アンプ・DACアンプ(スピーカー)

Pioneer A-535の修理・レビュー

パイオニアのアンプ、A-535の修理とレビューです。

行きつけのハードオフでサルベージ。当然ジャンク品でした。ジャンクの症状は、ダイレクトモード以外で音が出ないとのこと(この時点でオチは見えていますが…)。価格は強気の税抜3000円でしたが、かつて御三家と言われたパイオニアのものですし、こんなもんだろうと思い買ってきました。

80年代末期のエントリーモデルのようです。非磁性体化を追求したり、ハニカムを随所に取り入れて高剛性化するなど、あまりやらないが効果がありそうな凝り方をしているアンプです。また、ネット上に情報がほぼない謎のアンプでもあります。

※ 本記事で言及されるスペック等の情報は、オーディオの足跡様の当該ページに準じています。というか、それしか情報がありません。

[更新情報]
・2022/10/01 回路図の誤りを修正、それに伴う文の変更

修理

修理について記述しています。

当初の状態

これが購入当初の状態です。

当初の状態 正面
当初の状態 後面

いつも通りホコリだらけです。本体が黒いので、余計に目立ちます。

とりあえず、カバーを開けて中を見ます。

開腹写真

中もホコリまみれです。ハニカム型のヒートシンクが目を引きます。また、90年代目前とは思えないほどケーブルが引き回されており、70年代のアンプみたいな雰囲気があります。

ダイレクト時以外に音が出ないという故障内容を見るに、著しく故障はしていないと思われますが、とりあえず分解して掃除します。このときはまだ、その原因はスイッチの接点不良なのではないかと思っていました。

分解

分解するには、まず顔のアルミ部品を剥がします。その内部がネジで留まっているため、この作業は必須です。普通はプラ部品とアルミ化粧板が同時に外れますが、これは特異です。

このアルミ部品を外すには、底面のネジを外し、上下のツメを解除します。

顔を剥がす

これで、プラ部品が外せますが、メイン基板につながっているケーブルを外す必要があります。コネクタは引っ張ると解除されるタイプです。コネクタの上部をラジオペンチ等で引っ張ると解除できます。
補足:この時代のコネクタは、引っ張って解除するもの、押して解除するもの、力で押して抜き挿しするもの、あるいはフタのような部分を外すと解除されるものなど、非常に多くの種類があります。

次の写真の、緑色の電解コンデンサに挟まれている部品がコネクタです。サイズ違いの同じコネクタがいくつかありますが、外し方は同じです。また、ケーブルの向きを間違えないように、写真を撮るかマジック等でしるしを付けましょう。このタイプは反対向きでも接続できてしまいます。

コネクタ部

あとはネジを外せばプラ部品が外れます。ネジが意外に多いので注意。また、これにもツメがあります。

加えて、次の写真のようにリモート式のスイッチがあるので、これにも注意が必要です。

正面プラ部品を外す

まずは、この正面部品をさらに分解していきます。

これが裏面に装着されている基板です。ネジを外して爪を解除すれば、簡単に外れます。

正面基板

外したものがこれ。

正面基板 表面

ボリュームやスイッチがずいぶんと小型です。特にメインボリューム(画像右端のボリューム)がここまで小さいことはあまりありません。ボリュームは大きいほど誤差が少なく特性が良いとされています。

ともあれ、このスイッチ類を全て外し、分解掃除します。詳細は後述。

次は本体側です。

本体側

まずは右端にちょこんと付いているフォノイコライザー基板を外します。これはプッシュリベットで付いています。押し込んだら先が広がって固定されるアレです。

フォノイコ基板

フォノイコはオペアンプ式です。トランジスタが3つくらい付いていますが、MCヘッドアンプと思います(確かめてはいません)。このようなハイゲイン・低雑音のアンプが欲しい場合、ディスクリートのシンプル構成の方が簡単です。

MM・MC切替用のスイッチがありますが、これもやはり掃除します。

あとはメイン基板です。まず、裏のカバーを外します。

裏のカバー

外すとこう。スピーカー出力などのケーブルが這っています。この部分のネジを外せば、メイン基板やヒートシンクを外すことができるようになります。

裏カバーを外したところ

そして、シャーシからメイン基板やトランスなどを外しました。主要部分はワイヤラッピングなので、外さないことにしました。次の写真を見ればわかると思いますが、分解した状態での取り扱いが難儀です。メイン基板・出力基板・トランス・背面パネルが一体になっているので、移動が面倒です。

