スピーカー

DENON SC-R55の修理・レビュー

デンオン SC-R55の修理とレビューです。

やはり行きつけのハードオフでサルベージしました。当然ジャンク品で、特にジャンクの理由は書いてありませんでしたが、税抜き2000円でした。片方のスコーカーのネジが外れかかっており、怪しい雰囲気はしましたが、とりあえず買い付けてきました。

80年代の3万から4万円程度(1本あたり)の3ウェイスピーカー。いわゆる”ゴーキュッパ”スピーカーが全盛の時代ですが、あからさまにそれの下位モデルで、それでは大きすぎる、あるいは予算オーバーという人のために、この程度のものが設定されているように思います。
また、このSC-R55は、SC-Rシリーズのミドルクラス程度のもののようです。エンクロージャーに石のようなものを入れてみたり、ウーファーを背面からも固定するなど、凝っているが凝り方の方向が独特なシリーズです。

音については、まさに思い描くデンオンという感じで、非常に無骨あるいはソリッドな音です。

※ 本記事で言及されるスペック等の情報は、オーディオの足跡様の当該ページに準拠しています。

修理

修理について記述しています。

状態の把握

まずは状態を確認します。

外側から確認できることは、ウーファーのエッジが硬化している程度です。ウーファーのエッジはダイヤトーンに似たもので、布にダンプ剤を塗ったものです。他はエンクロージャーの突板もどきが剥がれかかっているところもありますが、そこまで顕著に問題があるようには見えません。

軽く音出し確認してみると、たまにボーカルの一部帯域が左右にふらつきます。片方のスコーカーが断線しており、そのときの具合によって音が出たり出なかったりしているようです。

そういうわけで、ウーファーのエッジ軟化とスコーカーの断線修理を行います。

分解

このスピーカーはウーファーが独特の構造で固定されているので、分解にコツがいります。

具体的には、ウーファーが背面からもボルトで固定されています。それを外さなければ、ウーファー本体を外すことは叶いません。

まず、背面の円いプラスチック部品のシールを剥がし、その中のネジを外すと、部品が外れます。その状態が次の写真です。

円い部品を外したところ

この白いものはボルトの頭なので、反時計周りに回せば外れます。

ボルトを外したところ

これでウーファーの尻部分が開放されたので、通常通り外すことができるようになりました。ちなみに、このボルトは「スーパーボルト」という名前が付いているようですが(このウーファーを後方からも固定する方式を”スーパーバスマウント”と名付けたことに由来しそうです)、何でも名前を付ければよいというものでもないでしょう。

なお、他の部分の分解はごく普通ですので詳述はしません。

ウーファーエッジ軟化

ウーファーのエッジを軟化させます。次の記事と同じ要領で行いました。

硬化したエッジの軟化方法 | ダイヤトーンや劣化し始めているゴムエッジなどに
ダイヤトーンに代表される経年劣化で硬化したエッジを軟化させる方法を解説しています。劣化し始めて柔軟性を失いつつあるゴムエッジも同じ方法で軟化できます。やり方は簡単。シンナーに溶かしたゴム系接着剤を薄く塗布するだけです。

この際、次のようにシワが寄ってしまいました。エッジの張り方が悪いと、軟化させたときのこのようにシワが寄ります。

エッジにシワが寄る

エッジを接着する際、変な方向に力がかかってしまったのでしょう。これでは見た目が悪いので、外側だけ剥がして、貼り直します。

シンナーを使えば、エッジとその外側のプラスチックリングが簡単に剥がせました。

貼り直したのがこちら。

エッジ張り直し後

シワだった部分はクセになっているので、簡単には戻りません。しばらくすれば目立たなくなすはずです…と思いながらこの写真を撮りましたが、その後しばらく経った現在、ほとんど目立たない状態になりました。

ウーファー修理は以上。次はスコーカーです。

スコーカー断線修理

スコーカーの断線を修理します。

まずはセンターキャップを外します。シンナーで接着剤を溶かして剥がしました。コーンは耐薬品性がある程度高いもののようです。

センターキャップを外していろいろやっていると、どうやらコーンに添わせて接着剤で固定している部分で断線しているようですので、これ以上分解する必要はなさそうです。

その部分を修理し、接着剤で固定しました。元は黒い接着剤でしたが、似たものがなかったので、いつも使っているスーパーXを使いました。見た目は微妙ですが、どうせ金網で隠れるので、そこまで目立たないでしょう。

