ヘッドホン

AKG K712 PROのレビュー:完成度は高いが…?

AKG K712 PROのレビューです。

K700シリーズの最上位モデル。最上位ですが価格がほどほどなので、ちょっと良いヘッドホンを買おうとして、これを検討することも多いと思います。そういう方にもオススメできるヘッドホンです。

全体的な完成度は高く、シリーズの末端モデルらしい熟成されたモデルで、無難さが強くなっています。

外観・仕上げ等

全体

全体図

つや消し黒をベースにオレンジの差し色が入ったデザインです。
JBLやヴェイロン・スーパースポーツ(これは車ですが)といった高名なものにも採用されているカラーリングですので、ハイパフォーマンス感をアピールするにはピッタリでしょう。
オレンジの部分は薄めの色です。

イヤーパッドはベロア調の表面で、内部は低反発のスポンジが使用されています。

側面

側面から

側面。他のK700シリーズでは光沢仕上げでしたが、K712では全体的につや消しです。塗装が違うか、専用の部品が使われているかのどちらかでしょう。とにかく、気合の入ったモデルである感じがします。

中心の部品はモデル名が一体で成形されているので、明らかに新規設計ですね。AKGでここまで大きくモデル名を入れるのは珍しい気がします。
写真上部のAKGのロゴマークも新規でしょう。同シリーズの他のモデルではロゴが印刷でしたが、K712では盛り上がったロゴが成形されています。

モデル名やロゴが凸に成形されているのは、本格的なプロユースを意識しているのかもしれません。そのようにハードな使い方をすると、印刷ではそのうち消えてしまいますが(事実、数年間使っているこの個体もハゲてきています)、このように文字をなどを凸にしておけば、よほどのことがない限りは消えないでしょう。

上面

上面から

ヘッドバンド。AKGにしては細く、柔軟性が高いものです。ロゴはエンボス加工。レザーマークがあるので本革でしょう(少なくとも、表面は本皮に見えます)。オレンジのステッチも決まっています。

伸縮機構は相変わらずです。ヘアゴムのようなものでテンションがかかり、装着するときに自動で大きさが調整されるようになっています。ヘッドホンスタンドなどに掛ける場合は、ヘッドバンドに負担がかからないようにしましょう。さもなくば、このゴムがビロビロにへたります。ヨドバシなどの展示機でその様子が見られます。

バッフル面

イヤーパッドを外したところ
スポンジも外したところ

イヤーパッドを外すとこうなっています。イヤーパッドは反時計回りに回転させて外します。

開口部を一部ふさぐようにスポンジが取付けられます。主に低音のコントロール用でしょう。

ドライバーはいつものAKG式の乳白色というか、やや緑がかった半透明のもので、しっとりとした質感です(筆者は触ってみましたが、基本的に触らない方がよいと思います)。普通のヘッドホンのドライバーはPET薄膜(デュポンの商標ではマイラー)を成形してあるもので、カサカサとした質感・無色透明です。

外観 総評

艶消し黒とオレンジのカラーに線の細いデザインは、飛び抜けているほどではありませんが、優雅でスタイリッシュです。外形自体はK701の頃からほぼ同じですが、ヘッドバンドが細く、柔らかくなっています。

部品の仕上げなどが、他のK700シリーズより少し丁寧な印象があります。伝説的な名機K701から始まったK700シリーズの最高級モデルですから、それなりの力を込めて開発されたのでしょう。

付属品など

付属品のケーブル2種と変換アダプタ

付属品は次の4つです。

  • 3mストレートケーブル
  • 3mカールケーブル
  • ステレオミニ-標準プラグ変換アダプタ
  • キャリングポーチ(画像には写っていません)

順に説明します。

3mストレートケーブル

3mのケーブルです。少し細めでしなやか。
K240などの下位モデルに付属しているものと同じで、色だけが専用のオレンジになっているものだと思います。触り心地などが全く同じです。

画像のものはミニXLRプラグを交換してあります。元のプラグはちょっとした手違いで壊してしまいました(この破損は筆者の責任です。ケーブルやプラグの耐久性に問題はありません)。交換したプラグはREANなので、変な音はしないでしょう。

