デンオンのSC-700 Granadaの修理およびレビューです。
デンオンのヨーロピアンテイストのスピーカー。1989年発売です。今までの原音再生的なスピーカーとは違うとアピールされています(ヨーロッパのスピーカーが原音再生を目指していないわけではないでしょうが…)。それゆえか、デンオンらしからぬ独特でキレイ系の外観をまとっています。
思い入れがあるのか気合が入ったモデルなのかはわかりませんが、公式のDENON Museumに掲載されており、当時の宣伝のようなものも見られます。
実際に使用した感想は、たしかにヨーロピアンな雰囲気を感じるが、日本のスピーカーらしさ、ないしはデンオンらしさは全く抜けていないな、という感じです。
※ 本記事で言及されるスペック等の情報については、オーディオの足跡様の当該ページか、公式サイトのDENON Museum内当該ページに準拠しています。
修理
修理の内容について記述しています。
ウーファー修理
ウーファーのゴムエッジが割れていたので、自作エッジに張り替えました。当時の写真はありませんが、よくある感じで割れていました。
詳細はこちら。これはエッジ自作や張り替えの指南記事ですが、このウーファーを見本に張り替えています。
修理したウーファーはこんな感じ。上の記事のサムネイルと同じ画像ですが。
その他
その他の部分も入念に確認しましたが、問題は全くありませんでした。
ツイーターはもちろん、ネットワークの電解コンデンサやエンクロージャーに至るまで、何の問題もありません。強いて言えば、外側の突板もどきのビニールの端が浮いてきているところもありましたが、ほんの少しなので問題のうちに入りません。
修理 総括
ウーファーのエッジを張り替えただけです。他になにもしようがありません。エンクロージャーもキレイですし、なかなか良いものを手に入れました。
外観・仕上げ等
外観や仕上げに関するレビューです。
全体
箱型のスピーカーでは、これ以上ないほどに個性的な外観です。バッフル面に貼ってあるコルクがその原因です。
ネットをつけない状態では、スピーカー名のみが記されている銘板しかありません。デンオンらしくないお上品な感じなので、あえて隠そうとしたのかもしれません。
反対に、ネットをつけると普通の見た目になり、メーカーロゴが現れます。奇抜なものを好まない人にも配慮されているのかもしれません。国内メーカーなので、さすがに日本人の心意気をよくわかっているようです。
ユニット外周部は茶色がかったグレーで、全体の雰囲気を統一させています。金に光るリング状の装飾もよい雰囲気です。
ウーファーは18cmで、余裕をもった大きさのエンクロージャーですので、ウーファー口径の割にはかなり大きめです。22cm程度のウーファーが付いている3ウェイスピーカー(80年代に片側3~4万円だったもの)と同じくらいの大きさがあります。
仕上げ
全体的に突板風のプラスチックが貼ってあります。バッフル上面の一部のみ、無垢材のウォールナットらしい。バッフルは前述のようにコルク貼りです。
銘板は本体に付いているもの、ネットに付いているメーカーロゴ共に金属製です。
ツイーターのフレームはプラスチックですが、ウーファーの枠は金属です。
90年代目前の発売ですが、あまり安っぽくはありません。あるいはバブルの賜物である可能性もあります。ツイーターのフレームがプラなのは音の関係と思います。
背面
背面まで突板風味で仕上げされています。また、ターミナルとバスレフポートがあります。
ターミナルはバイワイヤリング対応。しかしこれ、筆者が使ったことのあるターミナルではダントツで最悪の使用感です。どうにも筆者が使っているベルデン8460と相性が悪い。もっと芯線が柔らかい普通のVFFタイプのケーブルであれば、そこまで問題にはならないかもしれません。
バスレフポートは浅め。しかもウーファーの真後ろにあるので、中音域がダダ漏れなタイプです。
外観 総評
デンオンらしからぬキレイ系のデザインですが、地味な日本のスピーカーを見慣れている人には奇抜に見えるかもしれません。
仕上げが意外に重厚なので、それらしい感じが潜んでいる部分もあります。
音について
音についてのレビューです。
概要
音は見た目に違わずキレイな感じで、ほんの少し中域が張り出す感じです。ネットワークの関係か(後述)、コクがありスッキリした感じもあります。
次の図は、このスピーカーの音を感覚的に示したものです。
この図についての詳細はこちら。
以下は詳細な説明です。
周波数的な特徴
低音域
低域はエンクロージャーの大きさの割に控えめですが、全体のキレイな雰囲気と相まって、絶妙なチューニングと思います。
