。
ケント紙で作ったのは、紙の分割振動による艶感を期待してのものです。そのため、コーンと違いコーティングはしません。
これをユニットに接着します。接着剤はG17を使いました。G17は両面に塗布し、5~20分待ってから貼り付けるという手順を間違わなければ、使いやすくて接着強度もかなり確保できます。
そして貼り付けました。
これでとりあえずはユニットが完成しました。元よりも見た目が良い感じになっています。
エンクロージャーの製作
エンクロージャーを作ります。
板の加工
まずは、6枚の板のうち2枚の1辺を12mm切り、端面を整えます。
これで箱にできるはずです。仮組みしてみましょう。
うまく箱にできることが確認できました。
各種穴あけ
組み立てる前に、ユニットやターミナルを取り付ける穴を開けておきます。
問題になるのはユニット用の穴でしょう。かなり大きい穴を開けなければならないので、自在錐やホールソーがあれば便利ですが、筆者は所持していません。小さい穴をたくさん開け、それをつなげて大きい穴を開けるしかありません。
小さい穴は先が細いニッパーで切ってつなげました。つなげたら、中心部をくり抜きます。
あとはカッターやヤスリで成形するのみ。地道な作業です。ユニットを付けると隠れる部分なので、あまりキレイにする必要はありません。ユニットとすり合わせながら、入るようにすればよいのです。
できました。ユニットのターミナル部が干渉するので、それ用のくぼみも付けました。
バスレフ用の穴はテーパーリーマーで拡張しました。
ターミナル部も穴あけし、仮組みしました。M4のネジをターミナルとして使用します。ケーブルはダイソーのものではありませんが、ダイソーのものを使う場合は、100V用の延長ケーブルを解体するとか、元のスピーカーに付いていたケーブルを使えばよいと思います。
必要な部分に穴を開けたので、組み立てます。
組み立て
箱状に組み立てます。
接着剤をたっぷり塗って、箱にするだけです。組み立て後は輪ゴムで抑えます。この程度の大きさなら、これで十分です。
外側にはみ出た接着剤は、即座に拭き取りましょう。木工用の接着剤は乾燥が早いので、モタモタしていると手遅れになります。濡らしたタオル等がベストで、乾燥前の接着剤を完全に拭き取れます。あまり外観にこだわらず、ある程度キレイにしたいだけなら、ティッシュやキッチンペーパーで最低限拭いておきましょう。なお、乾いてしまった接着剤は、カッター等で削り取るしかありません。
内側にはみ出た接着剤は強度を上げるのに役立ちますので、拭き取ったりしないほうがよいとされています。
バスレフダクトの仕様を決定するために、背面はつけないでおきました。
バスレフダクトの長さはいろいろ考え、実験した末、100Hzくらいにしました。ダクトもケント紙で作りました。
このあと背面も取り付けて、軽く鳴らしてみましたが、バスレフポートが全く効いている様子がありません。塞いでも開放しても低音の感覚が変わりません。それなら密閉型で十分なので、密閉型に作り直します。バスレフポートの調整とは何だったのか…
バッフルを剥ぎ取り(かなり大変でした)、最も弱そうな面に筋交いみたいなものを入れてみました。これはカットした余りの部分です。密閉型では箱鳴りが重要なので、多少は補強を考えます。
そしてバッフルを作り直し、接着した後、ガスケットも貼り付けました。ガスケットは厚紙を切って作りました。
ユニットをはんだ付けし、吸音材としてろ過ウールを入れました。ろ過ウールは全量の1/4ほど使い、ギチギチに詰めました。
あとはユニットをネジ留めして、ひとまず完成です。なお、ユニット固定用のネジはダイソーのものではなく、所持していたものを流用しましたが、ダイソーの木ネジでも代用できるはずです。
この状態で音を鳴らすと、元よりはよいのですが、高域のピークが気になりますし、可聴域ギリギリの超高域があまり出ていません。簡易的に周波数特性を測定しても、筆者のインプレッションと同じような結果になりました。8000Hzで顕著なピークが出ているようです。
これでは高域を改善するという目標が達成できていませんし、好みの音でもないので、さらに改良します。
改良
ユニットの改造 その2
さらにユニットを改造し、ピーク感の減少と超高域を伸ばす方法を考えます。
高域のピークは明らかにセンターキャップによるものなので、その形状や材質を検討します。