3mカールケーブル

伸ばすと3mくらいまで伸びるカールケーブルです。実際にそこまで伸ばすとすごい力で引っ張られるので、ほどほどの長さで使うのがよさそうです。

ケーブルが重く首に負担がかかるので、基本的にはストレートケーブルを使うことが推奨されます。

ストレートケーブルよりも音が少し低音寄りになります。カール形状によるコイルの作用でハイカットされ、低音寄りになっている可能性もあります(テキトーな予想ですが)。

ステレオミニ-標準プラグ変換アダプタ

ステレオミニプラグを標準のTRSフォーンプラグに変換するアダプタ。
ネジ式で、ジャック側にアダプタが残る現象がありません。

キャリングポーチ

持ち運び用のポーチ。色は黒。
ベロア調で柔らかく上品なものですが、ゴミが付きやすいという難点があります。

かなり大きさにゆとりがあり、ヘッドホン本体と付属品全てを入れてなお、ダブダブに余ります。
合皮のポーチのような防御力もないので、なかなか微妙なシロモノです。

大抵の方にはどうでもいい情報ですが、写真写りが悪い。テキトーに写真を撮るとブラックホールみたいになります。その関係で上に写真がありません。

音について

概要

音については、全体的にフラット系ですが、ほんの少しだけ低音が盛られており、中高域はきれいな雰囲気があります。いわゆる美音系です。

よくまとまった音で完成度は高いと言えそうですが、無難であるともいえます。

詳細は次の図と以下の説明から。
図の左側の周波数特性らしきものは聴感上のものであって、測定したわけではありません。

AKG K712 PROの音の傾向

この図の詳細は次の記事から。

Plastic Audio式の図の説明
本サイトにおける、スピーカーやヘッドホンの音の傾向を可視化した図の説明です。

周波数的な特徴

低音域

低音域は、上記の通りほんの少し盛られていますが(筆者はそう感じました)、多いと感じるほどではないと思います。大抵の人にとっては、決して多くはないが必要十分と思うくらいの鳴りでしょう。

少しゆるさを感じることもありますが、比べなければ気にならないと思います。
少なくとも、これの下位モデルのK612 PROよりは少しゆるく感じます。K612はインピーダンスが高いので、締まったような音になる必然性があります(そのかわり音量が凶悪なほど小さいのですが)。

著しく低音が少ない場合はアンプのパワーが足りていないので、アンプの購入を検討しましょう。

中高音域

中音域は実にナチュラルです。この中音域がきれいな雰囲気を支えている感じです。

中音域と高音域の中間くらいの、2k~5kHzくらいの領域は、露骨なほどに抑えられている感じです。これにより、サ行やシンバルといった刺さる音がほとんど刺さらないサウンドになっています。非常に快適な音ではありますが、これをつまらないと見るか、優秀と見るかは評価が別れそうです。

高音域はきれいな雰囲気です。モニター調のあっさりした音ではなく、特有の色気があります。これはK700シリーズのアイデンティティなのか、いろいろな方向で無難になったK712でも維持されている気がします。

音場感・定位感

音場は広めで、ヘッドホンより少しだけ外側に広がる感覚があります。

定位は耳と耳の間に直線状。バッフルに角度がついていないタイプなので、仕方がない部分ではあります。

音量・鳴らしやすさ

音量

音量は小さい。
どれくらい小さいのかを文章で表現できませんが、大抵のヘッドホンよりはかなり小さいと言えます。

大抵の機器では直挿しでも十分な音量がとれますが(鳴らしきれているかは別として)、携帯ゲーム機などの出力がしょぼすぎる機器では最大音量でも不満な場合があります。

鳴らしやすさ

やや鳴らしにくい。それなりに上流を選びますが、過度に敏感というほどではありません。
鳴らしきれていない場合、低音がスカスカになります。

スマートフォンなどに直挿しではまず鳴らしきれません。ポータブルオーディオ機器でもあまりよくない。据え置きでもDACに付属のヘッドホンアンプでは大抵ダメです。
つまり、据え置きの単体ヘッドホンアンプが必須に近い

当サイトでレビューした据え置き単体ヘッドホンアンプの一覧はこちら。

据え置き単体ヘッドホンアンプ
「据え置き単体ヘッドホンアンプ」の記事一覧です。

据え置きの単体ヘッドホンアンプであれば、安価なものでも鳴らしきっている感じが出てきます。要するに、このヘッドホンを鳴らすのに重要な点はパワーです。ヘッドホン自体がナチュラル系なので、ヘッドホンアンプの素性が出やすいところはあります。

音について 総評

全体的には、中高域がきれいな美音系で、刺さりもほとんどない快適な音です。

K700シリーズの集大成であるためか、それらしい雰囲気をわずかに残しながら、無難にしていったという感じです。K701ではやや刺さり気味だとか低音が少ないと言われていましたが、それを解消した感じでしょうか。しかし、K701のような圧倒的なシズル感はありません。しかも、完全にモニターに寄っているわけでもなく、どっちつかずな感じが否めません。改良で完成度は上がるけれども、「輝き」が失われる典型のように感じます。少し辛口ですが、これはマニアから見た意見であって、ヘッドホンをたくさん持っているからこそ、尖った特徴を良しとするようになってしまいます。

