STAX SRS-3100 (SR-L300+SRM-252S) のレビューです。
STAXのイヤホン型でないイヤースピーカーで最も廉価なセットです。値段は税抜67,500円。最も安価なイヤースピーカーのSR-L300と、現在単品では販売していないドライバーユニット(専用アンプのことです)のSRM-252Sがセットになっています。
単体で売っている最も安価なドライバーユニットのSRM-400Sでも税抜11万円ですから、入門にはこのSRS-3100を買うほかありません。
ちなみに、単品販売しているドライバーユニットは異常にデカいので(なんと最小でもハーフサイズ、スピーカー用アンプを前から見て半分にした大きさです)、デスク上のみでオーディオシステムを組みたい場合、選択肢はありません。その場合も、このSRS-3100で妥協することになるでしょう。
イヤースピーカーの名の通り、本当にスピーカーのような聴き心地です。さらに表題のように、逆に不自然に思えるほど自然な音を奏でます。
外観・仕上げ等(イヤースピーカー)
外観のレビューです。まずはイヤースピーカー本体から。
全体
まあ、なんというか、一目でそれとわかるデザインですよね。むしろ、この変なデザインを求めてSTAXイヤースピーカーを買うフシもあります。そういう意味では、上位機種は普通のヘッドホンと同じような見た目で、魅力の3割くらいを失っているような気がします。
仕上げなど
仕上げはうんざりするほどプラスチックで、完全に無塗装です。しかしデザインが物々しいためか、安っぽくはない気もします。
側面
側面。誰がどう見ても虫カゴです。音の放出を邪魔しないようにしつつ、指やその他のものが入り込まないようにデザインしたのでしょうが、それは捕らえた虫を逃さないようにしつつ通気性を確保するという、虫カゴとほとんど同じ機能です。つまりは収斂進化。まさか虫カゴをモチーフにしたということはないでしょう。
せめて四つ角に大きめの丸みでもついていれば、虫カゴとは言われなかったかもしれません。
このケース部分は、左右で全く同じ部品です。ケーブルを出す部分が上下に付いており、使わない方(上になる方)にシールが貼ってあります。
カゴの奥に見える発音体には、キラリと光るアクセントのようなものがあります。これは見た目を考えてのことなのか、それとも必要な金属部品がたまたまアクセントになったのかは不明です。
上面
上面。左右を繋ぎつつ側圧を発生させるスプリングと、ヘッドバンドがあります。
スプリング部分も当然プラスチックです。金属のものよりソフトな弾力。
ヘッドバンドは布。AKGに似た構造ですが、こちらは非常に柔らかく、頭の形に完全フィットします。大きさの調整はこのヘッドバンドを動かして行うのですが、それが無段階で、AKGのように勝手にフィットするようにもなっておらず、ずれやすい。そこはあまり便利ではありません。
STAXのロゴは印刷の類でしょうが、マスキングして塗装したような厚ぼったい感じです。パーティングラインに重なっているのがなんとも言えないところ。
イヤーパッド奥
イヤーパッドを外したところ。ゴミよけのネットが装着されており、その奥に金属メッシュがあります。金属メッシュの奥にはすぐに発音体があるので、強く押してはいけません。
このネットは交換用部品として単品発売されており、自分で交換できます。
外観 総評(イヤースピーカー)
非常に個性的な外観です。虫カゴ。これを許容できるかは人によるでしょうが、持ち運べるものでもないので、装着した状態を見られることは同居人以外にはないでしょう。その性質上、見た目をあまり気にせずに買えるものではあります。
筆者は変なものが好きなので、存在を知った瞬間から見た目だけで欲しいと思っていました。
外観・仕上げ等(ドライバーユニット)
次は、ドライバーユニットの外観です。
前面
こちらは非常にシンプル。いかにもヘッドホンアンプというサイズ感と質素な雰囲気があります。
フロントパネルはシルバーで、カラーバリエーションはありません。