まずは元のセンターキャップを外しました。これにはダイソーに売っていないラッカーシンナーを使いましたが、イレギュラーな作業なのでノーカウントとします。また、こんなことができるのは洗濯のり(PVA)をコーティングしたからです。PVAは水やアルコールにはよく溶けますが、シンナー等の有機溶剤にはほぼ溶けません。
さらなるコーティング
さらにコーンをコーティングします。センターキャップなしでも若干のピークが認められたので、それを排除する目的です。
同じように、洗濯のりを塗ります。4回塗りました。これだけ塗ると、もはや紙に染みなくなり、表面に著しい光沢が現れます。
これでコーンから発せられるピークは排除できました。簡易計測で確認済みです。
次は、せっかくセンターキャップを外したので、磁気回路の強化を試みます。
磁気回路の強化
磁気回路は、ボイスコイルが入る磁気ギャップ部の磁束密度が重要です。外付け部品で簡単に磁束密度を上げたい場合、磁気回路の中心部(センターポール)に、反発する向きで磁石を取り付ければよいことが知られています。
理屈はともかく、目で見てわかりやすいようにシミュレーションしてみました。ソフトはフリーのFEMMを使いました。こんなダイソーのスピーカーの改造で、わざわざシミュレーションする輩が他にいるのでしょうか。
次の図は、どの領域がどの部品なのかを表しています。なお、これは磁気回路の中心を通る断面図の半分に当たります。
以下が実際のシミュレーションの結果です。
次の図は、フェライト磁石のみの場合です。ネオジム磁石の領域は素材を空気に設定しています。
ギャップ部の磁束密度の最大値は0.65~0.615Tです。
これに、反発するようにネオジム磁石を取り付けた結果が次の図です。
ギャップ部に磁束密度の最大値は、0.72~0.685Tまで向上しています。
また、色の範囲は合わせてあるので、色の変化で単純比較できます。フェライトのみの結果よりもギャップ部がオレンジ色になっているため、磁束密度が向上していることがわかります。
念のため、吸着する方向にネオジム磁石を付けた場合もシミュレーションしました。その結果がこちら。
こちらはむしろ磁束密度が下がり、ギャップ部の最大値は0.615~0.58Tという結果です。
シミュレーション結果より、磁気回路を強化したい場合は、磁石を反発方向に取り付けることが非常に重要とわかりました。
ちなみに、磁気回の下側(ユニットの尻側)に磁石を取り付けるシミュレーションもしてみましたが、これはほとんど効果がないようです。
そういうわけで、実際に磁石を取り付けましょう。
ダイソーで売っているネオジム磁石の最も小さいもの(8個入り)を使います。これをやはりダイソーのエポキシ接着剤で接着します。
このとき、軽く中心部に近づけて、反発する方向が正しい方向です。磁石をラジオペンチ等でしっかり保持し(しっかり持たないと磁力で勝手に回転します)、反発力に抗いながら中心部に接着します。中心部にかなり近づくと、鉄に磁石が引き寄せれられる作用が勝り、磁力でくっつきますので、そのまま放置します。
これで磁気回路の強化は完了です。音の違いが瞬時にわかるほどではありませんが、間違いなく性能は向上しているはずです。
センターキャップの作成・取り付け
最後の難問、センターキャップの作成です。
まず、先程の失敗例からするに、あまり大きいセンターキャップだと共振する周波数が低く、不快な音になる可能性がありますので、小さめに作ります。
かなりの種類を試しましたが(恐らく20種類以上、材質も紙だけでなく、アルミやポリプロピレンなどを試しました)、結果的に、ケント紙を直径18mmに切り抜いた円盤が最もバランスの良い音でした。これをボイスコイルボビンに接着します。センターキャップやダストキャップというよりは、サブコーンに近い役割です。
筆者の場合はおまじない的にややお椀状に成形しましたが、円盤でも問題はありません。
そして、これが完成しました。
次はエンクロージャー改良します。
エンクロージャーの改良
エンクロージャーの改良は、塗装と吸音材を変更する程度です。
塗装は、前述のようにナチュラルミルクペイント ナチュラルベージュで行いましたが、ファンデーションみたいな色で有機的すぎる感じがしたので、少し色味を変えました。タミヤアクリルのクリアブルーを少量混ぜ、無彩色に近い方向に持って行きました。