分解後

各部を清掃し、スイッチ類やリレー、入出力端子を取り外しました。また、基板のはんだ付けで気になる部分は修正しておきました。

スイッチ類やリレーの分解・洗浄

スイッチ類やリレーの分解および洗浄を行います。まずはスイッチから。

これが今回のメニューです。スイッチで回路を切り替えるだけの完全アナログアンプなので、機能が多いとスイッチも多くなります。

洗浄するスイッチ

これを全て分解し、接点を確認します。

これが分解した写真です。特に小型スイッチはやたら凝った構造をしているので、部品点数が多く面倒です。

各スイッチ分解

そして、接点は次のようになっていました。

入力切替・出力切替スイッチの接点
小型スイッチの接点

見事に黒々としております。導通しないわけではないでしょうが、切り替え時などにガリがありそうです。

これを全部磨きます。綿棒やつまようじにピカールをつけて磨きました。その後、食器洗剤で洗いました。

磨いて洗浄後

あとは元通りに組み立てて終了です。

リレーの接点磨き

ヴィンテージオーディオ界隈では必須とされるリレー磨きです。出口の部分に付いている接点なので、必ず整備します。

外した状態はこれです。ごく普通のオムロンのリレーです。

リレー 整備前

カバーにビニールテープが巻いてあります。こうすると、リレーの駆動音が「ペチッ」という感じになります。通常状態ではケースが振動するので、「パシャッ」という感じ。

カバーを取るとこうです。

カバー除去後

やはり、接点は黒々としています。

リレーは接点間の隙間が小さく磨きにくいのですが、つまようじにピカールをつけて何とかします。

磨いたものがこれです。

磨き後

あとはカバーを戻して終了。ビニールテープは新調します。黒いビニールテープがなかったので、透明のものを貼りました。

リレー 整備後

入出力端子の洗浄

入出力端子を洗浄します。

これが洗浄前です。

入出力端子 洗浄前

薄めたサンポールに漬けて洗浄しました。

洗浄後はこう。比べればキレイになりましたが、これだけ見てもよくわかりません。つや消し仕上げなのが問題です。

入出力端子 洗浄後

組み立て・動作確認

組み立てて動作確認します。

まずは電源を投入して、DC漏れを確認しましたが、特に問題はありません。また、通常ならアイドリング電流を見るところですが、バイアス回路がIC化されており調整不要のようです。終段トランジスタの異常発熱もありませんし、このままで問題なさそうです。

音出し確認すると、音が出ません。試しにダイレクトをオンにすると、正常に音が出ました。どうやら、スイッチ類が原因で問題が起きていたわけではないようです。なにかヒントがないかと思って当時の製品画像を見ていたら、背面の”Adaptor Out”と”Adaptor In”なる入出力端子に見覚えのないショート用部品が付いています購入当初の画像にあるように、そのようなものは付属していません)。試しにこれらをケーブルで接続して音を出してみると、これが正解で、普通にダイレクト以外でも音が出ました。つまり、最初から故障しておらず、単に端子間のショート部品の欠品だったというアホみたいな結末となりました。まあ、どうせスイッチは掃除するので結果は変わらないのですが…

拍子抜けの結末でしたが、これにて修理完了です。

アンプ部の回路図

このアンプについて情報が少なすぎるので、パワーアンプ部の回路図を起こしてみました。

何度も確認したわけではないので、間違っている可能性が高い。特に抵抗の値はだいぶ怪しいと思います。おおまかな構成は何度か確認したので、概ね正しいはずです。

パワーアンプ部 回路図

画像をクリックもしくはタップで拡大できます(当サイトに掲載の画像は全てできますが)。画像の拡大表示をやめる場合は右上のバツマークを押してください。より鮮明に見たい場合は、PDF版もあります

全体的には、2段差動の後にエミッタ接地をプッシュプルとし、SEPPで出力しています。

初段の差動はPNPデュアルトランジスタを使用しています。2段目の差動もPNPで、こちらのエミッタ側にも定電流回路が付いています。2段目の正相出力側から利得1のカスコード用いて逆相とし、PNPエミッタ接地に繋いでいます。エミッタ接地はPNPとNPNのプッシュプルにすることで、利得を稼いでいるように見えます。