ボリュームはスイッチ付きのタイプです。反時計回りに回しきると電源がオフになります。ツマミがかなり小さく、あまり操作性が良いとは言えません。
ヘッドホンアンプでありがちな、押出成形のケースに前後のパネルが付いているものに見えますが、実は全く異なる構造をしています。具体的には、板金加工のアルミシャーシ(タカチのMBシリーズのような)の周りに押出成形のカバーを取り付けているという具合です。前面パネルも単なる外装部品です。
仕上げなど
外装の材質は全てアルミで、アルマイト仕上げです。
印刷はこれまた厚ぼったいような感じ。これはアルコールに溶けるので、アルコール類で拭いてはいけません(実証済みです)。
背面
背面。入出力端子とDCジャックがあります。この背面が、前述のシャーシ構造を裏付けています。
入出力は左右でそれぞれ直結しており、後段に繋いだ機器とこのドライバーユニットが並列に接続されるようになっています(よって出力が「パラレルアウト」になっているわけです)。このような接続方法は、昔ながらのプリメインアンプにあるテープ出力と同じです。
入出力端子は直結しているので、入力と出力が逆でも問題ありません。
入出力端子は表示の通り、左の2つが右チャンネル、右の2つが左チャンネルです。これがやや間違いやすく、例えば右チャンネルの入出力に入力の左右チャンネル分を挿し、右からしか音が出ないという事態になりやすい。これは購入直後は起こり得ないでしょうが、しばらく経ってシステムの入れ替えなどをして、また戻そうとしたときなどに起こります。慣れている機器だと思って、後ろを見ずに手探りで配線して、間違います。十分に気をつけましょう。
電源入力はセンターマイナスです。間違ってセンタープラスの電源を挿すと、内部のヒューズが飛びます(やらかして修理するハメになりました)。しかもヒューズははんだ付けしてあり、ワンタッチでは交換できません。
内部は高電圧なので(バイアス電圧は580V)、背面にある「感電するから分解するな」という旨の警告表示がバカになりません。
背面の下側中央あたりに足のようなもの(インシュレーター)が見えますが、これは筆者が自分で貼り付けたものです。最初から付いている足はスポンジで軟弱なので、制震性能が高いものを付けてみました。その際、もとの足をよけて付けたらこうなったわけです。ちなみに、スポンジ足もチラと写真に写っています。
外観 総評(ドライバーユニット)
いかにもヘッドホンアンプという外観と大きさです。こちらは特に面白みがありません。
付属品など
付属品は次の3つ。ただし、イヤースピーカーに直付けのケーブルをここに含めます。イヤースピーカーのケーブル以外はドライバーユニットの付属品です。
- ケーブル(イヤースピーカー本体に直付け)
- ACアダプター
- RCAケーブル
順に説明します。
ケーブル
イヤースピーカーとドライバーユニットを接続するケーブルです。きしめんとすら言えない超幅広のケーブル。パッパルデッレ(パスタの一種です)とでも言えばよいでしょうか。
芯線はかなり細いようで、非常にしなやかですが、それなりに重さがあります。気になるかどうかで言えば、やや気になるという感じ。普通のケーブルとは使い勝手がかなり違います。
コネクタは5ピンで、STAXイヤースピーカー以外で見たことがないタイプです。大きさはXLRコネクタくらいあります。
ACアダプター
ドライバーユニット用のACアダプターです。12V 0.5Aの定格出力。センターマイナスです。
出力のわりにかなり重いうえ、無負荷時の電圧が17Vくらいあるので、トランス式の非安定化電源でしょう。センターマイナスに加えて非安定化なので、大抵の機器に流用できません。
ACアダプターがトランス式ということで、こだわりが感じられます。
RCAケーブル
ごく普通の安っぽいRCAケーブルが付属します。写真を撮り忘れるほど安っぽい見た目をしています。
なぜか公式の通販サイトで買えるうえ、税抜2,000円もしますので、実は気合の入ったものなのかもしれません。