塗装の際は、角をカンナで面取りした程度で、やすりがけ等はしていません。テキトー工作です。しかし、特にカンナがけしたところがボサボサになって塗装後も目立ってしまうので、多少はやすりがけした方がよいと思います。
塗装後がこちら。JBL 4311みたいな色になりました。
次は吸音材です。
吸音材は、改良前に使っていたろ過ウールも使いますが、それに加えてキッチンスポンジも使ってみます。スポンジ(ウレタンフォーム)は自作界隈ではあまり人気がなさそうですが、イギリスの古いスピーカーなどに使われている由緒正しき吸音材です。さらにこのキッチンスポンジは、少し硬めの部分も付いており、2種の吸音材が付いた便利なシロモノです(たぶん)。
まずはスポンジを詰めます。開口部が小さいので、なかなか難しい。しかも箱の内部よりスポンジがやや長いので、折り曲げなければ入りません。
ともあれ、頑張って背面と側面の片側に入れてみました。
あまりのスペースにろ過ウールを詰めます。改良前よりさらに半分の大きさにして、全量の1/8ほどにします。これでも結構ギチギチになると思います。
最後に、ユニットをはんだ付けし、ネジで留めたら完成です。
自作感は強く残っていますが、ダイソーのみの材料で作ったとは思われないでしょう。テキトー工作にしては悪くない見た目と思います。
ギャラリー
白背景の写真を撮ったので、載せておきます。白いものを白背景で撮るのもイマイチですが。
前面。改造したユニットが良い味を出しています。
エンクロージャーは丸みをつけたりしようかとも考えたのですが、この色を調合したとき、JBL 4311のことが頭から離れなくなったので、四角基調を維持することにしました。
背面。ネジで作ったターミナルがあります。プラスを表す赤い色は、マッキーの赤で塗りました。
ターミナルの拡大図です。ナットを手で持ってケーブルを締めるので、使いやすくはありません。ダイソーだけで部品を調達することにこだわったので、こういう妥協は必要です。
しかし、自作スピーカーのエンクロージャーに取り付ける専用のターミナルは高価なので、ネジ等で代用するのは十分にアリではないかとも考えています。
音について
音についてのインプレッションです。自分で作ったものの音をくどくどとレビューするのも変な感じなので、大雑把にいきます。
まず、当サイト式の図ではこのように感じました。これは聴感上のものです。この図の詳細はこちら。
いわゆる重低音はもちろん無理がありますが、それ以外はうまくまとまった音になりました。やや刺さる気配もありますが、ほぼフラットにできました。
フルレンジらしく、ボーカルが抜群なスピーカーになっていると思います。
定位はフルレンジ1発なので当然良く、ビシッと中央が決まります。また、スピーカーの間からやや前くらいに定位し、出しゃばらないタイプです。
音場は狭めですが、ひどく狭いとは感じません。定位の関係か、前後方向に大きめの音場感と思います。
…とまあ、こんな具合で、なかなかうまくいった感覚を得ています。当初の目標の、高域と低域の改善は十分に達成できました。ダイソーだけで材料を調達し、材料費2000円未満で作ったとは思えない音には仕上がったと思います。
総括
ダイソーの材料だけで、比較的まともなスピーカーを作りました。
ダイソーだけでも意外と遊べるものです。これはハマってしまいそうな予感もあります。他の100円ショップでもスピーカーやその他の材料を置いているので、100円ショップシリーズをやる可能性もあります。
筆者が作ったものは、デスクトップの小型スピーカーとして十分実用できるものになったと思います。エンクロージャーの工作も比較的簡単ですし、ぜひ作ってみてほしいところです。
しかし、今回の工作にはまだ未練があります。できることをやり尽くしていないというか、全力を出し切った感じがしません。そのうち続編の記事が更新されるかもしれません。
本記事の内容は以上です。
COMMENTS コメント
スピーカーの改造までは思いつきませんでした。
素晴らしい!!
壊してしまいそうで、試すのははばかれますが、いつかは私も試してみたいと思います。
自分も、ダイソー商品改造を考えています。
スピーカー改造は、とても参考になりました。なんせ300円で買えますからね!
試してみようと思います。