出力段のバイアスはICで作っています。ノン・スイッチング・サーキットタイプIIなる名前がついており、疑似A級タイプでしょう。出力に応じてバイアスを変化させ、A級と同じような音が高効率で出せるとする方式です(実際にそうであるかは別です)。出力はごく普通に2段ダーリントンです。

修理 総括

スイッチ不良かと思いきや、実際はショート部品の欠品による問題でした。こういう周辺機器の欠品による問題はわりとよくあるので、まずはそういう方向から確かめていくのがよいのかもしれません。

外観・仕上げ等

外観や仕上げについてのレビューです。

前面

前面

前面。各種操作部があります。

ボリュームノブは右端に付いているタイプです。出力と入力の切替ツマミがその左にあり、子分を連れたような格好になっています。

比較的大きい3つのツマミ以外は全てプラ製で、高級感はありません。

ΩPIONEER時代のロゴがキマっています。パイオニアはこの時代のロゴがイイ。

背面

背面

背面。入出力端子があります。

スピーカーターミナルは大型で、万力のようにケーブルの芯線を固定するタイプです。裸線の場合は非常に使いやすい。バナナプラグには対応していません。

ネジは全て銅メッキです。

電源ケーブルは非常に太く、プラグも巨大です。ヤマハの上位モデルに付いているGTケーブルより太いバケモンです。このようなエントリーモデルにおいて、何がそこまでさせるのでしょうか。

電源ケーブル

底面

底面

底面。ハニカム構造でプレスしたシャーシが特徴的。このシャーシ、分解時に手でひねってみましたが、びくともしないほど超強靭です。そこまでする必要はあるのか。

インシュレーターはプラ製ですが、なにかハニカムの裏打ちがあります。

外観 総評

正面は普通のデザインで安っぽい部分もありますが、底面やスピーカーターミナル、電源ケーブルなどは過剰に物量投入されています。このギャップがバブルらしくて面白い。

音について

音についてのレビューです。

詳細

全体的にはフラットに感じますが、本当に少しだけピラミッドバランスに感じないでもない。

まず、聴いてすぐに感じることは、とにかく音が瑞々しい、ということです。鮮度が良いというか、ダイレクトに音を押し付けてきます。それが祟り、ソースによってはやや刺さると感じる場合もあります。微細音の再現性がよく、埋もれていた音をしっかり鳴らしてくる感じです。安いヘッドホンから高いヘッドホンに乗り換えたときに感じるアレに近い。

低音は伸びと締まりがすばらしく、芯がしっかりしています。この低音と上記の瑞々しさを加えて、正々堂々、という音です。近年のパイオニアのアンプには「凛」という惹句じやつくが付されていましたが、まさにそのような雰囲気があります。

正当な音を押し付けてくるタイプですが、しかし、自己主張が強いとは感じません。武士や職人のような、地味ながら実力を持つ者の気配が感じられます(そのような職人によってチューニングされたということ…?)。

また、何が作用しているのかはわかりませんが、場のクリア感、あるいは全体のクリア感があります。全体の見通しが良い。1つのパートに注目したい場合、頑張ってそのパートだけ聴くのではなく、すっとそのパートだけ入ってきます。このような音のアンプはあまり見たことがありません。

音場感はよい。音像はやや前に出る感じもあります。

まとめ

瑞々しい音で、凛、という表現が似合うアンプ。エントリーモデルとは到底思えないほどの堂々としたサウンドです。

発売当初の価格は39800円らしいのですが、現代にその価格でこの音が手に入るなら、最もコストパフォーマンスの良いアンプとして崇められることでしょう。

このアンプについて、安くて良い音がしたという情報すら聞かないのは、かなり不思議です。隠れた名機なのかもしれません。

機能性・操作性

機能性や操作性についてのレビューです。

機能性

機能性は比較的良い。通常のプリメインアンプに必要な機能に加え、ダイレクトモードやREC OUT切替機能、MM・MCのカートリッジに両対応、ミュート機能、サブソニックフィルターがあります。