バスレフらしいボフボフ感も控えめ。バスレフとしてはスッキリしている低音です。
中高音域
中域はやや張り出しており、くっきりしていてコクがあります。しかしそれでいて、響きが強く、少し騒がしい雰囲気もあります。
この響きのようなものは、バスレフポートから漏れる中域ではないかと思われます。低域はスッキリして良いのですが、中域にしわ寄せが来ているかもしれません。これにより、ボーカルの口元がやや拡大されている感じです。
中域で最大の問題は、バスレフポートの位置が左右対称でないことです。このスピーカーは全く同じものが2つセットになっているものですが、上記の背面画像からわかる通り、バスレフポートが偏った位置に取り付けられています。これにより、背面のバスレフポートから漏れる中域の具合が左右のスピーカーで異なり、中心からずれた位置に定位してしまうことがあります。
これを回避するには、ポートをふさぐか、スピーカーの後ろにかなり大きく空間を空けるか、もしくはスピーカー後ろの空間に吸音材のようなものを大量に置き、かなりデッドな状態にする必要があると思います。
高域は爽やかかつ甘い感じです。まさに絶品といった感じでしょうか。ハードドームツイーターですが、それらしい刺さり感は控えめ。
このツイーターはアピールポイントの1つだったようです。アルミダイヤフラムに炭化ホウ素をコーティング(溶射)したものと思われますが、まさに材料からのチューニングが効いているように感じられます。普通のハードドームやソフトドームにはない、やや鋭さを帯びつつも甘い音です。
その他
高域のレベルを変えられるアッテネーター等はついていないので、細かい調整はできません。一般的には、高域が強めに感じられるかもしれません。
音場感・定位感
音場は広い。スピーカーよりひと周り以上広がる感じです。
定位は悪くはないのですが、ピッタリ決まる感じでもなく、やや口元が大きい。これは前述のバスレフポートから漏れる中域に起因するかもしれません。
センターは左右のスピーカー間くらいに定位します。前にしゃしゃり出るタイプではありません。
音について 総評
音はスピーカーの外観通りのキレイな感じですが、やはり中域の響き感のようなものが惜しい。これさえなければ、ボーカル超くっきりで定位も抜群なスピーカーになった可能性もあります。しかしメーカー側がこのような部分を見逃すことはないと思うので、意図的である可能性が高いと思っています。
キレイなのはヨーロピアンテイストを感じますが、なにか奥底に確実なデンオンが潜んでいる感覚があります。それの理由は、無理に出そうとせずに質を高めようとする低音の関係なのか、あるいは張り出しぎみの中域なのかは定かではありませんが、確かな無骨感をどこかから感じます。
そもそもこのスピーカーは、今までの原音再生的なスピーカーとは違うとアピールされていますし、部屋のどこにいても音楽を楽しめるように、とも宣伝されているようでした。つまり、あえて定位感を犠牲にしつつ中域を強調する方向にすることで、高級なBGM用スピーカーを作りたかったのかもしれません。
ユニット・ネットワークなど
ユニットやエンクロージャー、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。
ユニット
ウーファー
18cmコーンウーファーです。公称インピーダンスは6Ω。防磁型です。
コーンはプラ系でストレート形状です。カーボン強化のラジアル成形コーンで、ダイヤトーンでも使われた材質です。
センターキャップは布にダンプ材を塗ったもの。2ウェイ用ウーファーではごく一般的です。
エッジは元はゴムでしたが、自作のものに張り替えてあります。自作エッジはゴムらしい硬さにチューニングしてあります。見ての通りキレイに張れましたが、これは筆者の修理歴の中でも自信作です。
フレームはスチールですが、枠はアルミかなにかのダイキャストです。なぜか本体のネジ穴を使用せず、枠のネジ穴のみで留めるという不可解な仕様になっています。
磁気回路部は大きく見えますが、防磁型なので磁石本体はもうひと周り小さいはずです。ネオジム磁石を使用したとも宣伝されていたようですが、これはポールピース部にちょこんと付けてあるだけで、メインの磁石はフェライトと思います(少なくともツイーターはそうなっていました)。磁気回路のポールピースに、反発する向きで磁石を取り付けると、ギャップ部の磁束密度をかなり上げられます。
ダンパー、コーン共に空気抜き用の穴が開いています。
ツイーター
2.5cmハードドームツイーターです。公称インピーダンスは6Ω。やはり防磁型です。
