ティアック UD-301のレビューです。
ティアックのReferenceシリーズで最も安価なDAC&ヘッドホンアンプ。そのグレードの割にはバランス出力があり、トランス式電源が内蔵されているなど、妥協が感じられないモデルです。
DACとしては文句のつけようがないほど素晴らしいものですが、ヘッドホンアンプ部はイマイチです。
※すでに生産終了しているかもしれません(確信は持てませんが)。筆者オススメのDACなんですがね…
外観・仕上げ等
外観や仕上げについてのレビューです。
全体
全体。黒基調の筐体で、サイドパネルがアクセントになっています。ボタンやツマミといった操作部がシルバーでわかりやすい。
Referenceシリーズ恒例のサイドパネルが主張してくるデザインです。
仕上げ
メインのシャーシはスチールですが、外装はほとんどがアルミ製です。
アルミ部分については、黒部分はヘアライン仕上げのアルマイト、サイドパネルはサンドブラストのような仕上げで、グレーのアルマイトです。
全体のデザインは無骨ですが、色やテクスチャのコントラストが映え、緻密な雰囲気があります。
前面
前面。操作部と各種インジケータがあります。
各ボタンはプチプチタイプ。内部のタクトスイッチを押すものです。筐体が大きめで響くからか、実際の操作音は「カコッ」に近い感じ。
ボタンのガワやツマミはアルミ製で、特にツマミは重厚な感じです。ペラペラのアルミのガワをプラスチックに嵌めたもの(90年代以降に多い)ではありません。
ヘッドホンジャックは標準タイプ。このジャック、プラグがぬるっと挿入され、いまいち納得いかない感じです。普通の標準ジャックは、最後にガチンとロックされる感覚がありますが、これにはそれがない。ちょっと気持ち悪いフィーリングのジャックです。
光る部分は、全て青に光ります。先進的な雰囲気もありますが、オーディオ機器としてはオレンジなどの方がマイルドで良いと思わないでもない。しかし、やや白みのある空色に近い青ですので、これはこれで悪くありません。
印字はごく普通ですが、わずかにグレーがかっており、落ち着いた雰囲気です。メーカーロゴが印字なのも良い。メーカーロゴは高級モデルほど別部品の立体的なものが付いている印象ですが、個人的には印字の方がシンプルで好みです。
後面
後面。信号入出力端子と電源入力があります。
アナログ出力はアンバランス出力のRCAと、バランス出力のXLRに対応しています。XLRは2番ホットです。また、アナログ出力は、本体中央あたりのスイッチを操作することにより、固定出力・ボリューム連動・出力なしの3種類を選べます。
ちなみに、RCAが縦に並んでいて、下が右チャンネルになっていますが、これは昔からの伝統のようなものです。理由は知りませんが、縦に並べる場合は、必ず右チャンネルが下で左チャンネルが上と決まっています。少なくとも70年代のアンプでは、すでにこの配置が確立されています。
デジタル入力はUSB、同軸、光に対応。USB端子はBで、同軸はRCA、光は角型です。据え置き機器のコネクタとしてはごく標準的です。
デジタル入力の中にある「UPDATE」と書いてあるUSB A端子は、説明書ではメンテナンス用端子としており、通常はなにも接続するなと書いてあります。USBメモリかなにかに入れたデータからファームウェアアップデートなどをできるようにしてあるのかもしれません。尤も、そういったものが配布されたことはありませんが。
電源は角型のパソコンタイプ。オーディオ機器でも一般的で、高級なオーディオ用電源ケーブルも使えます。アースピンは内部で結線されていませんが、オーディオ機器は通常、大地アースから分離するように作ります。
上面
上面。ハイレゾ対応のロゴシールと放熱フィンがあります。
放熱部はあまり大きく空いているものではありませんが、放熱穴が開いているだけマシです。大抵のDACはそれなりに発熱しますが、対策しているものはほとんどありません。
このDACは発熱が多めで、夏場で天面が50℃近くになるのではないかと思います。十分に触れるが、長時間触れていたくはないくらいの温度です。
ハイレゾのロゴはあまり好きではありません。最近はどんなDACやアンプにも付いていますので、たいした価値がありません。そもそもハイレゾ音源はただのハイスペックな音源であって、ハイレゾと騒ぐほどのものではないと思っています。
底面
底面。シャーシがむき出しで、ここだけは強く鉄の質感です。
底面はアンプのように多くの放熱穴が開いています。
シリアルナンバーなどが表示されているシールがあります。「2017年製」と大きく書いてあるのが絶妙にダサい。その表示からわかるように、この個体は最近買ったものではありません。
足は前から見ると金属に見えますが、実際はプラ製です。
外観 総評
四角く無骨で、いかにもオーディオ機器というデザインですが、仕上げや色のコントラストが地味に映えます。写真と実物では印象が異なるタイプです。