スコーカー 修理後

この修理は本記事を執筆するだいぶ前に行ったものなので、まだあまり上手くはありません。今同じ修理をすれば、もっと上手く接着剤を塗れると思います。

修理はこれで終了。あとは修理したユニットを組み付ければ音を鳴らせます。

修理 総括

SC-R55のウーファーとスコーカーを修理しました。

ウーファーはエッジを軟化させるだけならよかったのですが、外側を貼り直すことになったので、意外に手間がかかった印象です。

スコーカーは断線修理なので、細かい作業で面倒でした。はんだごてを使うにも、コーンを焼かないように気をつける必要もありますからね。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

全体

全体

全体。80年代の3ウェイのデザインです。この頃のスピーカーはどこもほぼ同じデザインですが、何かメーカー間で取り決めでもあったのかと疑いたくなります。

ウーファーはカーボンコーンです。カーボンパターンは個人的にはあまり好きではありません。

色合いは渋くて良い。ウォールナットのオイル仕上げ風味でしょうか。

仕上げ

エンクロージャーは突板もどきの木目調プラスチックシートです。

ユニットはウーファーのみアルミダイキャスト。他もダイキャストに見えますがハリボテで、アルミのシートを貼ったプラスチックです。

背面

背面

背面。ターミナルとバスレフポート、およびスーパーボルトの頭を隠す部品があります。

ターミナルにはスペック等が書いていませんが、前オーナーがシールを剥がしたものと思われます。また、ターミナルはプッシュ式ですがスライド式で、JBL Control 1に似たものです。

スーパーボルトの頭を隠す部品は、何かドヤ顔でDENONと書いてあり、説明と思しき内容がチマチマと書いてあります。スーパーバスマウントなど、こういうバカなことができるのは、スピーカーが売れていた証拠でしょう。

ハリボテ

ハリボテの証拠をお見せしましょう。これを外すと…

スコーカー付近

こうです。

スコーカーのガワを外したところ

潔いまでのハリボテです。

ツイーターもほぼ同様にハリボテですが、このように分割式でなく、フレームに直接アルミ板が貼り付けてあります。詳細は後述

外観 総評

没個性的なデザインのスピーカーです。80年代の闇のデザイン。

ツイーターとスコーカーのハリボテがやや気になるところではありますが、外から見れば気づきにくいので、悪くはないと思います。

ウォールナット風味(?)のエンクロージャーは渋くてキマっています。

音について

音についてのレビューです。

概要

音はソリッドな質感で、やや中域が張り出す弱カマボコ型という感じ。

次の図は、このスピーカーの音を感覚的に示したものです。

DENON SC-R55 音の傾向

この図についての詳細はこちら。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

以下は詳細な説明です。

周波数的な特徴

低音域

低域は、このスピーカーで最も注目すべきところでしょう。バスレフ型ながら非常に固く締まった低音で、密閉型のような質感です。そのせいかやや少なめではありますが、少なすぎて不満に思うことはない程度と思います。

この締まっている感覚は独特で、ユニットからのみ音が出ているように感じ、エンクロージャーの側面等から低音が放出されているように感じられません。

つまりこの低音は、こだわりのエンクロージャー構造や、スーパーバスマウントに起因している可能性があります。エンクロージャーの内側上面には石のようなもの(公式にはポーラスセラミックスと呼んでいたようです、ポーラスコンクリートのこと?)が配され、天面は非常に強固です。また、スーパーバスマウントによって背面が締め付けられ、これまた強固な構造となっています。これだけエンクロージャーを強化していれば、箱鳴りが少なく、バスレフでも締まった低音が出せる可能性もあります。
これは逆に考えると、バスレフのダルい低音は箱鳴りが原因の可能性もあります。バスレフ型はエンクロージャーをヘルムホルツ共鳴器として使う方式で、増強したい周波数を共鳴(共振)させます。一般的に、共振という現象は非常に強く作用するため、エンクロージャーの板を鳴らす程度なら造作もないとも考えられます。

中高音域

中域はやや張り出します。少しうるさめの中域ですが、適度な柔らかさのようなものも感じられます。

高域はキレイに伸び、爽やかです。高域の残響音などは、非常に気持ちよく感じられます。ツイーターはクロスオーバーが高く、スーパーツイーターのような使い方ですが、それがうまく効いている感じがあります。

音場感・定位感

音場は広め。スピーカーよりひと周り大きいくらいに広がります。

定位も良い。音像はバッフル面の延長線上くらいに定位し、口元も広がりすぎません。

音について 総評

特に低域の締まりを評価できるスピーカーです。これが”ソリッドな音”の主な原因でしょう。これはダブつくくらいなら無理に出そうとしないということでもあり、そういう考えが無骨な雰囲気として出ていると考えられます。