ダイヤフラムはアルミの上に炭化ホウ素を溶射しコーティングしたものと思われます。公式は「ニューアルファボロン」と名付けたようですが、おそらく炭化ホウ素のことです。これはセラミックの仲間なので、非常に硬い材料です。中身のダイヤフラムに触れてみましたが、やはり非常に硬いものでした。
実際のダイヤフラムはガサガサした質感です。紙ヤスリが最も近い質感と思います。
フレームはプラスチックです。ダイキャストフレームなどにすると、いよいよキンキンのサウンドになりそうですので、これが最適解と思います。ツイーターはフレームの材質が音に影響しやすいと思います。
磁気回路部は大きくありませんが、やはりネオジム磁石を使用しているので、強力な磁気回路にはなっていると思います。
エンクロージャー
エンクロージャーはパーティクルボードです。
ユニットを固定するネジは全て木ネジで、ナットはインサートされていません。
角補強はほとんどありませんが、要所が補強してあります。次の画像で確認できるように、最も振動するであろう背面は補強があります。
内部は吸音材が多めで、ウーファーとツイーターを仕切るようにも取り付けられています。基本的にはウールが使われているようです。以下の写真のようになっています。
また、天面にはスポンジ状の吸音材も使用されています。スポンジ吸音材はイギリスのスピーカーで良く見られるので、このような面でもヨーロピアンテイストを目指したのかもしれません。
バスレフポートは、ブチルのようなもので制震してあるように見えます。それにしても短いポートです。
また、メーカー製にしては珍しく、角を45°に切り取って組み立てた箱ではなく、自作のように組んで箱型にしてあります。
全体的に、エンクロージャーはこだわっているように見えます。ユニット口径等のスペックの割には新品価格でペア9万円ですから、いろいろなところにこだわることができたのでしょう。
ネットワーク
ネットワークの詳細です。
回路基板
見出しは「回路基板」ですが、基板を使わずに組んであるので、「実際の回路」くらいが適切です。
ネットワークは2つに分かれており、ツイーター側はターミナル裏、ウーファー側は底面に固定されています。
ネットワークの結線には一切はんだを使用せず、カシメになっています。
ツイーター側。ターミナルの裏にダイナミックに接着されています。コンデンサは基本的にフィルムというこだわりよう。電解も使われていますが、エルナーのシルミックです。
ウーファー側はこう。
なにやらコンデンサは5つも付いていますが、これ、全て並列に接続されています。気持ち悪いくらいの凝りようです。並列にすればするほど良いというものでもないでしょうに…
そして、電解はやはりシルミックです。
このウーファー側の土台は、バッフルからウーファー用の穴を開けた時に出る副産物です。裏にコルクがそのまま残っています。コルクが振動を吸収するので、ちょうどよいと思ったのかもしれません。
回路図
このネットワークの回路図です。ただし、バイワイヤリング用端子のことは反映されていません。また、ウーファー側フィルムコンデンサの容量は不明なので、予想の値です。
ごく普通の18dB/octのネットワークです。ツイーターは逆相。
やはり、コンデンサの使い方が気持ち悪いほどです。
ウーファー側は全部合わせて17.5uF程度だったので、フィルムコンデンサの大きさを考慮してこの値に予想しましたが、2.2uFは1uFくらいかもしれません。
ボード線図
このネットワークの周波数応答のシミュレーション結果です。ただし、ユニットは公称インピーダンスの値の抵抗としており、インダクタンス成分は無視しています。また、ウーファーはWF、ツイーターはTWと表記しています。
ウーファー側はカットオフ付近で盛り上がり、ツイーター側はゆるやかに下がっています。しかし、こうした微妙な盛り上がり等は、ユニットとの相性などの要因により、意図的に設定されていたりします。この場合だと、2kHzが盛り上がって3~10kHzが弱く感じるということはありません。
総評
キレイ系の外観で、それらしい音を出すスピーカーです。
音は惜しい部分もありますが、当初の宣伝のようにカジュアルなスピーカーだと考えると、十分に良い音が出ています。作業時に比較的小音量で鳴らすなどの用途であれば、光るものがあります。軽く聴いて、ふっと耳に入る時に、いい音だなと思える音です。
各所のこだわりようや、バイワイヤリング対応など、メイン用としても適正があるように思えるのですが、使いこなしが難しいかもしれません。
本記事の内容は以上です。
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