アルミの外装を多用し、シャーシは鉄でがっしりしていますので、非常に硬質な雰囲気があります。値段を考えれば、これ以上ないくらいに素晴らしい外装です。
付属品
付属品についてのレビューです。付属品は以下の2つ。
- USBケーブル(末尾が-SPのモデルのみ)
- 電源ケーブル
順に説明します。
USBケーブル
サエクのオーディオ用USBケーブル SUS-380です。このセットの専用品などではなく、普通に市販されているものと同等です。普通に買えば税抜8400円もするらしい。
値段は立派ですが、このケーブル、一言で言えばダメです。このケーブルを使うと高音寄りなサウンドとなり、擬似的に解像度が高いように錯覚しますが、やがてキンキンのサウンドに耐えられなくなります。ヘッドホンならば高音域が少なめなものが多いので問題になりにくいのですが、スピーカーでは実用に堪えない感じです。
導体がPC-Triple Cで、かのPCOCCの後継みたいなものですが、こういったものを使っているケーブルなどで当たりを引いたことがありません。どうにも高音が強すぎて、音がおかしくなります。
これを使うくらいなら、プリンタに付属の普通のケーブルの方がよほどナチュラルな音が出ます。こういうところから、オーディオ歴が長くなるほど”オーディオ用なんちゃら”が嫌いになっていくわけです。
このケーブルはUD-301-SPのみ付属しています。かつてUD-301がUD-301-SPにマイナーチェンジし、前者はもう出荷されていないはずですので、普通にUD-301を買えばこのケーブルが付いてきます。
電源ケーブル
ごく普通の電源ケーブルです。ケーブル本体がVCTFK、2重絶縁構造なので、安全性が高い。
長さは1.8m程度。0.75mm2と細めで、定格電流は7Aと表示されていますので、パソコンなどの大電流を必要とする機器に流用しないようにしましょう。
音について
音についてのレビューです。ヘッドホンアンプとして使用した場合、および単体DACとして使用した場合について評価しています。
バランス出力については、当方ではバランス入力できる機器をほとんど所持していないため、評価できませんでした。
また、使用した音源はCD音源ですので、それよりハイスペックな音源やDSD再生については言及できません。
ヘッドホンアンプとして…
内蔵のヘッドホンアンプは、あまり良いとは言えません。
全体的な傾向はややカマボコからフラット系で、迫力などはあまりありません。
ざらついているような、もやがかかっているような感じで、見通しが悪い。解像感が低いと言ってもよい。特に、鳴らしづらいヘッドホンでは顕著です。テスト時は主にAKG K701を使用しましたが、全くそのポテンシャルを発揮できません。
ヘッドホンアンプはオマケ程度に考えた方がよいでしょう。後述のようにDACとしては優秀なので、このUD-301を単体DACとして使い、ヘッドホンアンプは別途用意するのが得策です。
なお、ヘッドホンアンプのゲインが低く、かなりボリュームを上げないと最適な音量になりません。能率の良い日本メーカーのヘッドホンでも11時くらい、前述のK701では12時から1時くらいまで回さないといけませんでした。細かい調整が効くのは良いのですが、ゲインが高めにできている単体ヘッドホンアンプとは使用感が違います。
単体DACとして…
本気は単体DACとしてはかなり優秀です。筆者のスピーカーシステム用のリファレンスDACとして君臨しています。
全体的にはわずかにピラミッド系です。色付けのようなのをほとんど感じませんが、ほんの少しウォーム系に感じます。
電源がしっかりしているためか、余裕のようなものが感じられます。特に低音はしっかり鳴るが締りが良い。全体的にも腰が据わっており、どっしりしている感じで、懐が深い。それでいて、解像感は微塵も損なわれていません。ダイナミックでクリア。
しかし、筆者がこれをリファレンスにしている最大の理由は、その空間表現の良さによるものです。
音場が広く、スピーカーよりひと周り大きいような音場が大抵のスピーカーで得られます。さらに、定位感は抜群です。定位感の良いスピーカーをを組み合わせた場合、本当にそこにいるかのような、「存在感」とさえ言える定位が得られます。
筆者は他のDACも複数所持していますが、このように空間表現に優れるものは他にありません。このUD-301より高価なMojoですらも、繊細さでは勝る部分こそあれ、そういった面では劣っています。
とにかく、DACとしては文句をつけ難いほど良いと言えます。Referenceシリーズの名の通り、リファレンス機器にするのに十分なポテンシャルがあります。プロ用機器も手掛けるティアックの面目躍如かもしれません。
音について まとめ
ヘッドホンアンプはオマケ程度です。
反面、DAC自体は素晴らしい。据え置きの特権である、トランス式電源内蔵の余裕が十二分に感じられます。ACアダプタ式の機器とは一線を画する音です。
機能性・操作性
操作性や機能性のレビューです。
機能性