音について
音についてのレビューです。
概要
音は極めてナチュラル。本当にオーディオ機器から出ているのかと疑うほどの音です。帯域バランスはややピラミッド型で、リラックスして聴ける雰囲気ですが、露骨に高域が弱いとか低域が強いとは感じないと思います。
ヘッドホンやイヤホンにありがちな窮屈な感じがなく、スピーカーを耳のごく近くで鳴らしているような感覚ですが、ヘッドホンらしいシャープさや解像感は感じられます。
聴感上の周波数特性と音場感は次の図の通り。
この図の詳細はこちら。
以下は詳細な説明です。
周波数的な特徴
低音域
低音は少し多めに感じます。一般的にコンデンサ型は低音が少ないなどと言われていますが、少なくともこの機種ではそのようなことはないと思います。
しかし、問題は低音のバランス感ではありません。どうにも低音が柔らかいというか、ブヨブヨしたような雰囲気があります。例えばコントラバスは、巨大な木製の筐体に弦の振動が伝わり低音を出すので、木が振動するソリッドな質感があります。このイヤースピーカーでは、どうにもそのソリッドな質感を再現できていない感じがあります。コントラバスの裏面をセーム革かなにかに張り替えたら、こんな音になりそうだ、という具合です。実際にそんなことをすればまともな音量は出ないでしょうが、イメージはそんな感じです。
もちろん、全体的には非常にナチュラルなので、中高域を邪魔しない程度のものではあります。小型のバスレフ型スピーカーの低音が気にならない人には、特に問題のない低音だと思います。密閉型やパッシブラジエーター型のスピーカーが好きな「ソリッドな低音マニア」の人にとっては、耳につく低音かもしれません。
この低音の問題は、ドライバーユニットの貧弱さから来ている可能性もありますが、検証できないので断言はできません。
中高音域
中高域は非常にナチュラル。あまりに自然なので、こんな音だ、と表現しづらい。艶感がどうとかそういう次元ではなく、音源の中高域が全部そのまま出てきているような感覚です。
それゆえか、特にボーカルなどは、マイクの存在が感じられる場合があります。良いヘッドホンの場合、ボーカルが生声のように感じるものもありますが、それすらも超越して、マイクで録音した声として感じるわけです。これを一度味わうと、「原音再生」なることばがいかに安っぽいかを知ることができます。そして同時に、オーディオ再生は突き詰めると音源次第という、至極当然の真理をつきつけられます。
音場感・定位感
音場は非常に広い。これがスピーカーのような音に感じることの一助になっているかもしれません。
定位は言わずもがな。極めてナチュラルな中高域が合わさり、シャープに音の位置が決まってくる感じです。
音量・鳴らしやすさ
通常のアンプに接続できないので、この項目は評価できません。
音について 総評
非常に自然な音です。それこそ不自然なほどに。これは、普通のヘッドホンでも十分に自然だと感じ、その音に慣れているわけですが、このイヤースピーカーはそれをはるかに凌駕する自然さだ、ということでしょう。
透明感のある音という言い回しもありますが、それで言うと「完全に透明な音」などと言いたくなる音です。
難点はやはり低音です。やや多めに出るには出るのですが、押し出し感みたいなものが足りません。このあたりは通常のダイナミック型の方が優れているように感じます。
装着感
装着感は、四角い見た目に反して良い方に寄っていますが、手放しで褒められるほどではありません。
イヤーパッド
イヤーパッドは非常に柔らかい合皮で上質な雰囲気がありますが、いかんせん薄い。筆者が所持しているヘッドホンの中でも、合皮の中にクッションが入っているタイプの中では、最も薄いと思います。実測で1cm未満の厚さしかありません。
これにより、側頭部の形状にフィットする能力が乏しく、イマイチ快適とは言えない感じです。これは音にも影響があり、しっかりフィットせずに隙間が空いていると、低音が強くなります。