よほどのマニアでなければ、モニター感とAKG感をいいとこ取りしたものと肯定的に捉えられるでしょう。比較的無難なヘッドホンが欲しく、さらにAKG感も味わいたいのならば、このK712が最適でしょう。

装着感

装着感はかなり良いと思います。

イヤーパッド

イヤーパッドは見ての通り真円形で、内部には低反発スポンジが使われています。表面はベロア調です。

外側の直径は115mm、内側の直径は65mmです。深さは25mmあります。
かなりイヤーパッドが大きいといえるでしょう。耳が大きい人でも接触することなく装着できると思います。深さが少し浅めなので、耳が立っている人はバッフル面に耳が当たるかもしれません。

ヘッドバンド

ヘッドバンドはそれなりに柔らかく、適度に変形して頭頂部にフィットします。
しかしスポンジが入っているわけではないので、気になる人もいるかもしれません。どうしても頭頂部に違和感があるならば、スポンジのようなものを貼るのも手です。

側圧

側圧は弱めから適正くらい。強いと感じる人は非常に少ないでしょう。
ヘッドバンドの位置がゴムひもによって自動で決まるため、常に上に引っ張られるような力が作用していますが、その力に影響されるような感じはありません。絶妙なバランスと言っていいでしょう。

装着感 総評

装着感はかなり良いと言って問題ないでしょう。

特に良いと言えるのはイヤーパッドです。大きいので、ゆとりのある装着感がとても良い感じです。さらに、ベロア調の仕上げが蒸れを防いで快適なうえ、低反発のスポンジによって独特のフィット感がもたらされます。

装着感に関して、そこまで大きな問題は見当たらないので、この部分の完成度は高いと言えます。

携帯性

携帯性は皆無です。大抵のヘッドホンの中では、トップクラスに携帯しづらいと言っても過言ではありません。

持ち運びしやすさ

皆無。本体が大きいことに加えて、折りたたみなどは一切できません。
乱暴に扱うと壊れそうな構造も、持ち運びのしづらさの一助になっています。

持ち運びしづらいというところが、キャリングポーチの存在が微妙になってくる感じを助長しています。

外部遮音・音漏れ防止

外部遮音・音漏れ防止の両性能共に、皆無と言っていいでしょう。開放型なので当然ですが。
しかし、グラドよりはやや音漏れが少ない気がします。グラドを100とすると、K712では98くらいの違いです。

その他

故障しやすさ

K712のレビューを見ていると、「内部配線が外れて音が出なくなる」という故障の報告がそれなりにあります。そして残念なことに、筆者が所有する個体にも同様の故障が発生しました。故障しやすい構造であるのは事実のようです。

修理はそこまで難しくありませんが、はんだごてが必要です。

修理に関してはこちらの記事をご覧ください。

AKG K712 PROの分解・修理 (K612やK701にも対応)
AKG K712 PROのハウジング内の断線修理について解説しています。K700シリーズやK612でも同様の手順で修理できます。はんだごてが必要です。

総評

室内用ヘッドホンとしては、完成度が高いと言えるでしょう。
長寿シリーズの末端モデルなので、いろいろな方向で改善が見られます。

音に関しては比較的万人向けで、よさげなヘッドホンを1つ持っておきたい、というのであれば十分にオススメできます。しかし、鳴らしづらい面もあるので、据え置きヘッドホンアンプの導入を検討すべきでしょう。高価なものである必要はないと思います。

コストパフォーマンスが良いのかと聞かれると、悪くはないと答えますが、ずば抜けているとは言いづらい。これより安価なK612やK701はピーキーですが、輝く魅力があるものです。無難さに投資できるかによって、K712の価格への捉え方が変わってくるでしょう。

本記事の内容は以上です。

COMMENTS コメント

  1. 匿名 より:

    触った乳白色の部分はドライバーではなく高音域のためのフィルターではないですか?
    ドライバーは全体が透明ですよ。

    • モソス より:

      コメントありがとうございます。
      触ったものはドライバーで間違いないと思います。写真の通り、ドライバーは緑がかった微妙な色で、半透明といった感じです。筆者はこれを乳白色と表現しました。少なくとも、他のヘッドホンでよく見る無色透明ではないと思います。
      画像を改めて見てみると、周囲のフィルタがかなり白いので、「乳白色」と言うとそちらに着目してしまうかもしれません。表現を訂正します。