しかし低音ばかりでなく、中高域も比較的地味ながら良い質感を持っています。侮れないスピーカーです。

ユニット・ネットワークなど

ユニットやエンクロージャ、ネットワークなどを紹介しています。ネットワークは回路構成・部品の定数・ボード線図など詳細もあります。

ユニット

ウーファー

ウーファー

22cmコーン型ウーファー。公称インピーダンスは6Ωです。

コーンはカーボンですが、一般に想像されるCFRPのように硬いものではありません。繊維を織ったものに染み込ませるプラスチックを柔らかいものにしているようです。
センターキャップは硬いプラスチックです。
エッジは布にダンプ剤を塗ったもの。ダイヤトーンと違い、裏にもびっしりとダンプ剤が付いていたりはしません。

フレームはアルミダイキャストです。80年代らしい豪華さ。このフレーム、形状がダイヤトーンに似ていますが、補強が甘めなので、ダイヤトーンそのものではないと思います。

磁気回路部はやや小さめに見えますが、こんなものでしょう。特に防磁型の場合は、磁石をもう1つ付けるコストの関係なのか、メインの磁石が小さめなものが多い。

ミッドレンジ(スコーカー)

ミッドレンジ(スコーカー)

8cmコーン型ミッドレンジ。ラベルが切り取られていて詳細はわかりませんが、インピーダンスは8Ω程度です。

コーンはプラ系。カーボン入りのようです。センターキャップもプラで、金属が蒸着されているように見えます。
エッジは布の目止め仕上げ。

フレームは鉄です。安いフルレンジユニットのようなフレームです。

磁気回路は大きめ。全体的に、本当にフルレンジユニットみたいな外観をしています。

ツイーター

ツイーター

1.6cmハードドーム(?)ツイーター。公称インピーダンスは4Ωです。

振動板は金属に見えなくもないのですが、プラスチックに金属コーティングをしてあるようにも見えます。

フレームはプラで、表に見える部分はアルミ板が貼ってあります。エンクロージャーに組み付けてある状態では、アルミダイキャストのように見えます。

磁気回路は小さい。オマケのようなツイーターですが、ピエゾ式でないだけマシです。

エンクロージャ

エンクロージャーは全てパーティクルボードです。ネジは全て木ネジ。

細かい部分はこだわっていることがわかります。まずは内部の下面。

内部 下面

スーパーバスマウント用の補強板が付いており、吸音材も配されています。このスピーカー、バスレフ型にしては吸音材が多めで、6面全てに吸音材があります。

次は内部の上の方です。

内部 上方

スコーカー用のバックキャビティやネットワークがあります。

次は内部のツイーター付近です。

内部 ツイーター付近

ツイーター取付部の裏は板で塞がれ、ケーブル用の穴のみが開いています。これで低音がツイーターに伝わりにくく、変調歪みが小さくなったと主張していますが、果たして本当か。

ツイーターの上は天面で、ポーラスセラミックスなるものがあります。吸音材をよけて触ってみましたが、質感は石そのものでした。
このポーラスセラミックスのせいか、エンクロージャーは非常に重くなっています。

なお、このツイーターとスコーカーの取付部を表から見ると、このようになっています。

ツイーターとスコーカー取り付け部

ネットワーク

ネットワークの詳細です。

回路基板

実際の回路

ネットワークはターミナル裏に集約されています。3ウェイなので、少々無理がある感じもあります。

回路図

ネットワークの回路図が次の図です。

ネットワーク回路図

全体的に12dB/octでカットしていますが、ミッドレンジ(スコーカー)はハイカットしていません。このスコーカーが超高域が出にくく、カットしなくてもうまくつながったということなのでしょう。

ボード線図

このネットワーク回路の周波数特性です。ただし、スピーカーは抵抗に置き換えており、インダクタンス成分を考慮していません。また、図中の凡例ではウーファーをWF、ミッドレンジ(スコーカー)をMID、ツイーターをTWと表記しています。

ボード線図

3ウェイにしてはウーファーを高域まで使っています。実質的には、2ウェイにスーパーツイーターを付けたような構成になっているようです。

総評

没個性的な外観で、ソリッドな音を出すスピーカーです。

オーディオが盛んだった頃の、「思いついたことは全部やる」みたいな面白い工夫がなされたもので、そういう意味では日本のオーディオ史を物語るサンプルとして所持する価値があるかもしれません。また、その工夫は一定の効果を挙げており、着眼点は良かったとも考えています。現代のスピーカーにこのようなおもしろ技術が使われないのは、スピーカーがただのツールと化し、趣味性が損なわれた証左かもしれません。

本記事の内容は以上です。

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