ダイレクトモードはその名の通り、トーンコントロールなどの諸々の経路をパスし、入力端子からダイレクトにフラットアンプへ入力するモードです。トーンコントロールや左右バランス、ラウドネスやサブソニックフィルターに至るまで、あらゆる”音を改変せしめるもの”を無効化します。

REC OUT切替は、OUT端子にパスする入力の種類を選べる機能です。現在再生しているソースに指定することや、特定の入力を名指しで出力できます。出力しないこともできます。

MM・MCカートリッジに両対応しています。このような安アンプでMCカートリッジを鳴らす人がいるのかはわかりません。

ミュート機能は、そのまま再生音をミュートする機能です。出力リレーを切ってミュートするので、音が完全に聞こえなくなり、あまり便利ではありません(音がかなり小さくなるが聴こえるタイプの方が使いやすいと思います)。

サブソニックフィルターは、レコード再生時に不要な低周波を取り除く機能ですが、あまり使いません。ウーファーがふらつかなくなるので見栄えはしますが、エネルギー感がやや失われる感じがあります。

操作性

操作性は良い。スイッチを押すか、ツマミを回すかの操作しかありません。マイコン式でない”純アナログアンプ”なので、アナログ式のスイッチを操作します。できることもそう多くはありませんし、謎の機能も付いていません。

しかし、90年代目前なのが祟ったか、スイッチのガワやツマミがプラ製で安っぽい。内部のスイッチも小型化が著しく、操作フィールは上々とは言えません(プチプチタイプよりは万倍マシですが)。

総評

やや安っぽい部分もある外観に、異様とすらいえるこだわりを詰めたアンプです。そのこだわりが活きているのか、価格からは想像できない堂々とした音を鳴らします。

安っぽい部分は90年代付近の趣を感じますが、一部の過剰な物量投入によってキワモノ感が増しています。なかなかに独特のアンプです。

本記事の内容は以上です。

COMMENTS コメント

  1. 福谷 より:

    最近、同じくA-535をヤフオクで送料込み3500円で手に入れ、配線図がほしく探しましたがネットで見当たりません、私はカプリングコンデンサーを 通常2.2μ 1.5μなど極性のあるのが使われていますが、極性のないMPコンデンサーに交換して、0.5μのフイルムコンを並列に入れています、電源の10000μなどにも極性のない、1μのコンデンサーを並列に入れたり、しています
    価格の安いアンプでと思っていましたら、案外よい設計で裏が外れるタイプはほどんど有りません
    メンテナンスが意外と良く 良い音が出るので、気に入っています、 250Wとか出るアンプより、家庭で聞くには、このアンプのほうが良い音がでます

    • モソス より:

      コメントありがとうございます。管理人です。
      A-535を入手されましたか。本記事に掲載の回路図が役に立ったのであれば幸いです。
      入力カップリングコンデンサを交換するのはお手軽かつ効果の高い改造ですね。電源系も音に直結する印象があります。私は無改造主義なので音が大きく変わりそうなことはしませんが、いろいろな楽しみ方があるのは良いとは思います。
      音については、その通りだと思います。魂が宿った「良い音」です。エントリーモデルの価格帯の割に高級なアンプのような雰囲気すら感じ、開発側が届けたい情熱が確かに感じられます。

  2. ふく より:

    ネットでA-535の配線図を探しました、ありました輸出むけで同じデザインで
    す、しかし、ラウンドネスのスイッチだけがありません、回路図を見ますと
    珍しくこのアンプはトーンコントロールが、11時以上にボリュームを回転させると、ラウンドネスとトーンコントロールがパスされ、ストレートの状態になるのですね、確認で入力を非常に小さく入れて、ボリュームを最大に近い状態でトーンコントロールを変化させても、反応が有りませんボリュームのセンタータップにラウンドとトーンが掛けてありました。

    • モソス より:

      コメントありがとうございます。管理人です。
      輸出向けモデルのドキュメントを入手されましたか。同じモデルでも海外向けでは名前が違うことがあるので、簡単に見つからないことがあります。普通は日本名で探しても見つかるんですが…
      ずいぶん特殊な仕様になっているようです。日本向けモデルはソースダイレクト機能とラウドネス切替があるのでそんなに特殊なことはしていなさそうですが、確かめたわけではないので何とも言えません。気が向いたらそのあたりも見てみようと思います。