機能性は十分に高い。自分で切り替えられる入力切替はもちろん、前述のようにアナログ出力のボリューム連動等も切り替えられます。ヘッドホン出力は常にボリューム連動なのも地味にストレスフリーです。
また、アップサンプリング機能もあります。おそらくは入力データのサンプリング周波数を偶数倍(2倍、4倍を選択式)して、元のデータを補間し、高いサンプリング周波数のデータとしてDACに入力する機能だと思います。ダイナミックレンジは最大限に発揮できそうですけれども、プリエコーが付いたりして再現性が下がる気がします。まあ、各人の思想や音の好みで使えばいいと思います。DENONのAL32と違ってON/OFFできるものなので、付いていて損はないでしょう。
操作性
操作性は良好。機能が多くないので、操作が難しいということはないでしょう。また、誤操作を誘発するような配置等ではありません。
難点は、ボリュームのフィーリングが悪いことです。ボリュームの回転が非常に軽く、軟弱な質感です。しかし、無限回転式でないことは好感が持てます。
さらに付け加えるなら、アナログ出力の方式変更スイッチを前面に付けて、操作しやすいようになっていれば最良かと思います。しかし、このスイッチはあまり操作しないので、今のままでもあまり不便には感じていません。
その他
分解
分解して中身を軽く見てみましょう。まず、サイドパネルを外すと…
警告表示が現れます。電源内蔵型なので、100Vで感電する可能性があります。十分に注意しましょう。それにしても、このシールをテキトーに貼った感じとか、分解し始めたら出てくる警告表示など、ツッコミどころが多い。
写真左に見えるネジを左右分、合計2本外すと、トップカバーが外せます。トップカバーを外すには少しコツが要り、カバー後端を持ち上げながら、そのまま本体後ろ方向にスライドする感じです。
トップカバーを外した状態が次の写真です。
大量の電解コンデンサと、自慢のトロイダルトランスが鎮座しています。
裏返しでマウントされている基板が2つありますが、左側のものがヘッドホンアンプ基板、右側がUSB入力基板です。
次の写真は、特にメインの部分をクローズアップしたものです。
本当にDAC部分はデュアルモノーラルであることが確認できます。高価なオペアンプのMUSES 8920すらも2つ使われています。しかし、バランス出力したいからデュアルモノーラルにしたのか、デュアルモノーラルのオマケでバランス出力できるのかは謎です。
(補足:バランス出力は1チャンネルあたり、ホット側とコールド側に2つのバッファアンプが必要なので、オペアンプやデジタルボリュームICなどの2回路入り素子が左右分で2つ必要で、必然的にデュアルモノーラルになります。)
MUSE 8920以外のオペアンプは、確認できる限りではほとんどTIのNE5532Aが使われているようです。実にベーシック。
小さい表面実装でない電解コンデンサは全て100μFで、日本ケミコン KMGと、サン電子工業 SUNCON(シリーズは不明)が混在しています。どのようにKMGとSUNCONを使い分けているのかは不明です。
電源ブロックコンデンサはメインの正負電源用がKMGで、その他の片電源用がJAMICONです。容量は全て4700μFで、ずいぶん多めな気がしますが、デジタル回路は電源のリプル耐性が低く多めにせざるを得ないのかもしれません(これは予想ですが)。
JAMICONは台湾メーカーで中華系コンデンサですが、かなりの実績と歴史があるまともなものですので、心配はいらないと思います(中華コンデンサはパクりや低品質なものはもちろん、製造元が不明だったり公式サイトすらない会社だったりして、修羅の国だそうです)。
外装部品
次の写真は、サイドパネルとトップカバーの裏面を写したものです。
一部が切削加工されており、他の部品との複雑な取り付け具合に妥協がありません。部品自体もアルミで肉厚ですし、これだけ見ても満足できるほどです。
総評
無骨だが緻密な外観で、素晴らしい音のDACです。ただし、ヘッドホンアンプに期待してはいけません。
コストパフォーマンスが良いかと言われると、とても良いと言えるでしょう。ポータブルとはいえ、はるかに高価なMojoに音で勝っている部分が多くあります。アルミの外装も素晴らしい。
機能性などに関しては、アナログ出力を固定・ボリューム連動と切り替えられるのが便利です。通常は固定出力で使い、パワードモニタースピーカーなどを使う際には、ボリューム連動にして使えます。事実、Tannoy REVEAL 402は、そのように接続して使っています。
使いにくい部分があるなどの弱点がほぼないので、誰にでもオススメしやすい。ある程度手頃な価格で据え置きのDACが欲しいならかなりオススメですが、すでに生産終了しているかもしれません。少なくとも、ティアック公式のストアからは消えています。公式ページを見る限り、まだ細々とサービスは続いているようですが…
本記事の内容は以上です。
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