このイヤーパッドは最下位機種だからこうなのであって、上位機種では露骨に良いイヤーパッドが付いています(上位になるほど分厚くなります)。どうしても気に入らなければ、SR-L500やL700用のイヤーパッドに換装するのも手です。上位機種もハウジング部分は同じ部品なので、ポン付けできるはずです。SR-L300Limitedなるモデルでは、L300の発音体にL500のイヤーパッドが付いていたようですから、組み合わせが悪いということはないでしょう。
イヤーパッドの耳が入る部分は長円形で、長手方向に83mm、幅が42mmです。奥行きは前側が14mm、後側が18mmです。やや奥行きが浅い気がします。よほど耳が寝ている人でなければ、本体に接触してしまう可能性が高い。
ヘッドバンド
ヘッドバンドは前述の通り、柔らかい布でできているので、頭頂部の形に完全フィットします。もちろん、頭頂部への攻撃力は皆無。
これも前で述べていますが、ヘッドバンドの調整部が無段階で、使いやすくはありません。AKGと似たような構造ですが、バネがあるわけではないので、ただ無段階で調整できるだけの方式です。スライドする部分がゆるめなのが問題で、装着していると勝手に下がってくることがあります。
側圧
側圧はやや弱めに感じます。すごく弱いというほどヘナヘナではなく、しかし決して強いとは感じません。スプリングがプラ製なので、使っていればすぐに馴染んできます。
装着感 総評
装着感は良いとは言えますが、やはりイヤーパッドに難があります。不快というほどではないと思いますが…
しかもこのイヤーパッド、合皮の耐久性がかなり低く、加水分解しやすい。困ったものです。柔らかい合皮は耐久性が犠牲になっているのかもしれません。昔のヘッドホンは硬めの合皮でしたが、未だに原形を保っています。
携帯性
携帯は不可能と言って差し支えないと思います。
持ち運びしやすさ
本体がかなり大きいうえ、折りたたみなどは当然なく、しかも繊細な構造で衝撃に弱いらしい(説明書より)。さらにケーブルもかさばりやすい。持ち運びはほとんど不可でしょう。
そうとはいえ、たかがヘッドホンの大きさですので、持ち運ぶこと自体はそう難しくありません。その場合は衝撃に十分気をつけるべきでしょう。持ち運んで、電車などで使うのは無理があります。
外部遮音・音漏れ防止
外部からの音を遮断することは全くできません。音漏れは100%です。自分の方にやってくる音と漏れる音が完全に同じです。音漏れすらとても良い音です。
総評
非常に自然な音のヘッドホンです。自然な音を通り越して、音源の中高域をそのまま出してくる感覚すらあります。音に関しての難点は低音ですが、小型バスレフ型スピーカーの無理をしている低音程度の違和感ですので、聴けないというほどではないでしょう。
音以外のあらゆる点が、大抵のヘッドホンよりはるかに劣っています。かろうじて装着感は許容範囲なものの、珍奇なデザイン、取り回しの悪いケーブル、専用のアンプ(ドライバーユニット)が必要、衝撃に弱い、など。とにかく音に全てを割り振って、それ以外はあまり考慮しなかったようにすら感じられます。ハイエンド界隈は音以外の全てを犠牲にしたものが多い気がしますが、その片鱗を味わえます。
特にボーカルものをメインで聴く方にはオススメですが、録音やミックスが悪い音源を多く持っている場合は注意が必要です。とにかく中高域が鮮明なので、音源の粗が露骨になります。
~蛇足~
最近はレコードが盛り返してきたという噂もありますので、このような音の良い再生機器もセットで流行ったりしないかなァなどと思っていますが、難しそうです。そもそもSTAXは「わかっている人」が指名買いするものですかね…
それにしても、再生機器はあまり注目されていない気もします。レコードはCDと比べて低音寄りで、大型スピーカーで鳴らしてナンボというのが筆者のイメージなので、レコードだけが流行ってオーディオが依然として下火の現状は気持ち悪く思えます。
本記事の内容は以上です。
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